夫婦間であっても、相手が拒否をしているにもかかわらず、無理やり性行為をした場合には、性的DVに該当します。
本記事では、性的DVにお悩みの方のために、対処法や慰謝料、性的DVを理由とした離婚について解説します。
目次
1. 性的DVとは
性的DVとは、性的な手段を通じて行われるDVのことをいいます。
例えば、夫婦の一方が拒否をしているのに無理やり性行為をする、避妊具をして欲しいと頼んでいるのにもかかわらず無理やり避妊具なしで行為に及ぶ、嫌がっている相手に無理やり性的な映像を見せる、中絶手術を強要するといった行為は、いずれも性的DVに該当します。
2. 性的DVを理由に離婚できる?
性的DVを理由に離婚をする場合に考えられる方法としては、まず相手と協議をして離婚することが考えられます。
夫婦が互いに離婚をすることに同意した場合には、離婚届を提出することで離婚が成立します。
ただし、性的DVを行うような相手と当事者のみで協議することは簡単ではないでしょう。
そこで、そのような場合には離婚調停や離婚訴訟を提起することが考えられます。
離婚調停とは、調停委員2名と裁判官(又は調停官)を介して話し合いを行う手続です。
調停委員が当事者の話を交互に聞く形で進めるため、相手と直接話す必要はありません。
また、離婚調停では、慰謝料や財産分与、お子さんがいる場合の養育費など付随する条件も同時に協議することができます。
この調停において離婚することや離婚条件にお互いが合意した場合には、離婚が成立します。
なお、離婚調停については、こちらの記事でも詳しく解説しています。
離婚調停でも合意ができなかった場合には、離婚訴訟(裁判)を提起することになります。
訴訟では、当事者の合意の有無にかかわらず、裁判官が法で定められた離婚事由があるかを判断し、判決を下すことになります。
裁判官の判断により、一方が離婚を拒否していたとしても離婚せよという判決が出ることから、性格の不一致や気が合わないという理由では離婚が認められず、民法第770条に定める離婚事由がある必要があります。
離婚事由は、具体的に以下のとおりです。
- 配偶者に不貞な行為があったとき
- 配偶者から悪意で遺棄されたとき
- 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき
- 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
- その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき
性的DVの場合、①~④には該当しないため、⑤「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当するかを判断されることになります。
婚姻を継続し難い重大な事由とは、判例により、「夫婦としての共同生活の実体を欠くようになり、その回復の見込みが全くない状態に至った場合」であると解釈されています。
例えば性的DVが長期に渡っていたり、複数回繰り返されているような場合などには、「婚姻を継続し難い重大な事由」があると判断されうるでしょう。
3. 性的DVの被害にあってしまっている場合の対処法
以下では、実際に性的DVの被害にあっている場合、どのような対処法があるかを解説します。
①公的機関へ相談する
経験上性的DVの被害を受けている方の中には、「自分が我慢すればよい」・「相談してよい内容か分からない」とお考えの方も多いです。
そのような方のために、DV相談ナビ#8008(はれれば)やDV相談+(プラス)といった公的機関による相談ダイヤルが存在します。
まずは電話で相談してみることにより、今後どのように対処すべきかのアドバイスを受けることができるでしょう。
また、都道府県が設置する配偶者暴力支援センターへ相談することにより、一時的に保護をしてもらえたり、保護命令の申立てを支援してくれたりといったことが可能です。
保護命令とは、裁判所が加害者に対し、被害者につきまといをしてはならないことなどを命令する制度です。
ただし、現状、保護命令の対象は、身体に対する暴力又は生命等に対する脅迫に限られている点には注意が必要です。
保護命令については、こちらの記事で詳しく解説しています。
②警察に相談する
前述のとおり、夫婦間であっても性交渉には同意が必要です。
嫌がる相手と無理やり性交渉をした場合には、不同意性交等罪(刑法第177条)に該当する可能性がありますので、その場合は最寄りの警察署に相談するとよいでしょう。
また、警察には相談を受理するための総合的な窓口である「相談専用電話」というものがあり(番号は9110番です)、DVの被害にあっている方の相談も受け付けていますので、まずは相談窓口に相談することでもよいでしょう。
③離婚の準備を進める
性的DVを行うような相手の場合には、離婚をしたほうが良い場合が多いでしょう。
相手と直接協議をすることが難しい場合も多いため、離婚調停を申し立てるなどして調停委員の仲介の元協議を進めることを検討するとよいでしょう。
離婚調停を申し立てる場合には、以下の記事で詳細を解説していますので、ご確認ください。
特に、性的DVの被害にあっている場合には、ご自身の身を守るためにも、配偶者と早めに別居した方がよいケースが多いでしょう。
また、離婚が成立するまでの間は、相手に対し婚姻費用といって、生活費を請求できる場合があります。
別居後の生活が不安な方は、相手に対して離婚調停を申し立てると共に、婚姻費用の請求をすることも検討することをお勧めします。
4. 性的DVを理由に慰謝料を請求できる?
性的DVを理由に離婚をする場合には、相手に慰謝料を請求できる可能性が高いです。
慰謝料とは、相手の不法行為(他人の権利または法律上保護される利益を侵害する行為をいいます)により被った精神的苦痛という被害を回復するために請求することのできる金銭です。
慰謝料の金額については、DVの態様や回数等によっても異なりますが、概ね50万円から300万円程度のことが多いです。
DVの回数が多い(日常的に性的DVを受けていたなど)、DVの期間が長い長期にわたって性的DVを受けていたなど)、性的DVの内容が悪質である(暴力や脅迫を伴うなど)といった場合には、慰謝料の額が高額となることが多いです。
慰謝料を請求するためには、性的DVを受けていたことの証拠があることが重要となります。
例えば、相手の言動についての録音や、性的DVによって怪我をしてしまった場合の診断書等は有力な証拠となりますので、保管しておきましょう。
また、上で述べた公的機関や警察への相談記録も証拠として利用することができます。
5. 弁護士に性的DVの相談をするメリット
①相手と直接協議をする必要がなくなる
性的DVをするような相手と直接協議をすることは、精神的に負担になるのみではなく、身の危険を感じることもあるでしょう。
弁護士に依頼をすれば、相手との連絡を全て一任することができます。
②慰謝料の相場や今後の見通しを確認できる
前述のとおり、慰謝料の額は性的DVの内容によって変わってきます。
相手との協議や調停の中で相手から一定額の慰謝料の提示がされた場合などに、その額が適切であるかについては、ご自身のみでは判断が難しい場合もあるでしょう。
このような場合に、弁護士に相談することで、ご自身のケースではどの程度の慰謝料が妥当であるかを確認できます。
また、婚姻費用はどの程度受け取れるのか、離婚するにあたりどういった準備が必要かなどの見通しも確認することができるでしょう。
③調停や訴訟の手続を任せることができる
離婚調停や離婚訴訟(離婚調停で合意に至らなかった場合、訴訟(裁判)を提起する必要があります)を進行するにあたっては、法的な主張をする必要がある場面がでてきます。
調停委員や裁判官に正しくこちらの主張を伝えられないと、本来得られるべき慰謝料が得られないといったことにもなりかねません。
また、調停や訴訟には資料や主張を記載した書面を提出する必要があることもあり、これらの書類の準備も全て任せることができます。
6. まとめ
性的DVの被害にあっている場合には、ご自身の身を守るためにも、お早めに弁護士へ相談することをお勧めします。
当事務所では、DVに関するご相談を多くお受けしておりますので、お悩みの場合は、お問い合わせフォームよりお気軽にお問い合わせください。