相続財産のうち、預貯金や現金は現物による分割が容易ですが、不動産は現物の分割が困難な場合が多く、その分割方法が問題となるケースが多いです。
本稿では、不動産の遺産分割の方法と注意点を弁護士が解説いたします。
用語解説
法定相続人:民法で定められた被相続人(亡くなった人)の財産を相続する権利を持つ人のこと。具体的には、配偶者は常に相続人となり、子・直系尊属(父母・祖父母)・兄弟姉妹が順位に応じて相続人になります。
法定相続割合:民法で定められた法定相続人ごとの相続財産の取り分の割合のこと。
目次
1. 遺産分割とは
「遺産分割」とは、被相続人(亡くなった方)の財産を相続人間で分ける手続のことをいいます。
すべての相続財産につき、遺言で誰が相続するか定められている場合、原則として遺産分割は問題となりませんが、遺言と異なる遺産分割を行うことも可能です。
遺産分割の当事者は、法定相続人です。
相続人の範囲や順位、相続割合は以下のコラムで解説していますので、ご参照ください。
相続人の順番とは?相続順位と相続割合を弁護士が分かりやすく解説
2. 不動産の遺産分割方法
不動産の遺産分割の方法としては、以下のものが考えられます。
①現物分割
法定相続割合に従い、不動産を物理的に分割する方法です(土地の分筆等)。
しかし、建物は現物分割することができませんし、また、土地も現実的に現物を分割することが不可能又は著しく困難であることが多く、実務上、現物分割の方法はほとんど取られていません。
②換価分割
不動産を売却して金銭に換えた上で、法定相続割合に応じて金銭を分ける方法です。
分割が容易な金銭に換えることができる分割方法ですので、相続人全員が不動産の取得を希望しない場合には、有効な方法といえます。
もっとも、不動産の売却に当たっては、不動産業者への売買仲介手数料などの諸費用がかかることがあるため、相場よりも安い金額で分割することになる可能性があります。
特に、土地上に築年数の古い建物が存する場合、建物の解体費用が生じたり解体費用を考慮した上で土地の売買金額が決定されることがあるため、相場よりも大幅に低い金額での売却を余儀なくされることがあります。
また、不動産の買い手が見つからないというケースも少なくありません。
売却相手が見つからないと、不動産が遺産分割未了のまま放置されてしまうことになり、いつまでも遺産分割の問題が解決できなくなるおそれがあります。
なお、買い手が見つからない場合、不動産業者に売却する方法もありますが(いわゆる「業者買取」)、業者買取の場合、相場の7〜8割程度での買取りとなることが多いです。
③代償分割
不動産の単独所有を希望する共有者がいる場合、代償分割の方法を取ることが考えられます。
「代償分割」とは、法定相続人の1人が不動産を相続する代わりに、他の法定相続人に代償金を支払う分割方法のことです。
実務上多いケースは、被相続人名義の自宅不動産(法定相続人らの実家)で同居していた法定相続人の1人が当該不動産への居住を継続したいと希望しており、他の法定相続人に代償金を支払って、当該不動産を1人で相続するというケースです。
代償分割の場合、代償金の金額、すなわち不動産の評価額が争点となることが多く、評価額について相続人間で合意ができない場合には、不動産鑑定が必要になることもあります(鑑定費用は20万〜30万円程度となることが多いです)。
④共有財産とする方法
法定相続割合に応じて、法定相続人がそれぞれ不動産の共有持分権を取得するという分割方法もあります。
この分割方法は、不動産の分割方法について協議がまとまらず、前述した換価分割や代償分割の方法が取れない場合に取られることが多いです。
しかし、不動産を共有状態とすることは非常にリスクが高く、お勧めできません。
以下、不動産を共有状態にするリスクについて、詳述します。
自由な処分ができない
共有物に変更を加えるためには、他の共有者全員の同意を得る必要があります(民法第251条1項)。
例えば、不動産を買いたいという人が現れた場合も共有者の1人が反対すれば売却ができず、建物の老朽化が激しく倒壊のおそれがあるような場合も共有者全員の同意がなければ解体や補修等の変更を加えることができません。
