「DVで警察に通報されてしまったのですが、逮捕される可能性はありますか?」近年、このようなご相談を受ける機会が増えてきました。
実際に、DVは近年社会問題となっており、警察への通報件数も増えてきています。
そこで、本記事では、DVについての基本知識や逮捕されるケースなどを解説します。
目次
1. DVとは
DVとは、ドメスティック・バイオレンスの略称で、家庭内暴力のことをいいます。
DVというと殴る・蹴るなどの直接的な暴力に加えて、相手を罵倒するような暴言を吐くなどの行為もDVに該当することがあります。
大きく分けて以下のような行為がDVに該当します。
①身体的暴力
DVというとまずイメージされるのが、こちらの身体的暴力でしょう。
直接身体に対して暴力を振るうものをいいます。
具体的には、以下のような行為などが該当します。
- 相手を殴る・蹴る
- 刃物などの凶器で脅す
- 物を投げつける
- 首を絞める
②精神的暴力
精神的暴力は、身体に向けた直接的な暴力はないものの、相手を精神的に追い詰める行為をいいます。
具体例は以下のとおりです。
- 相手を罵倒・脅迫する
- 長時間説教をする
- 無視する
- 人前で馬鹿にしたり命令したりする
- 価値観や存在を否定する
③経済的暴力
家庭内でのお金を管理することにより、相手を金銭的に支配し、経済的自由を奪う行為が経済的暴力に当たります。
例えば以下のような行為です。
- 必要な生活費を渡さない
- 借金をさせる
- 相手のお金を勝手に使う
- 給与を取り上げる
④性的暴力
相手の性的自由を侵害するような暴力は、性的暴力に当たります。
例えば、以下のような行為です。
- 性行為を強要する
- 性的な写真や動画を無理やり見せる
- 無理やり相手の性的な写真や動画を撮影する
このように、一言でDVと言っても態様は様々であり、加害者の中には、自身がDVをしていることの自覚がない場合もあります。
しかし、通報の可能性があるかという観点からすれば、被害者の方が「DVを受けている」と感じた場合には通報されてしまう可能性があることから、上記のような行為にご自身の行動があてはまっているのかをよく確認する必要があるでしょう。
2. DVによって逮捕される可能性はある?
DVによって通報された場合、以下のような刑法上の犯罪に該当する行為を行っている場合には、逮捕される可能性があります。
具体的には、通報があった後に警察が捜査をして以下に挙げるような罪を犯したことについて、「疑うに足りる相当な理由」があり、かつ、逮捕の必要性(逃亡や罪証隠滅のおそれ等)があると判断した場合には逮捕されてしまうことがあります。
経験上、例えば一度暴力を振るったのみですぐに逮捕に至ることはそこまで多くはありませんが、逮捕をされなかったとしても、犯罪に該当する可能性があることは変わりありません。
【DVにより成立する可能性のある犯罪】
①暴行罪
暴行罪とは、他人に対して暴行を加えた場合に成立する犯罪です。
相手を殴る・蹴る・叩といった暴行を加えた場合に成立します。
また、物を投げつけるなど、直接暴行を加えていない行為も暴行にあたります。
暴行罪の法定刑は、2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金、又は拘留もしくは科料と定められています。
②傷害罪
暴行に該当するような行為をしたことによって、相手が怪我をした場合には、傷害罪が成立します。
例えば相手を殴ったことにより相手が骨折したり、投げた物にぶつかって出血した場合などが考えられます。
暴行罪よりも法定刑が重く、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処すると定められています。
③不同意性交等罪
不同意性交等罪とは、嫌とはいえない状態で性交等を行った場合に成立します。
例え夫婦間であっても、相手が嫌がっているのに抵抗できない形で無理やり性交をした場合には、不同意性交等罪が成立する可能性があります。
不同意性交等罪の法定刑は、5年以上の有期懲役とされています。
①や②で述べた暴行罪や傷害罪に比べ、罰金などの刑罰は規定されていない重大な犯罪です。
④侮辱罪
人前で暴言を吐くといった行為は、侮辱罪に該当する可能性があります。
侮辱罪とは、人をおとしめるような言動をした時に成立する可能性のある犯罪であり、「バカ」「ブス」といった抽象的な表現であっても成立し得るものです。
ただし、「公然と」人を侮辱した場合に成立するものであることから、夫婦二人しかいない自宅での発言の場合には、成立しない可能性が高いでしょう。
法定刑は、1年以下の懲役もしくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留もしくは科料です。
3. 逮捕される場合の流れ
