当事務所は、恐喝・脅迫の被害に遭われている方の相談を多く承っております。
恐喝・脅迫を受けている場合、精神的に不安定な状態に置かれ、正常な判断ができずに誤った対応をしてしまっているというケースが多く見受けられます。
本稿では、恐喝・脅迫に対する適切な対処法を弁護士が解説いたします。
目次
1. 恐喝・脅迫とは
「脅迫」とは、人の生命、身体、自由、名誉、財産に対する害悪の告知のことをいいます(刑法第222条)。
脅迫を用いて財産の交付を要求したり、財産上不法の利益を得ようとする行為を「恐喝」といいます(刑法第249条)。
また、脅迫を用いて義務のない行為を要求する行為を「強要」といいます(刑法第223条)。
これらの行為には、すべて刑事罰が定められており、また、民法上の不法行為(民法第709条)にも該当します。
2. 恐喝・脅迫に対する対処法
相手の要求に法的根拠があるか確認する
まずは、相手方の要求する行為に法的根拠があるかを確認しましょう。
法的根拠があるか否かによって、その後の対応方法が変わってくるためです。
例えば、仕事でミスがあり、取引先から「謝罪に来い!」、「土下座しろ!」などと言われている場合、謝罪や土下座を要求する法的根拠は存在しないことから、そもそも相手方の要求に応じる必要がありません。
他方、仕事でミスがあり、取引先に100万円の損害を与えてしまった場合に、「100万円払え!」という取引先の請求には法的根拠があることから、100万円の請求には対応する必要があります。
経験上、一定の法的根拠がある場合の恐喝・脅迫被害で多いのは、請求が過剰になっている場合です。
例えば、損害額が100万円であるにもかかわらず、慰謝料や迷惑料などの法的根拠のない理由を付けて300万円を請求してきているケースです。
このような場合は、「100万円は支払うが、その余の請求には根拠がないため、支払には応じられない」と毅然と対応する必要があります。
脅迫に屈せずに毅然と対応する
恐喝・脅迫の事案の場合、ほとんどのケースで法的根拠のない要求がされています。
法的根拠がない場合、そもそも相手方の要求に応じる必要はないのですから、相手方の要求を拒否し、毅然と対応しましょう。
以下、ケース別の対応方法を紹介します。
- 「家族にバラす」、「実家に連絡する」、「職場に連絡する」、「SNSに晒す」と脅してくる→「実際にそのような行為があった場合は警察に被害届を出します」と回答しましょう
(※加えて、事前に警察に相談しておくと良いでしょう)。 - 自宅や職場に押しかけてきた→すぐに110番通報しましょう。
警察が臨場してくれて相手方に警告した上で帰らせてくれます。 - SNSで個人情報を晒すなどの嫌がらせをしてくる→絶対にリプライやコメントなどをせずに、警察や弁護士に相談しましょう。
反応してしまうと、相手方の行為がエスカレートするおそれがあります。
一方、相手方の要求に法的根拠がある場合であっても、必ずしも対応しなければならないということはなく、相手方の要求が過剰であったり、脅迫の内容が過激である場合には、「◯万円については支払いますが、その余の請求は法的根拠を欠くため応じられません。
これ以上脅迫行為を続けるようであれば、警察に被害届を出しますし、◯万円についても任意の支払には応じられません」というように毅然と対応するようにしましょう。
警察への通報
上記のように毅然と対応しても、相手方の恐喝・脅迫行為が止まなかったり、恐喝・脅迫行為がエスカレートする場合には、警察に相談すると良いでしょう。
相談は、電話ではなく、直接最寄りの警察署に行くことをお勧めします(電話の場合、対応してもらえない可能性が非常に高いです)。
また、恐喝・脅迫の証拠(LINEのやりとりや録音等)がある場合には、相談の際に持参するようにしましょう。
事案によっては、警察が相手方に警告を与えてくれたり、被害届が受理されて刑事事件化する可能性があり、警察の介入により相手方の恐喝・脅迫行為が止まることもあります。
もっとも、警察に相談に行っても、「事件性がない」、「金銭問題が絡んでいて警察は民事不介入」という理由で対応してもらえないことは少なくありません。
そのような場合には、後述する弁護士への依頼を検討しましょう。
弁護士への依頼
相手方の恐喝・脅迫行為が止まなかったり、恐喝・脅迫行為がエスカレートする場合で、警察も対応してくれない場合には、弁護士への依頼を検討しましょう。
弁護士は依頼を受けているので、依頼者の要望に沿った対応をしてくれます。
具体的には、相手方の恐喝・脅迫行為を指摘した上で、今後は依頼者に一切の連絡及び接触をしないこと、今後も連絡や接触が続くようであれば刑事告訴や訴訟提起等の法的措置を講ずることなどの警告を行ってくれます。
上記警告にも従わない場合には、警察とも連携した上で、相手方に更なる警告を与えて、場合によっては、実際に刑事告訴や訴訟提起等の法的措置を講じてもらうこともできます。
特に、相手方の請求の全部又は一部に法的根拠がある場合には、金額や支払方法などの交渉が必要になるので、弁護士に依頼するメリットは大きいです。
また、弁護士が介入することにより、弁護士がすべての窓口となってくれますので、相手方と直接連絡を取る必要がなくなり、精神的安定を取り戻すこともできます。
警察と異なり、費用がかかってしまうというデメリットはありますが、現在抱えているトラブルを終局的に解決できる可能性が高いという点では、弁護士に依頼するメリットは大きいといえます。
3. 絶対にしてはいけない対応
相手方とやりとりを続けてしまう
恐喝・脅迫を受けている方の中で最も多いのが、相手方の脅迫行為を必要以上に怖がってしまい、相手方とダラダラとやりとりを続けてしまうケースです。
相手方は、脅迫すればやりとりが続けられて要求に応じてもらえるかもしれないという精神状態になるので、上記のような対応を取ってしまうと、脅迫がエスカレートする可能性が高まります。
ご相談を承っていると、「穏便に解決したかったので」という理由で、上記のような対応を取ったという方が多いですが、穏便に解決したい相手方であれば、恐喝や脅迫などするはずがないので、完全に逆効果ということになります。
お金を支払ってしまう
恐喝・脅迫を受けている状態から早く逃れたいからと相手方の要求する金銭を支払ってしまうケースも多く見られます。
しかし、これは非常に危険な行為です。
本来支払う必要のない金銭であったにもかかわらず、一度任意で支払ってしまうと、事後的にこれを取り返すことは困難です。
すなわち、民法上は「強迫」により行った意思表示(金銭の支払)は取り消すことができると規定されていますが(民法第96条1項)、「強迫」の立証責任(証明する義務)は強迫を受けた側にあり、その立証のハードルは非常に高いです。
また、「清算条項」というこれ以上の金銭の支払義務はないことを確認する条項を含めた書面を締結しないまま、金銭を支払ってしまうと、相手方から追加の金銭請求がなされたり、恐喝・脅迫行為がエスカレートする可能性もあります。
したがって、安易にお金を支払ってしまうという行為は絶対に止めましょう。
4. まとめ
恐喝・脅迫被害を受けている場合、精神的に追い詰められて正常な判断ができていない方が多いので、まずは冷静に判断できる状態を取り戻すためにも弁護士に相談することをお勧めします。
当事務所は、これまで多くの恐喝・脅迫案件に対応してきた実績がありますので、相談をご希望の方は、問い合わせフォームよりご連絡ください。
なお、不倫相手からの脅迫、不倫相手の配偶者からの脅迫、交際相手からの脅迫については、以下のコラムでも解説しておりますので、ご参照ください。