このように不動産を共有にするということは、不動産の自由な処分を阻害し、極めて不便な状態に置かれるリスクがあります。
共有者が増えて共有状態の解消が更に難しくなる
不動産を共有状態にした場合、共有者に更に相続が発生すると、共有者の数が増えていく可能性があります。
共有者が増えれば、共有状態の解消が難しくなりますし、特に下の世代や配偶者への相続が生じた場合、関係が希薄であることが多く、共有者と連絡が取れない、共有者の所在が分からない、協議がスムーズに進まないという事態を生じかねません。
また、前述した共有物の変更に際する共有者全員の同意も取りにくくなり、不動産の処分も更に難しくなります。
使用すると賃料相当額を請求される可能性がある
共有者は、自己の共有持分権に基づき、原則として、不動産の全部を使用・占有することができると解されています(東京地方裁判所平成17年3月22日判決)。
他方、不動産を使用・占有する場合、他の共有者は、共有持分割合に応じ、賃料相当額の不当利得返還請求又は損害賠償請求をすることができるとされています(最高裁判所平成12年4月7日判決)。
したがって、共有の不動産の全部を使用・占有する場合には、他の共有者から賃料相当額の不当利得返還請求又は損害賠償請求をされるリスクがあり、不動産を自由に使用することが難しくなったり、賃料相当損害金の請求で法的な紛争になるなどのリスクがあります。
共有物分割の手続が必要となる可能性
上記のとおり、不動産を共有状態とすることは様々なリスクを伴うことになります。
共有状態を解消するためには、共有物分割の手続が必要となり、裁判外で協議がまとまらなければ、調停や訴訟等の裁判手続を経る必要があります。
なお、共有物分割の詳細は、以下のコラムで解説しておりますので、ご参照ください。
不動産の共有状態を解消したい!共有物分割の方法や手続を弁護士が解説
3. 不動産の遺産分割の手続
協議
まずは、法定相続人間で不動産をどのように分割するか、協議を行いましょう(「遺産分割協議」といいます)。
協議がまとまった場合は、相続人間で合意した内容を記載した遺産分割協議書を作成します。
遺産分割協議書の作成は、後の紛争蒸し返し防止という側面もありますが、被相続人の不動産の所有権移転登記をするためには、遺産分割協議書が必須になりますので、必ず作成するようにしましょう。
なお、相続登記が義務化されましたので、遺産分割が完了しているにもかかわらず、所有権移転登記をしないと10万円以下の過料(罰則)が課されるおそれがあります。
相続登記の義務化については、以下のコラムで解説していますので、ご参照ください。
相続登記の義務化でどう変わる?過去の相続について注意すべき理由
また、遺産分割協議の流れについては、以下のコラムで解説しておりますので、ご確認ください。
遺産分割協議の流れを弁護士が解説|遺産分割をスムーズに進める方法とは?
調停
裁判外での協議がまとまらない場合、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることを検討しましょう。
「調停」とは、裁判所を通じた話合いの手続で、調停委員会が間に入り、話合いを仲介してくれますので、当事者間で協議するよりも解決できる可能性が高まります。
不動産の評価額が争いになっている場合には、裁判所が鑑定人を指定し、不動産鑑定を実施してくれますので、評価額で合意ができないという場合、調停は非常に有効な手段といえます。
調停でも話合いがまとまらない場合には、審判手続に移行し、裁判官が遺産をどのように分割すべきか決定を下すことになります。
なお、遺産分割調停の流れについては、以下のコラムで解説していますので、ご確認ください。
遺産分割調停の流れを弁護士が解説|申立てから解決まで
4. まとめ
相続財産に不動産が含まれている場合、その分割方法や評価額で争いになることが多いです。
どのような分割方法が妥当か、どのように評価するのが妥当かなどの判断には、専門的な知識・経験が必要となることがありますので、相続財産に不動産が含まれている場合には、弁護士に相談することをお勧めします。
当事務所は、相続案件と不動産案件に注力しており、不動産の遺産分割に対する実績は豊富です。
遺産分割に関する相談をご希望の方は、問い合わせフォームよりご連絡ください。