残業代が支払われないので、残業代を請求したいが、請求方法が分からないという方もいらっしゃると思います。
また、ご自身で残業代請求をすることが難しいと考えていらっしゃる方は、弁護士に依頼することも検討されると良いでしょう。
本稿では、残業代の請求方法と残業代請求を弁護士に依頼するメリットを解説いたします。
目次
1. 残業代とは
使用者(会社)は、労働者の時間外労働(1日8時間又は週40時間を超える労働)、休日労働(法定休日における労働)、深夜労働(午後10時から午前5時までの労働)に対して、労働者に割増賃金を支払わなければなりません(労働基準法第37条)。
これらの割増賃金のことを一般的に「残業代」と呼びます。
残業代の詳細については、以下のコラムで解説しておりますので、ご参照ください。
2. 残業代の請求方法
①証拠収集
まずは、残業代請求の証拠を集めましょう。
証拠がなくても請求自体はできますが、会社が残業代の支払を拒否し、後述する労働審判や訴訟(裁判)に移行した場合には、証拠がないと残業代請求が認められない可能性が高いです(残業代を請求する権利があることを労働者側が立証しなければなりません(「立証責任」といいます))。
証拠としては、以下のものが挙げられます。
- 雇用契約書
- 労働条件通知書
- タイムカード
- 業務日誌
- 入館記録、出退勤のログ
- パソコンのログインとログオフのデータ
- 顧客や取引先、上司等とのメールの送受信履歴
- 業務用携帯電話の通話履歴
- 会社の業務管理アプリ
- タコグラフ
- ETCカードの利用履歴
- 交通系ICカードの利用履歴
- 新幹線やタクシーの領収証
- 業務時間や内容を記載した日記や手帳
残業代請求の証拠を会社が保管しているという場合には、会社に任意の開示や提供を求めることになります。
手帳や日記等のご自身で作成した資料は、客観的な資料といえないことから、証拠価値は低いことが多いですが、会社が証拠の任意開示や提供を拒否した場合には、有効な証拠となることもあるので、ご自身で作成した資料も大事に保管しましょう。
②残業代の計算
証拠の収集が完了したら、証拠をもとに残業代を計算しましょう。
残業代の計算方法については、以下のコラムで解説しておりますので、ご参照ください。
③協議
残業代が計算できたら、裁判外で会社に残業代の請求を行い、協議を行うと良いでしょう。
裁判外での協議を経ずに後述する労働審判や訴訟に移行することも可能ですが、裁判手続は時間や費用等の負担が大きいので、まずは裁判外で協議を行うことをお勧めします。
請求に際しては、内容証明郵便等の請求したこと及び請求内容が記録に残る形で行うようにしましょう。
また、協議を行う際には、協議の内容を記録するために録音をしておくことが有効です。
④労働審判
裁判外での協議がまとまらなかった場合には、労働審判の申立てを検討することになります。
労働審判手続とは、未払残業代等の会社と労働者との間の労働紛争に関し、裁判所が紛争解決を仲介する手続です。
訴訟手続と異なる特殊な手続であり、以下のような特徴があります。
労働の専門家が関与する
労働審判手続は、労働審判官(裁判官)1名と労働審判員2名(使用者側の専門家と労働者側の専門家それぞれ1名ずつが選任されるのが一般的です)の労働委員会が進行・審理・判断を行います。
迅速な手続
労働審判手続は、原則として3回の期日で審理を終結することとされているため、迅速な解決が期待できる制度といえます。
柔軟な解決が期待できる
労働審判手続は、「調停」という裁判所を通じた話合いの手続が組み込まれている手続であるため、裁判所が最終的な判断(審判)を下す前に、柔軟な解決を図ることが期待できる手続といえます。
話合い(調停)で合意ができない場合には、裁判所が審判を行い、当事者の一方又は双方が審判の内容に不服がある場合には、異議申立てを行うことができます。
異議申立てがされると、訴訟手続に移行することになります。
労働審判手続の詳細は、裁判所のホームページをご参照ください。
⑤訴訟
前述のとおり、労働審判手続の中で話合いがまとまらず、裁判所による審判に対し当事者の一方又は双方が異議申立てを行った場合には、訴訟手続に移行します。
