SNSや掲示板で誹謗中傷されている場合や、悪質な書き込みをされているものの、書き込んだ相手が分からない場合には、まずは相手を特定するために発信者情報開示請求(発信者情報開示命令の申立て)を行い、相手を特定する必要があります。
この手続きを弁護士に依頼する場合には、安くはない弁護士費用がかかります。
そこで、本記事では、発信者情報開示請求にかかった費用を相手に請求できるかについて解説します。
目次
1 発信者情報開示請求にかかる弁護士費用の相場
発信者情報開示請求にかかる弁護士費用は、通常着手金(事件の着手時に支払うお金)と報酬金(事件の成功時に支払うお金)に分かれていることが多いです。
金額は弁護士事務所ごとに様々ですが、着手金・報酬金それぞれおおよそ20~30万円程度が目安です。
開示請求にかかる費用の詳細については、以下のコラムで詳しく解説しています。
2 発信者情報開示請求の弁護士費用は相手に請求できる?
発信者情報開示請求を行って投稿者が特定できた場合、その投稿が自身の権利を違法に侵害したものであることを理由に、相手に対して不法行為に基づく損害賠償請求を行うことができます。
そして、不法行為に基づく損害賠償請求を行う場合には、以下のとおり、裁判例において、相当な額の弁護士費用については相手に請求できるとされています(最高裁昭和44年2⽉27⽇判決・⺠集23巻2号441⾴)。
弁護⼠費⽤は、事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものに限り、右不法⾏為と相当因果関係に⽴つ損害というべきである。
裁判実務上は、判決で認められた損害額(認容額)の1割程度の弁護士費用の請求が認められることが多いです。
しかしながら、誹謗中傷の投稿については、損害額(慰謝料額)が数十万円程度にとどまることも多いため、その1割程度の弁護士費用の請求しか認められないとなると、結果として弁護士費用の方が高額になってしまうといったことになりかねません。
他方で、発信者情報開示請求の手続きは専門的であり、個人で行うことが困難であるといったことも考慮し、裁判例の中には、以下のように、発信者情報開示請求にかかった弁護士費用の全額の請求を認めたケースもあります(東京高等裁判所平成27年5月27日判決)。
発信者を特定するための調査には,一般に発信者情報開示請求の方法を取る必要があるところ,この手続で有効に発信者情報を取得するためには,短期間のうちに必要な保全処分を行った上で適切に訴訟を行うなどの専門的知識が必要であり,そのような専門的知識のない被害者自身でこの手続を全て行うことは通常困難である。そうすると,被害者が発信者を特定する調査のため,発信者情報開示請求の代理を弁護士に委任し,その費用を支払った場合には,社会通念上相当な範囲内で,それを名誉毀損と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。
また、全額ではないものの、認容額の1割を超える高額な弁護士費用の請求を認めた裁判例もあります。
他方で、以下のとおり、訴訟提起にかかった弁護士費用と同様の性格であることを理由に、弁護士費用を1割しか認めていない裁判例もあります(東京高等裁判所平成31年3月28日判決)。
この調査費用は,前記(2)の本件訴訟自体の弁護士費用とは異なるとはいえ,それと実質的に同様の性格を有する費用であることに鑑みると,本件記事の投稿と相当因果関係がある損害としては,5万円の限度で認めるのが相当である。
このように、裁判例においても判断が分かれているため、弁護士費用の請求が認められるかについての運用は、実務上確定しているわけではありません。しかしながら、少なくとも弁護士費用の全額の請求を認めた裁判例がある以上、同じ判断が出る可能性もあります。
3 費用倒れを防ぐためには
前述のとおり、開示請求にかかった弁護士費用を相手に全額請求できるかについては、裁判体によっても判断が分かれています。そこで、費用倒れを防ぐためには、相手を特定できた後にすぐ訴訟(裁判)を提起するのではなく、まずは相手方と裁判外で示談交渉をしてみることをお勧めします。相手としても、裁判となった場合には自身の弁護士費用が生じてしまうことや、紛争が長期化すること等を理由に、裁判になることを避けたいと思うはずです。相手の対応を踏まえた柔軟な交渉を行うことで、弁護士費用以上の慰謝料を支払ってもらうことのできる可能性があります。また、裁判外での交渉において、再度自分に関する投稿をしないことを誓約してもらったり、交渉時点で投稿がまだ削除されていない場合には、速やかに消すように要求したりといった、慰謝料以外の条件についても協議することができます。
4 まとめ
発信者情報の開示の手続きは、サイト管理者・プロバイダ双方への開示請求が必要であり、手続きが難解であることから、ご自身のみでは対応が難しく、弁護士に依頼をした方が良い場合も多いでしょう。特に、プロバイダにおいてはログの保存期間が限られているため、早期に開示請求をしないとログが消えてしまい、投稿者の特定が不可能になってしまいます。
当事務所には、東京都内の大手IT企業にて企業内弁護士として勤務した経験を持つ弁護士が所属しており、開示請求により投稿者を特定できた経験も豊富です。問い合わせフォームよりお気軽にお問い合わせください。
