配偶者の不倫(不貞行為)が発覚し不倫相手に裁判を起こしたいが、裁判を起こす方法や裁判の流れが分からないという方もいらっしゃると思います。
本稿では、不倫慰謝料の訴訟提起の方法と訴訟の流れを弁護士が解説いたします。
目次
1. 不倫慰謝料請求訴訟とは
婚姻関係にある者の一方が配偶者以外の異性と性交渉を行うことを「不貞行為」といい、原則として、不貞行為を行った配偶者とその相手方は慰謝料の支払義務を負います(民法第709条、同第710条)。
不貞行為の慰謝料請求は裁判外でも請求することができますが、裁判外での解決ができない場合、裁判で慰謝料を請求することを検討することになります。
これが不貞行為(不倫)を理由とする慰謝料請求訴訟です。
不貞をされた配偶者は、不貞をした配偶者とその相手の一方又は双方に対し、慰謝料請求をすることができるので、慰謝料請求訴訟もその一方又は双方に対して行うことができますが、実務上、不貞をした配偶者に対する慰謝料請求は、離婚裁判の中で行うことが多いため、慰謝料請求訴訟は不貞相手に対して行うのが一般的です。
不貞慰謝料請求の概要は、以下のコラムで解説しておりますので、ご参照ください。
2. 訴訟提起を行う裁判所
法律上、訴訟提起ができる裁判所は限られており、これを管轄裁判所といいます。
不貞行為を理由とする慰謝料請求訴訟の場合、次の3つの裁判所が管轄裁判所として考えられます。
- 被告(不貞相手)の住所地を管轄する裁判所(民事訴訟法第3条の2第1項)
- 原告(慰謝料請求者)の住所地を管轄する裁判所(慰謝料の義務履行地、民事訴訟法第5条1号)
- 不貞行為があった場所の住所地を管轄する裁判所(不法行為があった地、民事訴訟法第5条9号)
慰謝料請求訴訟を提起する場合、訴訟を提起する者が上記管轄裁判所の中から裁判所を選択することができます。
実務上は、裁判所への出頭の負担を考慮して、自身の住所地から近い裁判所を選択する方がほとんどですので、特別な事情がない限りは、原告の住所地を管轄する裁判所を選択すると良いでしょう。
また、稀なケースではありますが、当事者双方で訴訟を行う裁判所について合意できている場合には、合意した裁判所への訴訟提起が可能です(「合意管轄」といいます)。
3. 訴訟提起の方法・訴訟の流れ
①訴状の提出
まずは管轄の裁判所に訴状と必要書類を提出します。
訴状等の提出方法は、直接裁判所に持参しても大丈夫ですし、郵送による提出も可能です。
必要書類は以下のとおりです。
訴状
訴状の正本と副本(写し)を作成し、提出することが必要です(副本は被告に送達されます)。
訴状には、請求金額、請求の根拠となる事実と法的根拠等を記載する必要があります。
不貞行為を理由とする慰謝料請求の場合、請求する慰謝料の金額、不貞行為の具体的内容、不貞行為により損害を被ったこと(精神的損害を含む)等を記載することになります。
また、訴状には、当事者(原告と被告)の氏名と住所を記載する必要があります。
不貞相手(被告)の住所又は氏名が不明の場合、訴訟を提起することができませんので、ご自身で調査を行うか、弁護士に調査方法を相談すると良いでしょう。
なお、不貞相手の氏名と住所調査については、以下のコラムで解説しておりますので、ご参照ください。
収入印紙
慰謝料の請求額に応じて、裁判所に手数料(収入印紙)を納める必要があります。
手数料の具体的な金額は、裁判所のホームページをご確認ください。
郵券
裁判所から当事者等に書類を送付する際に必要な郵券(郵便切手)を裁判所に納める必要があります。
郵券の金額は5000〜6000円程度のことが多いですが、金額や郵券の内訳は、裁判所により異なるので、事前に訴訟を提起する予定の裁判所に確認するようにしましょう。
証拠
訴訟提起に当たり、証拠の提出は必須ではありませんが、通常は訴訟提起の段階で証拠も併せて提出します。
不貞行為を理由とする慰謝料請求訴訟の場合、婚姻関係を証する証拠(戸籍謄本等)や不貞行為の証拠(探偵の調査報告書、LINEやSMSのやりとり、性交渉の動画や写真等)を添付することが多いです。
訴状と同様に、証拠も被告に送達されますので、2部提出する必要があります。
なお、不貞行為の証拠については、以下のコラムで詳述しておりますので、ご参照ください。
②期日指定・訴状の送達
訴状を送達すると裁判所から連絡があります。
訴状等の提出書類に不備がある場合には、補正や追完を求められることがあるので、裁判所の指示に従いましょう。
訴状の受付が完了すると、第1回期日(裁判を行う日)の調整が行われます。
第1回期日は、訴状の提出から1〜2か月後の日程で調整されることが多いです。
日程調整が完了すると、第1回期日が指定(決定)され、被告に対し、期日指定の通知と訴状の送達が行われます。
③答弁書の提出
被告への訴状の送達が完了すると、通常は被告から答弁書が提出されます。
