「遺贈」とは、遺言によって特定の者に遺産を譲ることをいいます。
本稿では、遺贈の種類や相続・贈与との違いを弁護士が解説いたします。
1. 遺贈とは
「遺贈」(いぞう)とは、遺言によって、遺産の一部又はすべてを特定の個人や団体に無償で譲渡することをいいます(民法第964条、遺贈を行う者を「遺言者」といいます)。
遺贈を受ける者に制限はなく(遺贈を受ける者を「受遺者」といいます)、相続人以外の者に引き継がせることもできますし、個人だけでなく法人や団体に引き継がせることもできます。
遺贈は、遺言によることが必須ですので、民法で定められている要式に従って遺言書を作成する必要があります。
なお、遺言書の書き方については、こちらのコラムで解説しておりますので、ご参照ください。
2. 遺贈の種類
包括遺贈
「包括遺贈」とは、譲渡する遺産を指定せずに包括的に遺贈することをいいます。
例えば、「遺産のすべてを◯◯に遺贈する」、「遺言者の遺産のうち2分の1を◯◯に遺贈する」という内容です。
包括遺贈の場合、プラスの遺産だけでなく、負債などのマイナスの遺産も譲渡されることになります。
受遺者は、遺贈の放棄をすることができますが、包括遺贈の場合、原則として、自身に遺贈があったことを知ってから3か月以内に、被相続人(亡くなった方)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に遺贈放棄の申述を行う必要があります(民法第938条、同915条)。
また、「2分の1を遺贈する」というように割合が指定されている遺贈の場合には、どの遺産をどのように遺贈されるかが明確でないため、他の相続人や受遺者と遺産分割協議を行う必要があります。
遺言書を作成する目的の1つとして、相続開始後の相続人や受遺者間の紛争を予防することが挙げられますが、割合を指定する形の包括遺贈の場合、遺産分割協議において紛争が生じる可能性があることから、割合を指定する包括遺贈ではなく、後述する特定遺贈の方法を選択する方が良いでしょう。
特定遺贈
「特定遺贈」とは、遺贈する遺産を指定して行う遺贈のことをいいます。
例えば、「◯◯銀行◯◯支店の普通預金口座の預貯金を◯◯に遺贈する」という内容です。
包括遺贈の場合と異なり、受遺者は、指定された遺産のみを引き継ぐことになるので、指定されていない負債を引き継ぐことはなく、また、遺産分割協議を行う必要もありません。
また、特定遺贈も放棄をすることができますが、包括遺贈のように放棄に期間の制限はありませんし、家庭裁判所に対する放棄の手続も必要ありません(他の相続人に遺贈を放棄する旨の意思表示をすることで足ります)。
このように、特定遺贈の方が受遺者に負担の少ない方法となるため、実務上、一部の遺産を遺贈したい場合は、割合による包括遺贈の方法ではなく、特定遺贈の方法が取られることが一般的です。
3. 相続・死因贈与・生前贈与との違い
相続との違い
前述のとおり、遺贈の場合、受遺者の範囲に制限がなく、法定相続人以外の者にも遺産を譲渡することができます。
一方、相続の場合は、民法において相続人の範囲や順番が決められているため、民法に規定されていない者が相続人になることはできません。
なお、相続人の範囲や順番については、こちらのコラムで解説しています。
したがって、相続人以外の者に遺産を相続させることはできず、例えば、遺言書に「◯◯(相続人以外の者)に◯◯の不動産を相続させる」と記載したとしても、無効となってしまいます。
なお、相続人に対する遺贈も有効ですが、相続人に対して遺贈をするメリットがないため、相続人には「遺贈」ではなく「相続」を選択するようにしましょう。
例えば、相続人に不動産を相続する旨の遺言がある場合、相続人は単独で不動産の所有権移転登記の手続を行うことができますが、遺贈する旨の遺言である場合、他の相続人と共同して移転登記の手続を行わなければなりません。
また、遺贈の方が相続税が高額になる可能性が高いというデメリットもあります。
死因贈与との違い
「死因贈与」とは、財産を贈与する者と贈与を受ける者(「受贈者」といいます)との間で、贈与する者が死亡した時点で贈与の効力が生じることを合意する贈与契約の一種です(民法第554条)。
遺贈との違いは、遺贈は贈与契約と同様に被相続人の遺言による一方的な意思表示で効力が生じますが、死因贈与の場合は双方の合意が必要であるという点です。
