近年、婚姻届を提出せずに夫婦として共同生活を送る「事実婚」が増えてきています。
事実婚をしている場合、法的に内縁関係が成立している可能性があり、内縁解消時に慰謝料や財産分与を請求できる場合があります。
本稿では、法的に内縁が認められる条件や内縁解消時の慰謝料と財産分与の請求方法を弁護士が解説します。
目次
1. 内縁とは
内縁と認められる条件
内縁について、法律上の定めはありませんが、婚姻関係に準ずるものとして、裁判例上、一定の法的保護が与えられています。
法的に内縁が認められるためには、①双方が婚姻の意思を有していること、②婚姻している夫婦同然の共同生活をしていることが必要になります。
①婚姻の意思を有していることを示す事情としては、以下のようなものが挙げられます。
- 結婚式を挙げている
- 婚約指輪や結婚指輪を購入している
- 結納や親族への挨拶をしている
②夫婦同然の共同生活をしていることを示す事情としては、以下のようなものが挙げられます。
- 長期間同棲している
- 家計を同一にしている
- 二人の間に認知した子がおり一緒に生活している
内縁の証拠
裁判所に内縁を認めてもらうためには、証拠が必要になります。
証拠としては、以下のようなものが考えられます。
- 結婚式の写真や領収書
- 婚約指輪や結婚指輪の領収書や現物
- 賃貸借契約書(同居人の欄に「妻(未届)」、「内縁の妻」などの記載がある場合)
- 住民票(二人が同じ住所に登録している場合や続柄の欄に「妻(未届)」と記載がある場合)
- 健康保険証(被扶養者となっている場合)
- 婚前契約書
- 民生委員の作成する内縁関係の証明書
- 戸籍謄本(二人の間の子を認知している場合)
2. 婚姻関係との違い
名字の変更
婚姻届を提出した場合、名字は戸籍の筆頭者の方に統一する必要があるので、一方の配偶者が名字を変更しなければなりません。
一方、内縁関係の場合は、名字を変更する必要がありません。
法定相続人
婚姻関係にある場合、配偶者は法定相続人になりますが、内縁の配偶者は法定相続人となることはできません。
内縁の配偶者に遺産を譲渡したい場合には、遺言書を作成することが必要になります。
親子関係
婚姻関係にある夫婦の間に子ができた場合、父と子の間には当然に法律上の父子関係が生じますが、内縁関係の夫婦の場合、父が子を認知することが必要になります。
関係の解消
法律婚の場合、夫婦の一方が離婚を請求するためには、法定の離婚事由があることが必要です(民法第770条1項)。
また、離婚の効力を生じさせるために離婚届の提出が必要となります。
一方、内縁の場合、例えば、別居するなど内縁状態が解消すれば、法的な内縁関係も解消されたものと評価されます。
ただし、後述するとおり、正当な理由なく一方的に内縁を解消した場合には、慰謝料請求を受けるおそれがあります。
3. 慰謝料請求
不貞行為
内縁関係が認められる場合は、法律婚と同様に、配偶者と不貞相手に対する不貞行為(他者と肉体関係を持つこと)の慰謝料請求が認められます。
慰謝料の金額は、数十万〜300万円程度が相場と言われています。
不貞行為を理由とする慰謝料請求の詳細については、こちらのコラムで解説していますので、ご参照ください。
また、不貞行為を理由とする慰謝料請求をするためには、証拠が必要になりますが、不貞行為の証拠については、こちらのコラムで解説しております。
正当な理由のない内縁関係の解消
正当な理由なく、内縁関係を一方的に解消した場合には、慰謝料請求が認められることがあります。
裁判実務上、「正当な理由」の有無は、法定の離婚事由(民法第770条1項)の有無に準じて判断されることが多いです。
離婚事由の詳細については、こちらのコラムで解説していますので、ご参照ください。
内縁関係破綻の原因が一方の配偶者にある場合
前述した不貞行為や身体的DVなどにより、内縁関係が破綻した場合には、不貞行為や身体的DVなどにより内縁関係を破綻させた配偶者に対し、慰謝料請求をすることができます。