答弁書とは、訴状記載の内容に反論する書面のことです。
答弁書の提出期限は、第1回期日の1週間前までに提出するよう裁判所から指示されていることが多いため、事前に提出されることが多いです。
ただし、実務上は、訴状に対する具体的な反論書面を作成する時間が足りないことを理由に、慰謝料請求を争うという内容のみ記載された形式的な答弁書が提出されることが多く、具体的な反論は第1回期日以降に行われる傾向にあります。
④第1回口頭弁論期日
被告への訴状の送達が完了している場合、事前に調整した日程に第1回期日が開かれます(「口頭弁論期日」といいます)。
被告は、事前に答弁書を提出している場合、第1回期日には出頭しなくても良いと定められているため(答弁書の「擬制陳述」という制度)、被告は出頭しないことが多いです。
以前は、第1回口頭弁論期日に原告が裁判所に出頭することが必須でしたが、近年はウェブ会議による口頭弁論の実施が可能になったことから、第1回期日を取り消した上で被告とも日程調整をした上でウェブ会議による期日を再調整するなど、柔軟な対応がなされることが多くなっています。
もっとも、原則は裁判所への出頭が必要となりますので、第1回期日には裁判所に出頭できるよう準備しておきましょう。
⑤争点整理手続(弁論準備手続)
第1回期日の後は、争点整理手続という原告と被告が主張・反論、立証・反証(証拠による事実の証明)を交互に繰り返し、争点を整理する手続が複数回行われることが多いです。
なお、主張と反論は「準備書面」という題名の書面を提出する方法で行うことになります。
事案が複雑な場合等の特別な事情がある場合には、第1回期日以降も口頭弁論期日という形式で行われることもありますが、私の経験上、不貞行為を理由とする慰謝料請求の場合、ほとんどのケースで第2回期日以降は弁論準備手続に付されています。
争点整理手続は、通常は弁論準備手続という形式で実施されることがほとんどで、ウェブ会議や電話会議による実施も可能とされています。
ただし、ウェブ会議や電話会議の実施を認めるかは裁判所の判断となりますので、予め裁判所にウェブ会議や電話会議を希望することとその理由を伝えると共に、ウェブ会議や電話会議には事前の手続が必要となりますので、手続については、裁判所の指示に従うようにしましょう。
⑥和解協議
争点整理が完了すると、裁判所から和解協議の提案がなされることが多いです。
当事者双方が和解協議の実施に同意した場合には、主張・反論等は一旦保留となり、和解協議のための期日が設けられることになります。
協議の結果、双方合意ができた場合には、裁判上の和解が成立し、訴訟は終了となります。
一方で、和解協議が決裂した場合には、証拠調べ(尋問期日)に進むことになります。
⑦尋問
争点整理が終了し、和解成立の見込みもない場合には、証拠調べという当事者双方の尋問を行うことになります。
証人がいる場合には証人尋問が実施されることもあります。
不貞行為を理由とする慰謝料請求の場合、当事者双方の本人尋問に加え、不貞行為を行った配偶者の証人尋問が行われることが多いです。
⑧尋問後の和解協議
尋問が終了すると、裁判所から和解勧告(和解をするよう勧める指示)が出されることがあります。
尋問後の和解協議においては、裁判所から当事者双方に心証開示がなされる(判決の見通しを伝えられる)ことから、尋問前の和解協議よりも和解が成立しやすい傾向にあります。
裁判所からの和解勧告に対し、当事者の一方ないし双方が応じない場合には、判決に進むことになります。
⑨判決
尋問終了後、尋問後の和解成立の見込みがない場合には、判決期日が指定され、同期日において、判決が言い渡されることになります。
判決期日は、尋問期日終了後又は和解期日終了後から概ね1〜2か月後に指定されます。
判決期日に出頭する必要はなく、判決期日後に送られてくる判決正本(判決書)により判決の内容とその理由を確認することができます。
判決の内容に不服がある場合には、判決書が送達されてから2週間以内に控訴を提起する必要があります。
4. まとめ
不貞行為を理由とする慰謝料請求訴訟は、訴状や準備書面の作成、証拠の提出、裁判所とのやりとり、裁判期日への出頭等、非常に負担の大きい手続ですので、当事者本人での対応が難しい場合があります。
訴訟を弁護士に依頼すると、書面の作成や裁判手続のすべてを代行してもらえるため、訴訟対応の負担を大幅に軽減することができます。
不倫の慰謝料請求訴訟をお考えの方は、一度弁護士に相談の上、弁護士に対応を依頼するか、ご自身で対応するかを検討されると良いでしょう。
当事務所は、不貞慰謝料案件に注力しており、不貞慰謝料請求訴訟も多く経験しております。
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