裁判において、不動産の評価額が争点となっている場合、不動産鑑定を実施することがあります。
本稿では、裁判手続における不動産鑑定について、解説いたします。
目次
1. 不動産鑑定とは
「不動産鑑定」とは、不動産鑑定士が不動産の評価額を算定することをいいます。
不動産鑑定士は、不動産の適正な価格を算定する専門家で、国家資格を有しています。
裁判手続において、不動産の評価額が争点となっている場合、不動産鑑定を実施することがあります。
不動産査定との違いは、不動産鑑定士による算定であるか否かです。
すなわち、不動産査定は、不動産鑑定士ではなく、不動産の売買仲介業者や販売業社が類似不動産の過去の売却事例や不動産の特性等を参考に、不動産の売却に際して販売価格を決定するために市場価値を算出したものです。
当然、国家資格を有する不動産鑑定士による算定の方が公的な信用性が担保されているということになります。
2. 裁判手続における不動産鑑定
不動産の評価額が争点となる具体例
例えば、遺産分割調停において、遺産に不動産が含まれる場合、当該不動産の評価額が争点となることがあります。
以下の事例で不動産の評価額が争いとなるケースを見てみましょう。
- 当事者は、相続人A(法定相続割合2分の1)と相続人B(法定相続割合2分の1)
- 遺産に不動産が含まれており、Aが不動産を取得することを希望している
- Aは不動産の評価額を2600万円と主張、Bは不動産の評価額を3000万円と主張
このケースの場合、Aの評価額を前提とすると、AはBに代償金1300万円を支払うことで不動産を取得できます。
一方、Bの評価額を前提とすると、AはBに代償金1500万円を支払う必要があります。
このように、不動産の評価額により、支払う金額・支払われる金額が変わってくる場合には、不動産の評価額が争点となることがあります。
なお、主張の段階では、互いに不動産業者に無料の査定を依頼して、査定書を取得し、査定書記載の査定金額を自身の主張額とすることが多いです。
また、不動産の遺産分割については、以下のコラムで解説しておりますので、ご参照ください。
その他、不動産の評価が問題となる事案としては、不動産の共有物分割請求で代償分割の可能性がある場合(代償金の金額に影響)、賃料の増額・減額請求(賃料の金額に影響)、離婚に伴う財産分与に不動産が含まれている場合(財産分与の金額に影響)、遺留分侵害額請求における遺産に不動産が含まれている場合(遺留分侵害額に影響)などが挙げられます。
共有物分割請求、賃料増額請求、離婚に伴う不動産の財産分与、遺留分侵害額請求については、以下のコラムで解説しておりますので、ご参照ください。
中間値を採用する方法
上記事例のように、不動産評価額の主張に開きがある場合には、双方の主張額の中間値を採用するという方法がよく取られます。
上記事例の場合、2800万円が中間値になるので、この金額を不動産の評価額とすることで合意をし、AがBに代償金1400万円を支払うという結論になります。
裁判所による鑑定手続
双方の主張額の中間値を採用することについて、当事者全員の同意が得られない場合には、当事者の1人又は全員が鑑定の申出を行い、裁判所が鑑定の実施を決定する流れになることが多いです(当事者一方又は双方が提出する不動産の査定金額があまりにも高額ないし低額に過ぎ、かつ、算定方法が不自然又は不明確な場合に、中間値を採用する合意ができないことが多いです)。
当事者の申出がなくても、裁判所が職権で鑑定を実施することもできますが、裁判実務上は当事者からの申出によるケースがほとんどです。
不動産鑑定士は、裁判所が選任します。
鑑定費用は、原則として、鑑定の申出を行った当事者が一旦その全額を負担し、裁判所の判決や決定において、その負担割合が決められることになりますが、裁判実務上は、事前に当事者が折半する合意をしておくことが多いです。
なお、不動産鑑定の費用は20万〜50万円程度のことが多いですが、不動産の数、規模、性質、鑑定の難易度、時点などにより金額は異なります。
鑑定結果に不服がある場合には、鑑定結果に反対する意見を述べることはできますが、鑑定結果が覆ることは非常に少なく、鑑定結果が判決や決定にそのまま反映されることがほとんどです。
そのため、不動産鑑定を実施するか否かは、慎重に検討した方が良いでしょう。
任意の不動産鑑定
裁判所による鑑定手続を踏まずに、ご自身で不動産鑑定士に依頼して、不動産鑑定をしてもらう方法があります。
この方法のメリットは、不動産鑑定士を自ら選定することができること(特に費用に関し相見積りを取ることができること)、裁判所の手続を踏む必要がないので時間や手続の負担を省略できる点です。
ただし、裁判所による鑑定手続と異なり、当事者の一方が選定している不動産鑑定士であることから、中立性を欠いているということもあり、当事者の一方が提出した不動産鑑定書の内容を裁判所が採用するとは限らず、結局、前述した裁判所による鑑定手続を実施することになるおそれがあります。
そのため、実務上、任意の不動産鑑定の方法はあまり取られておらず、前述した裁判所による鑑定手続を行った方が無難といえます。
3. まとめ
不動産鑑定が見込まれる又は実施される法的紛争の場合、当事者双方の対立が激しく、事案も複雑であることが多いです。
このような紛争が生じている方は、弁護士に交渉や裁判手続を依頼することをお勧めします。
当事務所は、離婚や相続案件に注力していますが、離婚と相続案件は不動産が争点となることが多いため、不動産案件に関する知識と経験は豊富です。
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