訴訟では、当事者双方が主張・立証を行い、訴訟手続においても和解ができない場合には、裁判所が判決を下すことになります。
労働審判手続を経ずに訴訟を提起することもできますが、前述したとおり、労働審判手続は、迅速かつ柔軟な解決を図ることが期待できる労働紛争の解決力が高い制度ですので、まずは労働審判手続から入ることをお勧めします。
3. 残業代請求を弁護士に依頼するメリット
会社や裁判所とのやりとりを一任できる
弊所は残業代請求を含む労働関係のご相談を多く受けておりますが、会社とやりとりすることが精神的な負担となっているというご相談者様は多いです。
また、労働審判や訴訟手続においては、裁判所とやりとりをする必要が生じ、裁判手続の知識や経験が必要となってくることもあります。
弁護士に依頼することで、会社や裁判所とのやりとりを弁護士に一任することができるので、負担を軽減することができます。
証拠の収集がスムーズになる
弁護士は専門的な知識と経験を有しているので、どのような証拠が有効であるかをアドバイスしてくれます。
また、会社が証拠を保管しているような場合には、弁護士から証拠の開示・提出を求めることで、証拠の開示・提出がスムーズに進むことが多いです。
証拠の開示・提出を拒否された場合には、証拠保全や調査嘱託、文書送付嘱託の申立てなどの複雑な手続も弁護士が対応してくれますので、証拠の収集をスムーズに行いやすくなるメリットがあります。
書面を作成してもらえる
裁判外での協議・労働審判・訴訟のいずれの手続においても、書面を作成することが必要になります(裁判外での協議では口頭による方法も可能ですが、前述のとおり、記録に残る形で請求を行う方が良いので、書面を作成する必要が生じることになります)。
弁護士に依頼すれば、書面の作成を代行してもらうことができ、書面作成の負担を軽減できるだけでなく、専門的な知識・経験に基づいて説得力のある書面を作成してもらえるので、より有利な条件での解決が期待できます。
残業代を正確に計算してもらえる
残業代の計算は複雑であることが多く、計算を間違ってしまうと本来請求できたはずの残業代の請求が漏れてしまい、経済的損失を被るリスクがあります。
弁護士に依頼し、残業代を正確に計算してもらうことで、経済的損失を被るリスクをなくすことができます。
裁判手続に同席又は代理で出頭してもらえる
労働審判や訴訟手続では、裁判所に出頭することが必要となりますが、一人で裁判所に出頭するのが不安という方もいらっしゃると思います。
弁護士に依頼すると、弁護士が裁判手続(期日)に同席してくれて、アドバイスをもらえたり、代わりに発言をしてもらえるというメリットがあります。
また、期日に出頭できないという場合には、弁護士が代理で出頭してくれるので、出頭の負担も軽減することができます。
なお、実務上、労働審判手続においては、弁護士が就いていたとしても当事者本人が出頭することが多いので、弁護士が同席するという形を取ることが多いです。
一方で、訴訟の場合には、尋問期日を除き、当事者は出頭せずに弁護士が代理で出頭することが多いです。
進行や方針に関するアドバイスをもらえる
残業代請求を行う過程で、会社側の回答にどのような回答をするか、裁判外の協議を打ち切って労働審判手続に移行するか、裁判所からの提案に対しどのように対応するかなど、進行や方針に悩む場面が出てきます。
進行や方針を誤ってしまうと、無用な紛争が生じたり、不必要に紛争が長期化するおそれがあります。
弁護士に依頼していれば、進行や方針について、その都度合理的なアドバイスをしてもらうことができるので、安心して進行や方針を決定することができます。
4. まとめ
これまで解説してきたとおり、残業代請求の手続は複雑であり、専門的な知識や経験がないと対応が難しいこともあります。
また、残業代請求を弁護士に依頼するメリットは多いので、残業代請求を検討されている方は、まずは弁護士に相談をした上で、弁護士への依頼を検討することを推奨します。
当事務所には、労働紛争を多く取り扱う事務所での勤務経験がある弁護士が所属しておりますので、残業代請求を含む労働案件の相談をご希望の方は、問い合わせフォームよりご連絡ください。