交際相手に妊娠を告げたところ、交際相手から中絶するよう言われた、または、交際相手と音信不通になった・・・残念ながら、こういったご相談はしばしばお受けすることがあります。
本記事では、そのような場合に効果的な対処法について、解説します。
目次
1. まずすべきこと
①病院を受診する
もしまだ妊娠検査薬でのみしか検査をしていない場合は、早めに病院を受診しましょう。
まずは、本当に妊娠をしているのか確かめる必要があるからです。
また、万が一人工妊娠中絶をする場合、中絶をすることのできる時期は妊娠後22週まで、初期中絶は妊娠後12週までと週数により限られていますので(初期中絶以降の場合、死産届の提出等の手続が必要になります)、いずれにしても早めに受診をする必要があります。
②出産するかどうかの選択をする
残念ながら、相手と連絡が取れない場合、婚姻をして2人で子供を育てていくことは難しい場合が多いでしょう。
もちろん、「3」で解説するように、養育費を請求することはできますが、それ以外の協力は得づらいことも考えられますので、今後の生活の見通しを踏まえて決断する必要があるでしょう。
2. 相手へできる請求・対応について
①人工妊娠中絶を選択する場合
様々な事情から、人工妊娠中絶をする場合には、精神的にも肉体的にも、女性が大きな負担を負うこととなります。
そうした事情から、相手に慰謝料を支払ってほしい、と考える方は多いでしょう。
とはいえ、合意による性交渉により妊娠に至った場合、中絶する女性の意思により中絶を行うのである、という理由から、従来慰謝料の請求はできないという考え方が一般的でした。
しかし、中絶による慰謝料を含む損害賠償請求を認める判決がなされました(東京高裁平成21年10月15日)。
この裁判例では、中絶するか悩んでいた女性に対し、女性からの連絡にも応じず、誠実に協議を行わなかったという事実関係を元に、男性も「中絶による身体的・精神的苦痛や経済的負担を原告(注:女性側)と応分に負担すべき義務を負」うとして、慰謝料の支払いを認めました。
この裁判例を踏まえると、妊娠を伝えた場合にすぐに音信不通になるなどの著しく不誠実な態度を相手がとっている場合には、慰謝料の支払いを求めることができる可能性があるでしょう。
また、この場合には、併せて中絶費用や受診に要した費用等も併せて請求することができます。
ただし、これらの費用については、相手のみが負担すべき費用というわけではないため、基本的にはかかった費用の半額について請求することができるといえます。
また、少し事情は異なりますが、避妊していると嘘をつかれていた場合、無理やり性交渉がされた結果妊娠した場合、相手が中絶をしたために中絶せざるを得なかった場合などには、慰謝料の請求ができる場合が多いでしょう。
なお、もちろん、無理やり性交渉をされた場合には、「強制性交等罪」に該当するものですから刑事告訴をして、しかるべき処罰を求めることもできます。
②出産する場合
出産することを決断された場合には、まず相手に認知をさせることを考えましょう。
認知がされないと、法的に養育費を請求できる根拠がなくなってしまうためです。
もちろん相手が任意に養育費を支払う場合には、認知がされていなくとも養育費を受け取ることはできますが、相手が将来的にも養育費の支払いを継続するとは限りませんので、基本的には、認知をしておいてもらう方がよいでしょう。
なお、認知とは「婚姻をせずに男女の間に生まれた子について、父との間に法律上の親子関係を生じさせること」をいいます。
母親と子との関係では、出産したという事実をもって、法律上の親子関係があると扱われます。
また、婚姻中に出産した子については、夫の子であると推定されます(民法第772条1項)。
未婚の場合には、こういった推定がされないので、認知という手続きが必要となるのです。
認知の方法としては、①相手に任意に認知届を提出してもらう②調停や裁判により認知を求めるの2パターンが考えられます。
相手が自身の子であると認めていて、かつ、認知をすることを拒否していない場合には、認知届を提出してもらえば手続きは完了します。
認知届は、子供が生まれる前に提出する場合は母親の本籍地の、子供が生まれてから提出する場合は、父の所在地もしくは本籍地、または、認知される子の本籍地の市区町村役場に提出することとなります。
必要書類は各役所のホームページで確認することができます。
次に、相手が認知を拒否している場合には、裁判や調停にて認知を求めていく必要があります。
現在の制度では、「調停前置主義」といって、家庭裁判所が調停を行うことのできる事件について訴えを提起する場合には、まず調停を申立てなければならないと定められています(家事事件手続法第257条、同244条、人事訴訟法第2条2号)。
そのため、いきなり認知の訴えをすることはできず、まずは認知調停を申し立てる必要があります。
調停と裁判の違いとは、調停は、当事者間の話し合いにより合意を目指す手続きであるため、当事者が合意しない限り成立せず、裁判所が何らかの判断を下すことはありません。
他方で、裁判では、当事者が提出した証拠に基づいて一定の判断を下します。
