交際の解消を申し入れたら、交際期間中の旅行代や飲食代を請求された、慰謝料を請求されたなどのご相談は多いです。
中には、金銭の支払を拒否したり、連絡を無視していたりすると、「実家に連絡する」、「職場に通報する」などと脅迫されたという方も少なくありません。
本稿では、交際相手から請求される金銭について、支払義務が生じる場合と支払義務が生じない場合をケース別で紹介いたします。
目次
1. 交際期間中に負担した金銭
例えば、交際関係にある当事者の一方が旅行代や飲食代の全部を負担していたという場合、原則として、当事者の一方が負担した金銭を返還する義務は生じません。
多くの場合、上記のようなケースでは、当事者の一方が任意で金銭を負担しているので、法律上は「贈与契約」(民法第549条)に該当し、返還義務が生じないためです。
返還義務が生じるのは、例えば、「旅行代金10万円は一旦自分の方で立て替えておくけど、後で半分返してね」など、金銭を返還する合意が成立している場合に限られます。
また、返還の合意が成立していたことの証明は、返還を求める側が行う必要があるので、実際には返還の合意が成立していた場合でも、証拠が残っておらず、請求を断念せざるを得ないというケースも多いです。
2. 慰謝料
慰謝料請求とは、違法行為に基づき被った精神的損害の賠償を求める請求です(民法第709条、同第710条)。
慰謝料請求が認められるためには、①違法行為があること、②精神的損害が生じたこと、③違法行為と精神的損害との間に相当因果関係が認められることが必要です。
精神病の診断書を取得しているから慰謝料が認められると勘違いされている方が多いですが、診断書のみでは精神病に罹患していることの証明にしかならず、上記②の立証には役立つかもしれませんが、①・③を証明できることにはなりません。
一般的に、慰謝料請求が認められるハードルは高いと言われており、また、精神的損害は目に見えない損害であるという性質から、仮に慰謝料請求が認められても、慰謝料額は低額に留まる傾向にあります。
以下、実務上、慰謝料請求が問題となるケースを紹介します。
浮気
交際期間中に浮気があったとしても、原則として、違法行為とは認められません。
一方で、婚約が成立している場合や内縁関係にある場合には、慰謝料請求が認められることがあります。
「婚約が成立している場合」とは、単に婚姻の約束をしているだけでは足りず、法的保護に値する婚約が成立していることが必要です。
婚約の詳細については、以下のコラムで解説していますので、ご参照ください。
また、内縁が成立しているといえるためには、互いに婚姻の意思を有し、共同生活を営んでおり、社会通念上夫婦と認められる事情が存在することが必要と解されています。
なお、内縁関係が成立している場合は、慰謝料とは別に内縁期間中に貯まった財産を分ける財産分与の請求が認められます。
DV
暴力などの身体的DVがあった場合には、慰謝料請求が認められる可能性があります。
通院や治療が必要であった場合には、慰謝料の他に通院交通費や治療費等の損害賠償請求も認められます。
ただし、婚約や内縁関係が成立していない場合は、身体的DVの慰謝料額は数万〜数十万円と低額に留まることが多いです。
また、モラルハラスメントなどの精神的DVがあった場合にも、慰謝料請求が認められる可能性があります。
もっとも、精神的DVは、一般的に立証(証明)が難しいといわれており、証拠がないために請求ができないことが多いです。
また、慰謝料額も、身体的DVよりも低額に留まるケースが多く、精神的DVを理由とする請求は、基本的に請求が難しい類型といえます。
名誉毀損・プライバシー侵害
交際相手のことを友人に相談したようなケースでは、元交際相手から名誉毀損やプライバイシー権の侵害を理由に慰謝料請求をされることがあります。
