「前から離婚を考えていたが、子どもが小さかったので、我慢して結婚生活を続けてきた」、「退職して家にいる時間が長くなり夫婦喧嘩が増えた」など、婚姻期間が長期に渡る夫婦の離婚相談は近年増えてきております。
本稿では、熟年離婚の際に注意すべき事項と熟年離婚を成立させるコツを弁護士が解説いたします。
目次
1熟年離婚とは
「熟年離婚」とは、一般的に婚姻期間の長い中高年の夫婦が離婚することをいいます。
熟年離婚に至る原因は以下のものが挙げられます。
- 以前から離婚したいと考えていたが、当時は子どもが小さかったので、我慢して婚姻関係を続けてきたが、子どもが自立したため離婚したい
- 自身又は配偶者が退職して家にいる時間が増えてから、価値観の違いや性格の不一致が目立つようになった
- 配偶者の親の介護が必要になったが、配偶者やその親族が協力してくれない
- 配偶者が不倫をし、「不倫相手と余生を過ごしたい」などと述べて、不倫相手と同居を始めてしまった
2熟年離婚の注意点
離婚事由が認められにくい
民法には、離婚事由が定められています(民法第770条1項)。
- 配偶者に不貞な行為があったとき
- 配偶者から悪意で遺棄されたとき
- 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき
- 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
- その他婚姻を継続しがたい重大な事由があるとき
法定の離婚事由がない場合、裁判では離婚が認められません。
裁判で離婚が認められないということは、配偶者が離婚を拒否し続けた場合、すぐには離婚ができないことになります。
特に、熟年離婚の場合には、離婚事由が認められにくい傾向にあります。
例えば、10年前に配偶者の不倫が発覚して離婚を考えたが、当時は子がまだ8歳と小さかったので、離婚も別居もせずに婚姻関係を継続した。
現在子が18歳になり就職も決まったことから、離婚したいというケースの場合、配偶者の不倫があることから、民法第770条1項1号の不貞行為に該当し、離婚事由が認められるとも思えます。
しかし、上記ケースの場合、不倫が発覚してから10年が経過しており、かつ、不倫が発覚した当時は離婚も別居もしなかったことから、不貞行為を宥恕した(赦した)ものと判断され、婚姻関係の破綻と不貞行為の間に相当因果関係が認められない(配偶者の不貞行為により婚姻関係が破綻したとはいえない)と判断される可能性が高いです。
配偶者の行為と婚姻関係破綻との間に因果関係が認められないと、離婚事由はないものと判断されることから、離婚が認められないことになります。
また、裁判実務上、婚姻関係が破綻しているか否かの判断においては、婚姻期間及び同居期間の長さが重視される傾向にあります。
熟年離婚の場合、婚姻期間及び同居期間が長期であることから、婚姻関係破綻の有無・離婚事由の存否は、厳しく判断される傾向にあります。
このような事情から、熟年離婚の場合、離婚事由が認められにくい傾向にあるという点には注意が必要です。
なお、婚姻関係破綻の判断基準は、以下のコラムで解説しておりますので、ご参照ください。
財産分与や慰謝料が高額になる傾向
財産分与とは、離婚に際し婚姻期間中に夫婦が協力して築いた財産を分配する制度です(民法第768条)。
一般的に婚姻期間が長期である場合、夫婦が築いた財産が多い傾向にあります。
したがって、熟年離婚の場合は、夫婦の一方が配偶者に対する財産分与の金額が高額になる傾向があります。
特に、退職金や住宅ローン付きの不動産がある場合には、婚姻期間が長期であるほど、退職金の積立額が高額になったり、住宅ローンの残高が減少しており不動産の財産分与額が高額になることが多いです。
熟年離婚に当たり、ご自身の名義の財産が多い場合には、配偶者に多額の財産分与をしなければならないおそれがある点には注意が必要です。
また、離婚に際し、婚姻関係を破綻させた原因を専ら又は主として作出した者は配偶者に対し、離婚に伴う慰謝料を支払う必要があります(例:不貞行為、身体的DVにより別居・離婚に至った場合など)。
慰謝料の算定に当たっては、婚姻関係の長さが重要な要素として考慮されます。
したがって、熟年離婚で離婚に伴う慰謝料請求が認められる場合には、慰謝料の金額が高額になるおそれがあるので、注意が必要です。
