「不倫をしてしまっているけれども、ダブル不倫で割り切った関係だから、リスクが少ないだろう。」不倫をしている方には、このように考える方もいるかもしれません。
しかし、ダブル不倫には特有のリスクがあり、正しく対処をしないと問題が大きくなってしまいがちです。
そこで、この記事では、ダブル不倫のリスクや慰謝料について解説します。
目次
ダブル不倫の特徴と特有のリスク
そもそもダブル不倫とは、不倫の当事者に両方とも配偶者がいる場合のことをいいます。
お互いに配偶者がいることから、不倫がばれてしまった場合に不貞行為(配偶者以外の人と自由な意思のもと肉体関係を持つこと)により慰謝料を請求できる人も二人(自分の配偶者・相手の配偶者)いることとなります。
そのため、慰謝料を請求された場合の対応を誤ると、非常に高額の慰謝料を支払わなければならないといったことになりかねません。
また、不倫が相手の配偶者にのみばれている場合でも、不倫相手とその配偶者との対応を誤ると、自身の配偶者にも不倫がばれてしまう可能性が非常に高くなります。
例えば、相手から慰謝料を請求する書面が届き、それをご自身の配偶者が受け取ってしまったことにより不倫の事実が発覚してしまうことが考えられます。
また、まれにですが、激高した相手が突然自宅を突然訪ねてきたりすることもあります。
さらに、相手から「自身の配偶者にも不倫をしたことを告白しろ」などと請求されてしまうこともあります。
このような場合に対応を間違ってしまうことがないよう、慎重に対応をする必要があります。
ダブル不倫の慰謝料
前述のとおり、ダブル不倫の場合、慰謝料を請求することのできる人が二人になることから、通常の不倫の場合と比べ、慰謝料を請求されている場合に考慮すべき事項が多くなります。
①双方の夫婦とも離婚をしない場合
双方の夫婦にダブル不倫をしていたことがばれたものの、お互い離婚をせずに夫婦関係を修復することになった場合、どちらの配偶者からも不貞慰謝料を請求しないという解決がされることがあります。
不貞慰謝料とは、不貞行為によって精神的苦痛を被ったとしてそれを償う(=慰謝する)ために請求できる金銭のことですが、ダブル不倫の場合、不貞行為によって精神的苦痛を被るのは、不倫の当事者のそれぞれの配偶者となります。
その配偶者がそれぞれ慰謝料を請求しても、自身の配偶者も不倫をしていたため慰謝料を請求される立場にあり、結局夫婦の元に残るお金はプラスマイナスゼロとなるため、ダブル不倫で双方離婚をしない場合には、このような解決がされることが多いです。
このような解決をする場合には、お互いに慰謝料を請求しないことや、不倫関係をキッパリと清算するための接触禁止条項を盛り込んだ合意書を4者間で締結すると良いでしょう。
接触禁止条項とは、不倫の当事者同士が今後一切連絡を取ったり、会ったりしないことを約束させる文言です。
不倫相手同士だけではなく、その配偶者や家族も含めた接触を禁止することもあります。
ただし、お互いに慰謝料を請求しないという解決ができるのは、お互いの支払うべき慰謝料がおおむね同額であることを前提としたものですから、一方が不倫関係を強要していた場合や、片方の夫婦についてはすでに別居していて夫婦関係が破綻していた場合など、慰謝料の額に大きく差が出る可能性がある場合には、このような解決が難しい点に注意が必要です。
②双方とも離婚する場合
①のケースと異なり、双方の夫婦が離婚をする場合には、離婚後は当然家計が別になりますので、不倫をされた配偶者からすれば、自身の配偶者が慰謝料を請求されたとしても関係がないことになります。
プラスマイナスゼロとなるので慰謝料を請求しないということがなくなるので、慰謝料を請求される可能性が高いでしょう。
そして、この場合には、「不倫相手の配偶者からの慰謝料請求」だけではなく、「自身の配偶者からの慰謝料請求」もされ得ることとなります。
不貞行為というのは、不貞を行った男女双方が共同で行った不法行為であり、その責任も共同して負うとされていることから、慰謝料額も双方が分担すべきとされています。
そこで、不倫をされた側は、自身の配偶者にも、その不貞相手にも、どちらにも慰謝料を請求できるのです。
結果として、双方に慰謝料を支払わなければならず、金銭的負担が大きくなってしまいます。
そこでこの場合には、不貞慰謝料をなるべく低額にするよう交渉するといった対応が考えられます。
不貞慰謝料の金額は、相手の受けた精神的苦痛の大きさにより算定されることから、事案によって金額が異なりますが、おおむね50万円~300万円程度となります。
減額ができ得るケースについては、こちらのコラムで詳しく解説しているのでご参照ください。
③相手夫婦のみが離婚する場合
相手夫婦のみが離婚をする場合には、不倫相手の配偶者から見れば、家計のことを考える必要がなくなるため、不倫相手の配偶者から慰謝料を請求される可能性は高いでしょう。
この場合にも、相手との交渉により、慰謝料を減額できる可能性はあるので、減額交渉をしてみるのが良いでしょう。
また、慰謝料を支払う場合には、必ず合意の内容を書面で残すようにしましょう。
書面がないと、後から慰謝料の額について再度トラブルになってしまうことになりかねないためです。
