「解雇」とは、使用者(会社)の一方的な通知により労働者との雇用契約を終了させることをいいます。
解雇には種類が3つあり、種類によって解雇が無効になる条件が異なります。
本稿では、解雇の種類と解雇が無効になる条件を弁護士が解説いたします。
目次
1. 解雇の種類
普通解雇
「普通解雇」とは、一般的に、労働者の能力不足や傷病による就労不能などの労働者側の債務不履行(業務に従事できない事由)が原因で解雇することを指します。
懲戒解雇
「懲戒解雇」とは、労働者が会社の秩序を乱したり重大な非行を行った場合に、秩序違反や非行に対する制裁(懲戒処分)として解雇することを指します。
「諭旨解雇」も、懲戒解雇と同じ懲戒処分の一種で、会社が労働者に対し合意退職を求め、労働者がこれを拒否する場合には解雇する旨通知することを指します。
退職に合意しない場合には解雇するという重い処分であることから、有効性の判断においては、懲戒解雇と同程度の厳格な判断がなされます。
整理解雇
「整理解雇」とは、会社の業績悪化など会社の経営上の理由により、労働者を解雇することを指します(一般的に「リストラされた」という場合は整理解雇に該当することが多いです)。
整理解雇は、普通解雇や懲戒解雇と異なり、労働者に解雇事由がない場合でも行われるものであるため、有効性の判断においては、普通解雇や懲戒解雇よりも厳格に判断がなされます。
2. 解雇が無効になる条件
普通解雇の場合
就業規則に解雇事由が定められていない
就業規則や雇用契約書、労働条件通知書等に記載されていない事由で解雇した場合には、解雇が無効になる可能性があります(労働基準法第89条は解雇事由を就業規則の絶対的必要記載事項であると定めています)。
普通解雇の場合、就業規則等に解雇事由を記載していないことが解雇無効の理由となるかについて、解釈が分かれていますが、裁判実務では、解雇事由の不記載は無効事由に当たると判断されていることが多いです。
解雇権の濫用(合理性・相当性を欠く解雇)
労働契約法第16条(以下「労働契約法」を「労契法」といいます)は、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定めています。
例えば、新卒採用の場合など、特定のスキルや能力を有しないことを前提に労働者を採用した場合に、適切な教育訓練や配置転換を行うことなく、能力不足を理由に普通解雇したような場合には、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当とはいえないと判断され、解雇が無効になる可能性が高いです。
また、傷病を理由に普通解雇する場合も、休職制度があるにもかかわらず休職制度を利用させることなく解雇したり、短期の療養をすれば業務遂行が可能であるにもかかわらず回復を待たずに解雇したような場合には、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当とはいえないと判断され、解雇が無効になる可能性が高いといえます。
さらに、他の従業員との協調性がないという理由で普通解雇を行うケースも散見されますが、単に協調性がないというだけでは解雇は無効になる可能性が高く、他の従業員とのトラブルが絶えず、注意・指導を行っても改善が見られないなど、協調性の欠如により業務遂行が困難であると評価できることが必要と考えられています。
懲戒解雇の場合
就業規則に懲戒の種別・事由が定められていない
会社が労働者に懲戒処分を行うためには、就業規則等に懲戒の種別及び事由を定める必要があると解されています(フジ興産事件・最二小判平成15年10月10日労判861号5頁)。
したがって、懲戒の種別として懲戒解雇や諭旨解雇が定められていない場合や就業規則等に定めのない懲戒事由で懲戒解雇されたような場合、懲戒解雇は無効になります。
雇用契約書や就業規則を作成していないという労務管理が杜撰な会社も散見されますが、そのような会社が行った懲戒処分は無効ということになります。
懲戒権の濫用(合理性・相当性を欠く懲戒処分)