さらに、年金分割も婚姻期間が長期に渡るほど、分割する金額が大きくなる傾向にあります。
離婚に伴う財産分与・慰謝料・年金分割の詳細は、以下のコラムで解説しておりますので、ご参照ください。
配偶者が離婚を拒否するケースが多い
熟年離婚の場合、長年連れ添ってきた配偶者と離婚することになるため、気持ちや感情の面で、通常の離婚のよりも配偶者が離婚を拒否することが多いです。
また、前述のとおり、離婚事由が認められにくい傾向にあったり、離婚に伴う財産分与や慰謝料が高額になるケースが多いことも離婚を拒否されやすい理由として考えられます。
したがって、熟年離婚の場合、配偶者が離婚に応じない可能性が高いことに注意が必要です。
3. 熟年離婚を成立させるコツ
別居する
前述のとおり、熟年離婚の場合、離婚事由が認められにくかったり、配偶者から離婚を拒否されやすい傾向にあります。
熟年離婚において、不貞行為や身体的DVといった明確な離婚事由がないケースでは、別居を開始することが効果的です。
裁判例上、3〜5年の別居が継続している場合、「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法第770条1項5号)があるとして、離婚が認められていることが多いです(ただし、婚姻関係を破綻させた原因を専ら又は主として作出した配偶者、すなわち、有責配偶者から離婚を請求する場合は、7年程度の別居期間が必要になります)。
熟年離婚の場合、婚姻期間が長期に渡ることから、多くのケースで5年程度の別居期間が経過していないと離婚が認められていませんが、一方で5年の別居期間を経ることで離婚が認められる可能性が高いです。
また、配偶者としても、別居するに至っていれば、離婚を拒否し続けたとしても、5年後には離婚が認められてしまうため、気持ちや感情面で離婚したくないと考えたとしても、離婚を覚悟せざるを得ない状況になります。
さらに、配偶者の方が年収(年金収入を含む)が高い場合、別居期間中は、離婚が成立するまでの間、毎月の生活費(婚姻費用)を請求することができます(婚姻費用の詳細については、以下のコラムをご参照ください)。
これらの理由から、熟年離婚を成立させるためには、別居を開始することが非常に有効な手段といえます。
証拠を収集する
熟年離婚の場合、婚姻期間と同居期間が長期に及ぶことから、離婚を求める理由を証明する証拠、財産分与の対象となる財産の証拠が多数存在することが多いです。
これらの証拠を収集することで、離婚事由が認められる可能性を高められたり、離婚条件(特に財産分与)の交渉をうまく進められる可能性があるので、証拠の収集には力を入れるべきでしょう。
4. 熟年離婚を弁護士に依頼するメリット
相手方と直接やりとりをする必要がない
熟年離婚の場合、配偶者と直接話をしたくない、離婚の話をしてもらえない、感情的になってしまい話ができないなどの理由から、配偶者と直接やりとりをすることが難しい場合があります。
弁護士に依頼すると、弁護士が交渉の窓口になってくれますので、配偶者と直接やりとりをする必要がなくなります。
方針や証拠の収集についてアドバイスをもらえる
前述したとおり、熟年離婚の場合、離婚事由が認められにくかったり、配偶者から離婚を拒否されやすい傾向があります。
弁護士に依頼することで、どのように進めれば離婚成立の方向に向かうことができるか、離婚の成立や財産分与・慰謝料を獲得するためにどのような証拠が必要かについて、アドバイスをもらうことができます。
裁判手続を代行してもらえる
裁判外の協議で配偶者が離婚に応じない、又は、離婚条件がまとまらない場合には、調停や訴訟等の裁判手続が必要となることがあります。
調停や訴訟等の裁判手続は、手続が複雑・裁判所とのやりとりが必要・裁判所への出張が必要・書面や資料の作成及び提出が必要となることがあるなど、負担が大きい手続です。
弁護士に依頼することで、上記裁判手続を代行してもらえるので、裁判対応の負担を大幅に軽減することができます。
なお、離婚調停と離婚訴訟については、以下のコラムで解説しておりますので、ご参照ください。
5. まとめ
熟年離婚は、通常の離婚よりも、離婚の交渉や成立が難しいケースが多いです。
ご自身での対応が難しいと感じていらっしゃる方は、一度弁護士へ相談してみると良いでしょう。
当事務所は、離婚案件に注力しており、熟年離婚の対応実績も豊富です。
熟年離婚の相談をご希望の方は、問い合わせフォームよりご連絡ください。