交際相手との関係解消に当たり、同棲していた交際相手が自宅から退去せず困っているというご相談は多いです。
本稿では、元交際相手が自宅を退去しない場合の対処法を解説します。
目次
1. 交際相手が自宅に居住する法的根拠は?
自宅が賃貸物件の場合、本来は賃貸借契約の当事者であるあなたのみが物件を使用する権限を有し、交際相手は物件を使用する権限を有しないことになります。
もっとも、賃貸借契約の際に交際相手を同居人として定めていた場合やあなたが一緒に住むことを許可した場合には、使用貸借契約(無償で物件を使用することを認める契約)が成立していると考えられるので、交際相手にも自宅を使用する権利が認められることになります。
2. 絶対にやってはいけないこと
交際相手に別れを告げた後、交際相手が関係の解消を拒否し、自宅に居座るというケースは少なくありません。
この時に絶対にやってはいけない対応は、交際相手を自宅から追い出したり、締め出すことです。
法律上、私人が強制的に自己の権利を実現させることは禁止されています(「自力救済の禁止」といいます)。
交際相手を無理やり自宅から追い出したり、交際相手の外出中に鍵を替えて自宅に立ち入れないようにすることは、自力救済行為に該当するおそれがあり、交際相手から損害賠償請求や慰謝料請求を受けるおそれがあります。
加えて、近年はストーカー事件やストーカーから殺傷事件に発展するなどの犯罪が増加しています。
交際相手を追い出したり締め出したりすることで、自宅や職場の前で待ち伏せをされたり、つきまとわられるなどのストーカー事件に発展しかねず、最悪のケースも想定されますので、交際相手を自宅から追い出したり締め出したりすることは絶対にやめましょう。
また、自宅に残っている相手方の私物を勝手に処分してしまうことも非常に危険です。
前述した自力救済行為に該当するおそれがあるのに加え、刑法上の器物損壊罪(刑法第261条)にも該当し得る行為ですので、絶対にやめましょう。
3. 対処法
任意で退去するよう交渉する
まずは、交際相手に任意で退去してもらう方向で交渉をしましょう。
自宅を退去しない理由によっては、こちらが柔軟に対応することで任意で自宅を退去してくれることがあります。
例えば、①転居費用(引越し代)が捻出できないので、自宅を出ることができないという場合には、転居費用相当額を贈与ないし貸与してあげることで、退去を前向きに考えてもらえることがあります。
②仕事が忙しくて転居の準備が難しいという理由の場合には、退去期限に猶予を持たせてあげたり、転居の準備を手伝ってあげることで、退去に応じることがあります。
この時に注意すべきことは、金銭の授受や退去期限について合意が成立した場合に合意書等の書面を締結することです。
例えば、上記①の例の場合、転居費用相当額を支払ったにもかかわらず、相手方が退去しない、追加の費用を要求されるなどのリスクがあります。
転居費用相当額の支払を条件に退去することに同意した場合には、互いにこれ以上の金銭の支払義務を負わないこと(「清算条項」といいます)と退去期限を定めた合意書を締結することで、後の紛争を回避することができます。
上記②の例の場合は、退去期限を定めた上で、退去期限を守らなかった場合には違約金が生じる内容の合意書を作成できるとベストです。
また、交際相手の退去に当たっては、自宅の鍵を返還してもらえないというケースが散見されます。
鍵は早めに返還してもらうか、合意書締結に際し鍵の返還方法についても定めておくなどの対応をするのが良いでしょう。
賃貸借契約を解約する
交際相手との交渉がうまくいかない場合には、あなたが先行して自宅を退去した上で自宅の賃貸人(貸主)に賃貸借契約の解約を申し入れることを検討しましょう。
賃貸借契約を解約した上で、相手方に対し、「賃貸借契約を◯年◯月◯日付けで解約しますので、◯年◯月◯日までに退去するよう求めます」という内容の書面等を送付します。
このような対応を取ることにより、相手方はこのまま自宅に居座った場合、賃貸人から損害賠償請求や建物明渡請求を受けるリスクが生じるため、自宅の退去を促す効果が見込めます。
ただし、経験上、物件の賃貸人又は管理人からは、「原状回復が完了していない(人が住んでいたり物が残っている)状態での賃貸借契約の解約は認められないので、原状回復が完了してから再度解約の申入れを行ってください」と言われてしまうケースは少なくないので、賃貸人や管理会社との交渉も重要になります。
また、賃貸借契約を解約したものの、相手方が居住を継続しているという場合、賃貸人から契約者であるあなたに対して損害賠償請求がなされる可能性があるので、このような観点からも賃貸人や管理会社との交渉が重要になってきます。
名義変更手続をする
少ない例ではありますが、交際相手が通勤や通学の利便性から自宅への居住の継続を強く希望する場合があります。
このような場合、賃貸借契約の名義人を相手方に変更することを検討しましょう。
賃貸人が名義変更を認めてくれた場合には、名義変更と賃料(家賃)の引落口座変更の手続を完了させた上であなたが退去すれば、自宅の退去に関する紛争を解決できることになります。
4. 元交際相手の退去を弁護士に依頼するメリット
①交際相手と直接やりとりをする必要がなくなる
弁護士に依頼した場合、弁護士が交渉の窓口となってくれますので、交際相手と直接やりとりをする必要がなくなります。
交際相手に対する書面の作成や送付も一任できるので、手間や負担も軽減することができます。
②交際解消をサポートしてくれる
自宅からの退去を拒否する相手方の場合、未練があったり交際の解消に納得がいかないということが多いです。
弁護士に依頼することで、交際相手に対し当事者間で直接の連絡及び接触をしないよう通知し、万が一、直接の連絡や接触があった場合には、ストーカー行為等の規制等に関する法律(通称「ストーカー規制法」)違反を理由に刑事告訴や訴訟提起等の法的措置を講ずることを示唆してくれるなど、交際相手との関係解消をサポートしてくれます。
交際相手との関係解消については、以下のコラムで詳細を解説しておりますので、ご参照ください。
③賃貸人や管理会社との交渉についてアドバイスをもらえる
前述のとおり、交際相手の退去の交渉に当たっては、賃貸人や管理会社との間の交渉も重要となってきます。
弁護士に依頼することで、賃貸人又は管理会社との交渉についてアドバイスをもらうことができますし、場合によっては、弁護士が代わりに賃貸人や管理会社と交渉を行ってくれることもあります。
5. まとめ
本当は関係を解消したいにもかかわらず、交際相手に自宅に居座られてしまい、退去の交渉もうまく進まないまま、ずるずると関係が続いてしまっているという方もいらっしゃると思います。
交際相手が任意で自宅を退去しない場合、ご自身で交渉することは難しいことが多いので、交際相手の自宅からの退去についてお悩みの方は一度弁護士に相談することをお勧めします。
当事務所は、交際相手の自宅からの退去を含む男女トラブル案件を多く経験しており、経験と実績は豊富です。
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