中には、名誉毀損やプライバシー侵害に該当するケースもありますが(例えば、交際相手の氏名を明示した上でSNSに交際相手の社会的信用を低下させる投稿をしたり、交際相手とのLINEのやりとりを公開した場合など)、多くのケースでは、名誉毀損やプライバシー侵害が成立し得ない内容であることが多く、仮に名誉毀損やプライバシー侵害が認められたとしても、慰謝料額は低額に留まる内容であることがほとんどです。
名誉権侵害や名誉感情侵害を理由とする慰謝料については、以下のコラムで解説しておりますので、詳細を知りたいという方はご確認ください。
妊娠
女性が人口妊娠中絶をした場合、女性側から慰謝料を請求されているという相談は多いです。
原則として、性交渉が同意のもとであった場合、妊娠及び人工妊娠中絶をしたことを理由に慰謝料請求が認められることはありません。
一方で、同意なく性交渉をされた場合には、慰謝料請求が認められる可能性がありますが、交際関係にありながら性交渉には同意していなかったことを立証(証明)することは難しく、不同意性交を理由に慰謝料を請求できるケースは限定的といえます。
また、妊娠が発覚した後に、男性側と突然連絡が取れなくなり、病院代等の経済的負担を軽減する対応もなされなかった場合には、慰謝料請求が認められることがあります。
人工妊娠中絶のために要した病院代や手術代等は、互いに2分の1ずつ負担する義務を負うと考えるのが一般的です。
なお、妊娠に関する法的請求については、こちらのコラムで解説しております。
3. 詐欺
相手を欺いて金銭を交付させた場合には、詐欺(民法第96条1項)に該当し、金銭の返還義務が生じることがあります。
詐欺が成立する要件は、ⅰ相手方を騙す行為(欺罔行為)があったこと、ⅱ欺罔行為により相手方が錯誤に陥って(騙されて)意思表示(金銭の交付)をしたことです。
相談を受けていると、「嘘をつかれた」=「詐欺」と断定して、金銭請求をしているケースも少なくありません。
例えば、「浮気したから詐欺に当たる。
これまでにあげたプレゼントを返せ」という請求は、確かに浮気という交際相手に内緒で他の異性と交際していた点では嘘を付いていたことになりますが、浮気をしたこととプレゼントをもらったことは無関係で、嘘を付いた行為とプレゼントの交付を受けた行為に因果関係が認められず、前述した詐欺の要件に当てはまらないことになります。
交際の解消に当たっては、「詐欺」の主張は多く使われますが、上述した浮気のケースのように、多くのケースで法律上の詐欺の要件を欠いており、法的請求が成り立っていないことがあるので、注意が必要です。
4. 脅迫されている場合は早めに警察と弁護士に相談を
元交際相手からの金銭請求を拒否したり、連絡を無視していたりすると、「実家に連絡する」、「職場に通報する」、「詐欺で被害届を出す」、「裁判を起こす」、「SNSで拡散する」などと脅迫してくることがあります。
これらの発言は、刑法上の恐喝罪(刑法第249条)、強要罪(同法第223条)、脅迫罪(同法第222条)に該当する可能性があります。
また、元交際相手が、執拗に連絡をしてきたり、自宅や職場付近で待ち伏せをされたり、つきまとい行為をしてきた場合には、ストーカー行為等の規制等に関する法律や各都道府県が定める迷惑行為等防止条例に違反する可能性があります。
脅迫やストーカー行為がある場合、実際に実家や職場に連絡を入れるなどの実力行使に出たり、最悪のケースですと、生命・身体に危害が及ぶおそれがあるので、早急に警察や弁護士に相談し、元交際相手に警告を入れてもらうようにしましょう。
金銭請求が絡んでいる場合、警察は、「民事不介入」(警察は刑事事件の捜査機関であり民事事件には介入しないこと)を理由に、金銭請求の解決には介入してくれませんので、金銭請求に関しては、弁護士に交渉を依頼することを検討してみてください。
また、脅迫に耐えられずに金銭を支払ってしまった場合は、「強迫」(民法第96条1項)を理由に返還を求めることができる可能性があるので、弁護士に相談してみましょう。
5. まとめ
当事務所は、元交際相手からの金銭要求や脅迫、ストーカー被害の案件を多く経験しております。
元交際相手とのトラブルでお困りの方は、問い合わせフォームよりご連絡ください。