内縁関係破綻の原因が一方の配偶者にある場合の慰謝料については、離婚の場合に準じて判断されますので、詳細を確認されたい方は、こちらのコラムをご参照ください。
請求方法
裁判外での請求
裁判(訴訟)で慰謝料請求をする方法もありますが、裁判の場合、多くの時間と費用を要することから、まずは裁判外で慰謝料請求をする方が多いです。
裁判外での慰謝料請求の方法に法的な定めはありませんが、請求したこと及び請求内容を記録に残すことで、裁判外での交渉が決裂して裁判になった場合に、従前の交渉内容を証拠で提出することができます。
そこで、裁判外で慰謝料請求をする場合には、書面やメール等の記録に残る形で行うのが良いでしょう。
書面の場合は、内容証明郵便という書面の内容を郵便局が記録として残してくれる方法で行うことが一般的です。
裁判上の請求
裁判外の交渉が決裂した場合は、裁判で慰謝料請求をすることを検討しましょう。
弁護士に依頼せずにご自身で訴訟を提起することもできますが、訴訟提起には法的知識や裁判手続に関する知識が必要になるので、弁護士に依頼することをお勧めします。
時効
慰謝料請求の消滅時効は、「被害者・・・が損害及び加害者を知った時」から3年と定められているので(民法第724条1号)、注意しましょう。
時効が迫っている場合には、内容証明郵便等で相手方に請求を行うことで、6か月間は、消滅時効の完成を猶予することができます(民法第150条1項)。
また、裁判上の請求を行うことで時効はリセットされるので(「時効の更新」といいます。
民法第147条1項)、時効の完成を猶予した上で、訴訟提起の準備も進めると良いでしょう。
4. 財産分与
財産分与とは
「財産分与」とは、離婚をした者の一方が他方に対して、婚姻期間中に貯まった財産の分与を請求することができる制度です(民法第768条1項)。
本来は、婚姻関係にある者に適用される制度ですが、裁判例上、内縁関係にある者も上記民法の規定を類推適用し、財産分与が認められています。
財産分与の詳細は、こちらのコラムで解説していますので、ご参照ください。
請求方法
裁判外での請求
前述した慰謝料請求の場合と同様に、裁判外で請求をする方が多いです。
ただし、相手方と協議すること自体が難しい、相手方が協議に応じないことが分かっているなどといった事情がある場合には、後述した調停を申し立てる方法から始めるという選択肢もあります。
調停
裁判外の協議でまとまらない場合や裁判外での協議が難しい場合には、調停の申立てを検討しましょう。
調停とは、調停委員会(裁判官又は調停官1名と調停委員2名)が間に入り、当事者間の話合いを仲介してくれる手続です。
調停委員会が話合いの仲介を行うことから、裁判外での協議より紛争の解決力は高いです。
ただし、あくまで「話合い」ですので、当事者間で合意が成立しない限り、解決することにはなりません。
審判
調停での話合いもまとまらなかった場合、調停は不成立となり、自動的に審判手続に移行します。
「審判」とは、当事者の主張や資料を踏まえた上で、裁判官が結論を出す手続になります。
時効
財産分与請求権の消滅時効は、離婚が成立した日から2年と定められています(民法第768条)。
内縁の場合、内縁を解消した日から2年と解釈されていますので、注意が必要です。
5. まとめ
内縁に関する法的トラブルが生じている場合、内縁関係が成立しているかという法的評価、慰謝料請求や財産分与請求ができるか、仮に請求が可能であるとしてその金額等の法的な判断が必要になります。
ご自身でこれらの法的評価・判断をすることは難しいというケースもあるかと思いますので、そのような場合は弁護士に相談することをお勧めします。
当事務所は、内縁に関するトラブルを多く経験しておりますので、ご相談を希望される方は、問い合わせフォームよりご連絡ください。