不貞の慰謝料を請求されている場合に、相手が併せて探偵費用を請求してくることがあります。
しかし、探偵費用(調査費用)については必ずしも支払う必要があるわけではありません。
そこで、本記事では、不貞慰謝料に加えて探偵費用を請求されている場合の対応について解説します。
目次
1. 不貞行為と慰謝料
不貞行為(配偶者以外の人と性的関係を持つこと)をした場合、相手の配偶者やご自身の配偶者から、慰謝料を請求されてしまうことがあります。
これは、不貞行為が民法上の不法行為に該当し、その行為によって相手が被った精神的苦痛に対する損害の賠償をする義務が生じるためです。
ただし、不貞慰謝料請求をされている場合でも、相手が請求している額を全額払う必要がない場合もあります。
慰謝料を減額できるケースについては、詳しくはこちらのコラムで解説していますので、ご確認ください。
2. 探偵費用は支払う必要がある?
前述の慰謝料請求の際に、慰謝料とは別途請求されることがあるのが、探偵費用です。
探偵費用とは、不貞行為の証拠を得るために、相手が探偵(興信所ともいい、企業や個人を調査する業者のことです)を利用した場合にかかった費用です。
相手としては、不貞行為の慰謝料を請求するために探偵費用が掛かったのであり、不貞行為がなければ支出する必要のなかった費用であるという理由で、慰謝料に加えて探偵費用も支払うべきであるという主張をしてきます。
しかしながら、探偵費用については、必ずしも全額を支払う必要がない場合が多いです。
裁判例では、主に、不貞の当事者が巧妙に隠ぺい工作をしていて、探偵に調査を依頼しなければ証拠が得られなかったといえるような場合に限って探偵費用の請求を認める傾向にあります。
例えば、既に不貞行為があったことを認めていた場合や、既に他の証拠で相手が不貞行為があったことを証明できるような場合には、探偵費用の請求は認められないと考えることができるでしょう。
3. 探偵費用の請求が認められたケース・認められなかったケース
では、過去の裁判例ではどのような場合に探偵費用の請求が認められているのでしょうか。
<探偵費用の請求が認められたケース>
1 東京地裁平成20年12月26日判決
(請求者が)自らの判断により多額の調査費用を支出した場合、そのすべてが直ちに不貞相手の不法行為に起因する損害となるというのは不合理というべきであって、通常必要される調査費用の限度で不貞相手の不法行為と相当因果関係のある損害となると認めるのが相当である。
東京地裁の平成20年12月26日判決では、上記のように述べ、実際に支出された費用のうちの一部のみを損害として請求できると認めました。
2 東京地方裁判所平成25年5月30日判決
調査内容は、被告やA(注:原告の配偶者のことを指します)を尾行することによりAの行動を調査し、書面(写真を含む)により、原告に報告するというものであり、それほど専門性の高い調査とまではいえないことに鑑みると、上記調査費用のうち10万円について、被告の不法行為と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。
東京地方裁判所平成25年5月30日判決では、上記のとおり、調査費用のうち10万円のみを損害として認めました。
この事例では、実際には200万円を超える探偵費用がかかっていたことからすると、探偵費用の請求が認められる場合であっても、その額については相当慎重な判断がされることが分かります。
<探偵費用の請求が認められなかったケース>
1 東京地方裁判所平成22年2月23日判決
不貞相手は、当初から、本件調査の範囲外の時期における不貞行為の事実を認めており、本件調査が本件訴訟の立証に寄与した程度は低いものといわざるを得ないことを考慮すれば、X(注:原告のことを指します)が負担した上記調査費用は、Y(注:被告のことを指します)の不法行為と相当因果関係のある損害として認めることはできない。
このように、東京地方裁判所平成22年2月23日判決では、既に被告が不貞行為を行ったことを認めていたことを理由に、探偵費用の全額(100万円)の請求を否定しました。
2 岡山地方裁判所平成19年10月5日
Xは、Aによる男性との密会の様子についてのSNSの書き込みの存在を認識していたというのであるから、Xが(略)Aの行動の調査を依頼せざるを得なかったということはできず、その調査の必要性・相当性を認めることはできない。
このように、他の証拠(SNSへの書き込み)があり、その書き込みで不貞行為があったことを立証できることを理由に、探偵費用の請求を認めなかった例もあります。
<その他:探偵費用を支出したことを慰謝料の額の算定にあたって考慮したケース>
東京地方裁判所平成16年8月31日
調査費用は、それ自体は本件不貞行為と相当因果関係のある損害と評価することはできないが、そのような出費をしたことは、慰謝料算定の一事由として斟酌すべきである。
このように、探偵費用の請求を直接認めたわけではないものの、慰謝料の額の決定にあたっては、探偵費用が掛かっていることを考慮すべきであるとした例もあります。
具体的にどの程度の額が考慮されたかは裁判例からは明らかではありませんが、慰謝料としては300万円が認定されていることからすれば、探偵費用の額を考慮したとしても、その影響が大きいとまではいえないと考えられます。
4. 探偵費用を請求された場合の対処法
上記のように、不貞行為の慰謝料とは別途探偵費用を請求することについては、裁判例が分かれているものではあります。
しかし、請求を認めた場合でも、探偵費用の一部のみが損害として認定されていることからすれば、相手が請求してきた額を全額支払う必要はない場合が多いです。
特に、相手が複数回の調査を探偵に依頼しているような場合、探偵費用は100万円を超える額となることもありますが、その全額を支払わなければならないケースは稀であるといえるでしょう。
相手から慰謝料や探偵費用の請求があった場合にも、慌てずに、本来支払うべき額がいくらであるかを検討するようにしましょう。
そのうえで、探偵費用が高額すぎる、探偵を使う必要がないと考えられるケースである場合には、慰謝料の支払いはするとしても、探偵費用の請求については拒否する(又は減額交渉をする)ことが必要です。
5. 慰謝料の請求や探偵費用を請求されている場合は弁護士にご相談を
不貞行為をしてしまい、相手から慰謝料を請求されている場合でも、慰謝料を減額できたりする場合や、探偵費用については全く支払う必要がない場合も多いです。
しかし、ご自身で交渉をする場合には、適正額が分からない、相手が感情的になっているなどの理由から、どのように交渉をしたらよいか分からないケースも多いでしょう。
弁護士に依頼をすれば、相手との交渉を全て一任できます。
また探偵費用を(一部)負担すべき場合であるのかについての判断は、上記のような裁判例を踏まえて法律的な観点から検討する必要がありますので、ご自身の身で判断するのではなく、弁護士に相談することをお勧めします。
当事務所では、不貞慰謝料やそれに付随する探偵費用の請求についてのご相談を数多くお受けしておりますので、お気軽に問い合わせフォームよりご連絡ください。