死因贈与は、遺言による必要がないため、口頭での合意も可能ですが、口頭の場合は死因贈与契約が成立していることの立証が難しく、認められない可能性が高いため、死因贈与を選択する場合は、死因贈与契約書などの書面を作成するようにしましょう。
また、死因贈与の場合、受贈者に対し、負担(贈与の条件)を付けることができます。
これを「負担付死因贈与」といいます。
例えば、贈与者の死亡後、贈与者名義の自宅に居住する配偶者の介護をすることを条件に自宅不動産を贈与するという合意は、負担付死因贈与に当たります。
遺贈は遺言により撤回することが可能であるところ、死因贈与も原則として撤回が可能と解釈されていますが(最判昭和47年5月25日)、負担付死因贈与の場合、受贈者が負担を履行した場合には、撤回ができないと解されています(最判昭和57年4月30日)。
生前贈与との違い
「生前贈与」とは、被相続人が生前に無償で自身の財産を譲渡する契約のことをいいます。
生前贈与は、贈与契約(民法第549条)の一種ですので、遺贈と異なり、双方の合意が必要となります。
一方で、死因贈与と同様に、生前贈与は、遺言による必要がないため、双方の合意があれば、遺言の厳格な要式は必要ありません。
遺贈や死因贈与との違いは、贈与契約が成立した時点で(被相続人が亡くなる前に)財産の所有権移転の効果が生じる点です。
なお、遺贈や死因贈与は、贈与税ではなく相続税が課されますが、生前贈与は贈与税が課されるので、生前贈与を選択することで遺贈や死因贈与よりも税金が高額になる可能性が高い点には注意が必要です。
4. 遺贈の注意点
遺言執行者の指定
遺贈する内容の遺言書に遺言執行者の指定がない場合、相続人が遺贈義務者となります(民法第998条)。
例えば、遺言者の預貯金を遺贈する旨の遺言書があった場合、預貯金を受遺者に譲渡する手続は、相続人が行うことになります。
もっとも、相続人としては、遺贈がなければ、本来自身が相続できた財産を受遺者に譲渡されることになるため、手続に協力してもらえないというケースが散見されます。
したがって、遺贈を行う場合には、遺言書において遺言執行者を指定しておくと良いでしょう。
信頼できる遺言執行者を指定しておくことにより、遺贈の手続がスムーズに実現する可能性が高まります。
受遺者が先に亡くなった場合
遺言者よりも受遺者が先に亡くなった場合、受遺者に遺贈する内容に遺言は無効となり、受遺者の相続人には遺贈の効果が生じません。
仮に受遺者が先に亡くなった場合に受遺者の相続人に遺贈したいという意向があれば、「遺言者よりも先に受遺者が死亡した場合には、受遺者の相続人◯◯へ遺贈する」というような遺言の内容としておくと良いでしょう。
遺留分侵害額請求
前述のとおり、遺贈は、相続人以外の者に対しても行うことが可能ですが、その場合、受遺者が相続人の遺留分を侵害した場合には、相続人から遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。
遺留分とは、法定相続人に最低限保障されている相続財産の取得分のことで(民法第1042条1項)、遺留分を侵害されている法定相続人は、遺留分侵害額請求を行うことができます(民法第1046条1項)。
なお、遺留分侵害額請求の詳細は、こちらのコラムで解説しています。
相続開始後の紛争を回避したい場合には、相続人の遺留分を侵害しない内容での遺贈を行うよう配慮すると良いでしょう。
具体的には、相続人に一定の遺産(遺留分相当額)を相続させる内容の遺言書を作成することや生前における遺留分の放棄手続を行うことが考えられます(民法第1043条1項)。
不動産取得税(特定遺贈の場合)
相続人以外の者が不動産の特定遺贈を受けた場合、相続税の他に不動産取得税が生じる点には注意が必要です。
なお、包括遺贈の場合は、不動産取得税は生じません。
5. まとめ
遺贈は、遺言によることになりますので、厳格な要式に則った有効な遺言書を作成する必要がありますし、相続開始後の紛争を防止するために相続人による遺留分侵害額請求がされない内容の遺言書を作成することも重要です。
また、遺贈においては、相続税への対応や不動産の登記が必要になることがあります。
当事務所は、遺言書の作成や遺留分侵害額請求の案件を多数経験しており、また、税理士や司法書士とも連携しておりますので、ワンストップでの対応も可能です。
遺贈に関し弁護士への依頼を検討されている方は、当事務所の問い合わせフォームよりご連絡ください。