賃料滞納を理由に賃貸している物件の借主を退去させたいが、任意の退去に応じてもらえない場合、建物明渡請求訴訟を提起する方法があります。
これは、建物を明け渡すよう求める裁判のことで、請求が認められると強制的に借主を退去させることが可能になります。
本稿では、建物明渡請求訴訟の手続と流れを解説いたします。
目次
1. 建物明渡請求とは
賃料滞納等の契約違反があった場合、借主との賃貸借契約を解除できる場合があります。
契約を解除すると、借主は建物を使用・占有する権限を失うことになるので、貸主は借主に対し建物を明け渡すよう求めることができます。
これを「建物明渡請求」といいます。
ただし、契約違反があったからといって、必ずしも契約の解除と建物明渡請求が認められるわけではないので、注意が必要です。
建物明渡請求が認められる具体例など建物明渡請求の詳細は、以下のコラムで解説していますので、ご参照ください。
2. 建物明渡請求訴訟の手続
提起の方法
裁判所に訴状を提出することにより、建物明渡請求訴訟を提起することができます。
裁判所は、借主の住所地を管轄する裁判所か、賃貸物件の所在地を管轄する裁判所を選択することができます。
別途賃貸借契約書等で管轄について合意がなされている場合には、合意した裁判所に提起することになります(「合意管轄」といいます)。
必要書類
建物明渡請求訴訟提起のために必要な書類は、以下のとおりです。
訴状
正本と副本をそれぞれ1通ずつ裁判所に提出します。
ひな形と記載例は、裁判所のホームページに掲載されていますので、ご参照ください。
不動産登記簿謄本
明渡しを求める物件の不動産登記簿謄本(登記事項証明書)の原本を提出する必要があります(3か月以内に発行されたものであることが必要です)。
不動産登記簿謄本は、法務局で取得することができます。
手数料は、書面請求の場合は600円、オンライン請求・郵送の場合は500円、オンライン請求・窓口交付の場合は480円です。
固定資産税評価額証明書
明渡しを求める物件の固定資産税評価額証明書の原本を提出する必要があります。
固定資産税評価額証明書は、物件の所在地の市区町村役場で取得することができます。
手数料は自治体により異なりますが、200〜400円程度のことが多いです。
収入印紙
訴額に応じた収入印紙を納める必要があります。
建物明渡請求訴訟の場合、訴額は、明渡しを求める物件の固定資産税評価額の2分の1の金額とするのが一般的です。
必要な収入印紙の金額は、裁判所のホームページで確認することができます。
郵券
6000円の郵券(郵便切手)を納める必要があります。
郵券の内訳は、裁判所により異なるので、事前に訴訟を提起する裁判所に確認しましょう。
代表者事項証明書
貸主又は借主若しくは双方が法人の場合には、法人の代表者事項証明書の原本を提出する必要があります(3か月以内に発行されたものであることが必要です)。
代表者事項証明書は、法務局で取得することができます。
手数料は、書面請求の場合は600円、オンライン請求・郵送の場合は500円、オンライン請求・窓口交付の場合は480円です。
証拠
証拠の提出は必須ではありませんが、賃貸借契約書や契約解除を通知した書面等の関係書類を証拠として提出するのが一般的です。
証拠は、相手方にも交付されるので、裁判所には裁判所用と相手方用の証拠の写し合計2部を提出するようにしましょう。
なお、証拠を提出する場合、併せて証拠説明書を提出するよう求められるのが一般的ですので、証拠説明書を作成し、裁判所用と相手方用として合計2部提出しましょう。
3. 建物明渡請求訴訟の流れ
必要書類の提出(訴訟提起)
管轄の裁判所に、前述した必要書類を提出しましょう。
裁判所に直接持参しても良いですし、郵送で提出することも可能です。
審査
必要書類が提出されると、裁判所が訴状の内容と必要書類を審査します。
訴状の内容に誤りがあったり、書類が不足している場合には、裁判所から訂正や追加提出の指示がなされますので、裁判所の指示に従いましょう。
第1回期日の指定
訴状の審査が完了すると、裁判所から第1回口頭弁論期日の日程調整の連絡があり、調整が完了すると、第1回期日が指定されます。
送達
第1回期日が指定されると、裁判所から相手方に訴状が送達されます。
訴状の送達が完了することで、訴訟が開始されたということになります(「訴訟係属」といいます)。
第1回期日
訴状の送達が完了したら、第1回期日に出頭します。
第1回期日までに、借主から答弁書(訴状に対する反論書面)が提出され、請求内容を争うという答弁であれば、第2回期日以降、反論→再反論→再々反論というように、互いに主張と立証(証明)を展開していくことになります。