DV行為が上で述べたような犯罪に該当し、逮捕がされる場合には、「現行犯逮捕」又は「通常逮捕」がされることが考えられます。
①現行犯逮捕
現行犯逮捕とは、犯行が行われている最中やその直後にされる逮捕です。
裁判官の発付する逮捕状がなくても逮捕が可能であるので、被害者や近隣の人などから警察に110番通報があり、警察が現場に臨場した時にも暴行が続いている場合には、その場で逮捕がされる可能性があります。
なお、現行犯逮捕がされなかったからといって逮捕の可能性がなくなるというわけではなく、その後の警察からの事情聴取を経て通常逮捕されることもあります。
②通常逮捕
通常逮捕とは、警察官の請求に基づいて裁判官が発付する逮捕状によりされるものです。
DVの被害者から被害届の提出がされ、その後警察が犯罪の事実があったかを捜査し、逮捕の必要性がある場合に逮捕状が請求されます。
なお、被害届が提出された場合でも必ず逮捕されるわけではなく、証拠が足りないなど犯罪の事実があったと認められない場合には、逮捕に至らないこともあります。
4. 逮捕後の流れ
逮捕がされた後は、警察官による取り調べが行われます。
警察は、この取り調べを踏まえて、事件を検察官に送検するかを判断します。
送検されることが適当であると判断された場合には、検察官に事件の記録が送られ、今度は検察官による捜査が開始されます。
検察官は、原則として送検から24時間以内に起訴・不起訴の判断をすることとされていますが、捜査に時間が足りない場合には、裁判官に対して「勾留」の請求ができます。
勾留とは、引き続き加害者の身柄を拘束したうえで捜査をするためにされるもので、勾留が認められた場合には、そのまま警察署の留置場に身柄を拘束されたまま取り調べが続くことになります。
検察官は勾留期間の満期までに、起訴・不起訴の判断をし、不起訴になれば事件は終了して身柄も釈放されます。
逆に、起訴された場合には刑事裁判を受けることになります。
日本において、刑事裁判がされた場合の有罪率は約99.9%と非常に高い数値なので、起訴がされてしまうと、刑事罰を課されることがほぼ確実となってしまいます。
5. 逮捕されてしまった場合の影響
DVが原因で逮捕され、後に起訴がされてしまった場合には、上で述べたとおり刑事罰を課される可能性が非常に高いです。
刑事罰を課された場合には、前科がつくことになってしまうので、特定の職業に就けなくなってしまったりすることもあります。
また、仮に身柄を拘束されたまま刑事裁判がされる場合には、長期間にわたり会社へ出勤することができず、欠勤を理由に解雇されてしまう可能性もあります。
仮に起訴がされなかったとしても、身柄拘束中は外部と連絡を取ることができないので、職場に逮捕の事実が知られてしまったりすることも考えられます。
さらに、DVがあったことは民法で定められた「婚姻を継続し難い重大な事由」という離婚事由にも該当する可能性がありますので、被害者である配偶者から離婚を請求されてしまった場合、離婚が認められてしまう可能性が高いでしょう。
このように、DVにより逮捕や起訴がされてしまうことの影響やリスクは非常に大きいものといえます。
6 . DVが原因で逮捕されてしまった場合の対処法
上で述べたように、DVが原因で逮捕されてしまうと、今後の社会生活に大きな影響を与えてしまう可能性があります。
そこで、DVが原因で逮捕されてしまった場合には、可能な限り早く相手と示談をすることが重要です。
示談が成立しているかどうかは、検察官による起訴・不起訴の判断に大きな影響を与えます。
被害者との示談が成立していると、不起訴の判断がされる可能性を高めることができます。
また、示談の際には相手に「宥恕文言」といって、加害者の刑事処罰を求めないという内容の文言を含めた示談書を書いてもらいます。
宥恕文言がある場合には、不起訴の判断がされることがほとんどいえるほどですので、逮捕がされてしまった場合には、とにかく示談の成立を目指すようにしましょう。
7. DVで通報されてしまった場合にはすぐに弁護士へご相談を
もしDVをしてしまい、相手に通報されてしまった場合や、逮捕がされてしまった場合には、すぐに弁護士に相談するようにしましょう。
もし逮捕前であれば、被害者の方が被害届を出す前に示談をすることができたり、警察に対し弁護士が就いたことを知らせることにより、逃亡のおそれ、つまり逮捕の必要性がないとして、逮捕されてしまう可能性を下げることができる可能性があります。
また、これまで述べてきたとおり、万が一逮捕がされてしまった場合には、示談をすることが必須となりますが、身柄を拘束されている場合にご自身で示談交渉を行うことはほぼ不可能ですので、弁護士に示談交渉を依頼する必要があります。
当事務所では、男女トラブルの経験が豊富であり、DVにより逮捕されてしまったケースの対応や、その後の離婚問題についてもご相談にのることが可能ですので、お困りの場合はお問い合わせください。