労契法第15条は、「使用者が労働者を懲戒できる場合において、その懲戒が労働者の行為及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、その解雇は無効とする」と定めています。
まったく理由がないにもかかわらず会社が懲戒解雇をするというケースは稀ですので、実務では、社会通念上相当といえるかという点が争点になることが多いです。
相当性の判断においては、懲戒の理由となる行為の性質及び態様、結果の程度、情状及び前歴等、過去の処分例等と比較してその処分が重きに失しているかなどの要素が考慮されます。
また、懲戒処分は、労働者に対する制裁的な側面を有するので、懲戒処分を行う前に、労働者に弁解の機会を与える必要があります。
十分な弁解の機会を与えないまま、懲戒処分を下した場合、適正な手続を経ていないとして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないと判断されることがあります。
整理解雇の場合
整理解雇を行う場合は、原則として、以下の4要件を満たす必要があります。
整理解雇の4要件は、法律上定められているものではありませんが、過去の裁判例から確立された解釈で、裁判実務でも以下の4要件を基準に解雇の有効性が判断されています。
なお、以下のすべての要件を満たさないと整理解雇が無効になるのか、以下の要件をすべて満たすことまでは必要なくあくまで要素に過ぎないのか、という点は解釈に争いがあるので、整理解雇の「4要素」と呼ばれることもありますが、前述のとおり、整理解雇の有効性は厳しく判断されることから、すべての要件を満たすことが必要であると考えて良いと思います。
①人員整理の必要性
経営不振等の企業経営上高度な必要性がある場合や会社の実態から判断して企業の合理的な運営上やむを得ない事情がある場合には、人員整理の必要性が認められます。
人員整理の必要性の有無及び程度については、会社の収支や借入金の状態、取引先との取引量の動向、資産状況、人件費や役員報酬の金額、社員の採用状況、業務量、株式配当等の事情が考慮されます。
②解雇回避努力義務
経費削減、役員報酬の削減、残業規制、労働者の配置転換や出向、希望退職者の募集などにより解雇を避ける経営努力を行うことが必要です。
③人選の合理性
整理解雇の対象者を選定する際に、客観的・合理的基準を設けた上でこれを公正に適用するなどの合理性を有していることが必要になります。
人選基準としては、勤務態度の優劣(欠勤・遅刻・早退回数、規律違反歴等)、労務の貢献度(勤続年数、休職日数、過去の実績、業務に有益な資格の有無等)、会社との間の密着度(正規従業員・臨時従業員等)、労働者側の事情(年齢、家族構成、共働きか否か等)を基準とすることが多いです。
女性であるから、パート・アルバイトであるから、特定の思想を有しているからなどの単一的な基準を設定している場合、人選に合理性がなく、整理解雇は無効と判断されます。
④解雇手続きの妥当性
労働組合や労働者との協議や説明を尽くすなど、整理解雇の必要性とその時期・規模・方法等について納得を得るための手続を踏むことが必要です。
3. 解雇の有効性を争う手続
解雇の有効性について、会社側と協議がまとまらない場合には、労働審判の申立てを検討すると良いでしょう。
労働審判手続とは、労働紛争に関し、裁判所が紛争解決を仲介する手続です。
労働審判手続においては、裁判所を通じた話合いが行われることになりますが、話合いがまとまらない場合には、裁判所が解雇の有効性について審判をする(判断を下す)ことになります。
当事者の一方又は双方が審判の内容に不服を申し立てた場合は、訴訟(裁判)に移行することになります。
4. まとめ
解雇の有効性の判断に当たっては、法的な知識が必要となることがあります。
また、会社との協議がまとまらずに、労働審判や訴訟等の裁判手続に移行した場合には、法的知識・経験が必要となってきます。
したがって、解雇に関し会社とトラブルになっている方は、労務紛争に関する知識・経験を有する弁護士に相談することをお勧めいたします。
当事務所には、労働案件を主に取り扱う事務所に所属していた弁護士が在籍しており、労働案件に注力しておりますので、解雇を含む労働紛争でお困りの方は、問い合わせフォームよりご連絡ください。