他方、相手方が答弁書を提出せず、第1回期日にも出頭しない場合、相手方はこちらの請求をすべて認めたものとみなされ(「擬制自白」といいます)、主張と立証は終了となり(「弁論終結」といいます)、後日こちらの請求を認容する判決がなされます(経験上、建物明渡請求の場合、相手方が答弁書を提出せず、第1回期日に出頭しないというケースは少なくありません)。
第2回期日以降
第1回期日までに相手方からこちらの請求を争う内容の答弁書が提出された場合、第2回期日が指定されます。
なお、被告は、答弁書を提出することで、第1回期日に出頭しなくても、答弁書の内容を期日に出頭して読み上げたとみなす制度(擬制陳述)があるので、第1回期日に被告が出頭しないということもあります。
前述のとおり、第2回期日以降は、互いに主張と立証(証明)を展開していきます。
主張と立証が尽きると、尋問→判決と進むのが原則ですが、裁判実務上は、主張と立証が尽きた段階で和解協議に入ることが多いです。
和解協議では、裁判官が一定の心証(争点に対するその時点での裁判官の認識)を開示したうえで、双方に和解の提案をしたり、当事者の一方から和解案が出されたりし、双方がその案に合意できるかを検討します。
和解が成立すると訴訟は終了となります。
一方で、和解協議が決裂した場合には、原則どおり、尋問→判決と進むことになります(尋問を行う必要がない場合には尋問を実施せずに判決に進むこともあります)。
なお、裁判上の和解が成立した場合、和解の内容は債務名義という判決と同様の効力を有するため、和解の内容に違反した場合には、強制執行手続を取ることが可能になります。
判決
尋問を実施した場合、尋問終了後に再度和解協議を行うことがあり、和解が成立すれば訴訟は終了となりますが、和解が成立しない場合には、裁判所が判決を下すことになります。
請求を認容する判決がなされ、判決が確定すると(判決書の送達から2週間以内に控訴提起がなければ確定します)、強制執行の申立てができるようになります。
控訴
判決後に当事者の一方又は双方が控訴提起をした場合には、高等裁判所での審理に移行することになります。
控訴審では、控訴した側が控訴状と控訴理由書を、控訴された側が控訴答弁書を提出し、弁論を終結することがほとんどですので、第1審より時間はかかりません。
また、控訴審では、弁論終結後、判決がなされるまでの間に和解協議を行うことがあります。
裁判実務上は、和解成立の余地が一切ない場合を除き、裁判所から和解協議を提案されるのが一般的です。
和解が成立すれば訴訟は終了となり、和解が成立しなければ、控訴審の判決が出されることになります。
なお、控訴審判決に対する上告をすることも可能ですが、上告は、憲法違反や判例違反、法律に定められた重大な訴訟手続の違反等の事由がないと認められないので、実務で上告が認められるケースはほとんどありません。
4. 訴状が送達できない場合
経験上、建物明渡請求では、借主と音信不通であったり、借主とまともに話ができないというケースが少なくありません。
上記のようなケースの場合、借主の所在が分からず訴状を送達できない、住民票上の住所や賃貸物件に訴状を送達したが受領してもらえないということが多く、訴訟提起ができずに困っているという相談を受けることも多いです。
このような場合に有効な制度が「付郵便送達」と「公示送達」です。
付郵便送達とは、裁判所が訴状を発送した時点で送達が完了したものとみなす送達方法で、相手方が訴状記載の住所に居住しているにもかかわらず、訴状を受領しないようなケースで利用できる方法です。
公示送達とは、相手方の住所・居所その他送達すべき場所が不明な場合に、裁判所の掲示場に呼出状を掲示し、掲示を開始してから2週間が経過すると、訴状が送達されたものとみなす送達方法です。
付郵便送達と公示送達は、相手方の住民票を取得したり、住民票上の住所や賃貸物件に現地調査に行き調査報告書を作成するなど、手続が非常に難しい送達方法ですので、上記のようなケースでお困りの方は、弁護士に依頼することを検討されると良いでしょう。
5. まとめ
建物明渡請求訴訟は、必要書類や手続が多岐に渡り、負担の大きい訴訟類型といえます。
弁護士に依頼すると、必要書類の作成・収集、裁判所とのやりとり、裁判所への出頭を弁護士に一任することができ、負担をなくすことができますので、建物明渡請求訴訟の提起を検討している方は、一度弁護士に相談することをお勧めします。
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