また、合意書には必ず「清算条項」を入れるようにしましょう。
清算条項とは、合意書に署名した当事者(慰謝料を払う側と、受け取る側)には、合意書に記載された慰謝料を支払う以外にはお互いに何も請求できないし、反対に請求も受けないことを示す条項です。
この条項があれば、事件が完全に解決したことを当事者自身が表明したことの証拠を確保できます。
また、この場合に注意をしなければならないのが、「求償権」の問題です。
②で述べたとおり、不倫をされた側は、自身の配偶者にも、不倫相手にもどちらにも慰謝料を請求できますし、慰謝料の全額をいずれか一方に請求することもできるのです。
つまり、不倫をされた側は、慰謝料の額が200万円だとすると、200万円全額を不倫相手のみに請求できます(逆もありえます)。
しかし、不貞行為は共同で行った不法行為であることから、慰謝料を支払う責任も二人ともが共同で負うべきとされています。
そこで、片方のみに慰謝料が請求され、その人が全額を支払った場合、支払った人は、支払った額の一部(不貞行為の場合、通常は半額)は、もう片方に対して請求できるのです。
つまり、もしあなたの配偶者が200万円全額をあなたの不倫相手に請求し、不倫相手が200万円全額を支払った場合に、あなたの不倫相手は、あなたに対して100万円を支払うよう請求できるのです。
これを「求償権」と呼びます。
しかし、あなたの配偶者からみれば、あなたと婚姻関係を継続する以上、家計から100万円が不倫相手に支払われたということになります。
こういったことを防ぐために、不倫相手とあなたの配偶者が慰謝料の支払いについて合意をする際に、不倫相手に対し、「求償権を行使しない」という誓約をさせることが考えられます。
④自分だけが離婚をする場合
この場合にも、あなたの配偶者は家計のことを気にする必要がなくなるので、あなたに対して慰謝料を請求する可能性が高いでしょう。
また、あなたの配偶者からみれば、「自身は離婚するので、不倫相手の配偶者があなたに慰謝料を請求しても自分には関係ない」ということになりますので、不倫相手の配偶者としてもあなたに慰謝料を請求する可能性が高いでしょう。
慰謝料を支払う際に注意すべき点は、②や③で述べたとおりですが、この場合には、③で述べた求償権の行使に当たり、逆にあなたが求償権を行使しないことを誓約するよう求められることがあります。
もちろん、無理に誓約をする必要はありませんが、求償権を行使しないという誓約をする代わりに、慰謝料の額を減額するよう交渉することも考えられるので、交渉の際には頭に入れておくと良いでしょう。
⑤自身の配偶者に不倫の事実がばれていない場合
この場合には、早期に相手の配偶者に対して慰謝料を支払い、不倫相手との関係を清算することも考えられます。
相手としても、①のケースのように双方とも離婚をして慰謝料が請求できなくなるよりは、慰謝料を支払ってもらえる解決を選ぶことに一定のメリットがあるためです。
しかし、自身の配偶者に内密にしたまま相手と慰謝料の額を交渉することは非常に難しいといえます。
交渉の過程では、どうしても相手と頻繁に連絡を取る必要があることから、配偶者に怪しまれてしまったり、相手があなたの配偶者に内密にすることを条件に、相場より高額の慰謝料を請求してくる可能性があるためです。
このような場合には、弁護士に依頼をすることを検討しましょう。
弁護士に依頼をすれば、交渉を全て代わっておこなってもらえるため、適切な慰謝料額で合意できる可能性が高くなりますし、自宅に連絡書が届いて配偶者に発覚してしまうといったことも避けられます。
ダブル不倫でも慰謝料を支払わなくて良いケース
不貞行為をしてしまったとしても、必ずしも慰謝料を支払わなければならないかというと、そうではありません。
そもそも不貞行為の慰謝料は、夫婦間の平穏な婚姻関係を破綻させたことを理由に請求ができるものです。
そこで、例えば不倫相手の夫婦が離婚する場合で、相手の配偶者から慰謝料を請求されていたとしても、相手夫婦の婚姻関係が不貞行為前から完全に破綻しているといえれば、慰謝料を支払う義務がないといえます。
ただし、「夫婦に会話がなく夫婦関係が冷え切っている」程度では婚姻関係が破綻したとは認められづらく、婚姻関係が破綻していたということを証明するには相当ハードルが高いことには注意が必要です。
また、不貞行為をしたとして慰謝料を支払う必要があるのは、相手と肉体関係を持った場合です。
肉体関係を持っていない場合には「不貞行為」には該当しませんので、基本的には慰謝料を支払う必要はありません。
ただし、肉体関係がない場合でも、キスやハグはしていた、頻繁に二人きりでデートをしていたといった事情がある場合、世間一般で許される範囲を超えて既婚者と親密な交際をしたとして、慰謝料の支払い義務を負う可能性があることには注意が必要です。
まとめ
以上のように、ダブル不倫の場合には、当事者が多くなることから、法律関係が複雑になりがちです。
対応を誤ってしまって本来負うべき代償以上の代償を負ってしまったということにならないためにも、お困りの場合には、一度弁護士に相談することをお勧めします。