相手の合意は不要であり、裁判所が証拠に基づき、親子関係があると考えれば「認知をせよ」という判断がされることとなります。
認知調停については、申立書、子供と父親の戸籍謄本等の書類を裁判所に提出して申立てます。
裁判所のホームページで、必要な書類や手続費用、申立書の書式を確認することができます。
調停申立後は、調停期日という裁判所で実施される期日において、当事者(父と母)の主張を、裁判所が選任した専門の調停委員が交互に聞きながら、手続きを進めていきます。
しかし、あくまで話し合いによる合意を目指す手続きであることから、父親が調停において認知を拒否し続けることにより、合意に至らなかった場合や父親が調停期日に出頭しなかった場合には、前述のとおり、認知の訴えを提起する必要があります。
相手が認知を拒否している場合に認知の調停や訴えにおいて、非常に有力な証拠・材料となるのが、DNA鑑定の鑑定結果です。
相手と子との間に親子関係が存在するという鑑定結果があれば、相手と子とは親子である以上、認知を拒否できる合理的な理由はありませんので、調停委員も認知をする方向で進行してくれるでしょう。
DNA鑑定は、通常口内の粘膜を検査用の綿棒で採取して行いますので、相手が鑑定を拒否している場合に、黙って行うことは難しいでしょう。
また、多くのDNA鑑定機関においては、双方の承諾がある場合に鑑定ができるという規約を置いています。
そして、残念ながら、DNAを相手の相手に強制させることのできる法的根拠はありません。
ただし、相手がDNA鑑定をかたくなに拒否している場合には、逆に親子関係を推認させる事情と判断してもらうことがあります(親子であることを証明されたくないからこそ、鑑定を拒否しているのだろうという推認が働くためです)。
相手がどうしてもDNA鑑定に応じてくれない場合には、相手が拒否しているという事実を明らかにするためにも、書面にて相手にDNA鑑定を請求し、相手が「拒否をする」という回答をするのであれば、かかる書面も証拠として保管しておくとよいでしょう。
3. 養育費の請求
相手に認知をさせることができたら、次は養育費に関する合意をするとよいでしょう。
養育費とは、子の監護養育にかかる費用のことをいい、具体的には、子供の生活費(衣食住にかかる費用)や教育費、医療費等をいいます。
こちらも相手が任意に支払ってくれる場合には、特に調停や裁判の必要はありませんが、その場合でも相手が支払うと申し出ている額が著しく低額の場合には、相手との交渉や、場合によっては調停や審判が必要となることもあります。
養育費の額については、家庭裁判所のホームページで閲覧できる「算定表」という表において、自身と相手の年収から適正であろうという額を簡単に確認することができます。
相手が申し出ている額がこちらの表より低い場合には、算定表を根拠とし、増額を交渉するのがよいでしょう。
気を付けていただきたい点としては、適正額かどうかを確かめる前に、相手の申し出に合意してしまうことがないようにする、という点です。
いくら算定表より著しく低い額であっても、相手から「こちらがその額で一度合意した」というような主張をされてしまうと、後々異なる主張をすることがとても難しくなってしまうためです。
また、相手と適正な額での支払いについて合意ができた場合には、そちらの合意の内容をきちんと書面に残しておくようにしましょう。
後々言った、言わないということで相手と争いにならないためにも、書面は必要となります。
また、書面については、単なる書面ではなく、できる限り公正証書としておくことをお勧めします。
公正証書とは、公務員という立場の公証人がその権限に基づいて作成する公文書のことを言います。
公正証書があれば、相手が合意どおりに養育費を支払わなかった場合に、すぐに強制執行の手続きをすることができます。
強制執行とは、債務者(金銭を支払う義務のある人)の財産を差し押さえ、債権者が回収することのできる手続きです。
強制執行が認められれば、相手の給与を差し押さえて直接勤務先から養育費相当分の金額の支払いを受けることもできます(ただし、給与については差し押さえをすることのできる額について上限がありますので、必ずしも全額を回収することができない点は注意が必要です)。
なお、相手が任意に養育費の支払いをしない場合には、調停や裁判をすることとなりますが、この場合に、まずは調停を申し立てる必要がある点や、合意ができなければ裁判を行う必要がある点については、「2」で述べた認知調停の場合と同様です。
養育費の調停についても、申立書や必要書類は裁判所のホームページから確認することができます。
4. まとめ
妊娠をされている場合、ただでさえ体調に変化があるなどして、肉体的に大きな負担を抱えられている方が多いでしょう。
そのような場合に、相手が音信不通となるなど誠実な対応を取ってくれない場合は、精神的にも大きなご負担となり、ご自身で相手と交渉することや、調停や裁判等の手続きをすることが難しい場合も多いのではないかと思います。
また、弁護士を通じて連絡することで、一切連絡を返さなかった相手が交渉に応じるようになる、ということもよくあります。
現在悩まれている方は、ぜひ一度、お気軽にお問い合わせください。