離婚調停をしても夫婦で離婚するという合意ができなかった場合には、離婚訴訟を提起する必要があります。
そこで、本記事では離婚訴訟の手続きや流れについて解説します。
1. 離婚訴訟(裁判離婚)とは
離婚訴訟とは、裁判所が、離婚をすること自体や離婚の条件について判断する手続きのことです。
離婚の協議をしたり、調停をしても合意ができずに離婚が成立しなかった場合には、訴訟を提起して、裁判により離婚をする必要があります。
また、日本では現在、「調停前置主義」という制度が採用されているため、調停を経ずに離婚訴訟をいきなり提起することはできず、まずは調停をしたうえで、裁判に進む必要があります(家事事件手続法第257条1項)。
これは、家庭内に関する紛争については、いきなり訴訟(公開で手続がされるのが原則です)で争うのではなく、まずは非公開の手続であり、また比較的柔軟な手続である調停において解決を試みる方がよいという理由によるものです。
2. 離婚訴訟を提起するためには
離婚訴訟で離婚が認められるためには、単に「性格が合わないから離婚したい」というだけでは足りません。
離婚訴訟は、夫婦の一方が離婚したくないという主張をしていたとしても、裁判官が判決により離婚を認める場合があるという、ある種強力な手続であるといえますから、法で認められた「離婚事由」がある必要があります。
離婚事由として認められるのは、以下の5種類です(民法第770条)。
- 配偶者に不貞な行為があったとき
- 配偶者から悪意で遺棄されたとき
- 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき
- 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
- その他婚姻を継続しがたい重大な事由があるとき
1配偶者に不貞な行為があったときとは、いわゆる「不倫」をした場合のことですが、ここでいう「不貞な行為」とは、基本的には他の異性と性交渉があったことまで必要です。
単に配偶者に内緒でデートをしていたとか、キスをしただけの場合には、原則離婚事由として認められません。
2悪意の遺棄とは、正当な理由がなく夫婦間の義務に反することをいいます。
夫婦間においては、夫婦間同居義務、扶養義務など、共同して生活を営む義務があります。
これに反して、連絡なしに家を出て帰らないなどした場合には、悪意の遺棄に当たることとなります。
3は、言葉どおり、配偶者の生死が3年間明らかでないことをいいます。
なお、この場合には、調停前置主義の例外として、調停を経ずに裁判を起こすことができます。
そもそも生死が不明となっているような相手ですから、調停手続に参加する見込みがないためです。
4は、うつ病や統合失調症などの精神病にかかり、かつ、回復の見込みがない場合に認められる離婚事由です。
「回復の見込みがない」ことが必要ですから、単に診断されたのみですぐに離婚が認められるわけではありません。
また、配偶者が精神病にかかったからといって、すぐに離婚を言い出すような場合には、逆に「悪意の遺棄」に該当するとされてしまう場合がありますので、注意が必要です。
1~4のような事由がない場合であっても、夫婦関係が破綻していて、修復の見込みがない場合にまで婚姻関係を継続する必要はないといえますから、婚姻生活を継続することが難しいといえるほどの事由がある場合には、5「その他婚姻を継続し難い重大な事由がある」として、離婚が認められます。
例えば、長期間別居しているような場合や、配偶者によるDVがあるような場合には、「婚姻を継続し難い重大な事由がある」と認められるでしょう。
以上のような離婚事由がない場合には、裁判を起こしても離婚を認めてもらえないことになるため、離婚事由があるかは事前に検討するとよいでしょう。
3. 離婚訴訟の提起方法
離婚訴訟は、夫又は妻の住所地を受け持つ家庭裁判所に訴状を提出することにより提起できます。
訴状とは、訴訟を提起する人(原告といいます)の主張を記載した書類のことです。
上で述べた離婚事由があることの他に、関連する請求がある場合にはそちらも記載します。
離婚事件に関連する請求としては、おおよそ以下のものが挙げられます。
- 慰謝料:不貞行為やDVなどを原因として離婚する場合には、相手に求める慰謝料の額や慰謝料を請求する根拠等を記載します。
- 親権:お子さんがいる場合には、親権をどちらとすべきかについての主張も記載します。
- 養育費:お子さんの養育費について、額や支払い期間等に関する主張を記載します。
- 財産分与:婚姻中に夫婦が築いた財産は、財産分与の対象となりますので、財産分与を求める場合には、その旨も記載します。
- 年金分割:離婚した場合に、婚姻期間中の保険料納付額に対応する厚生年金を分割できる制度をいいます。相手に対して分割することを求める場合、その旨も記載します。
慰謝料
親権
養育費
財産分与
年金分割
その他に必要な書類は、以下のとおりです。
- 夫婦の戸籍謄本
- (年金分割を請求する場合)年金分割のための情報通知書(年金事務所で取得できます)
- 収入や財産が分かる資料(源泉徴収表や確定申告書、不動産の全部事項証明書や預金通帳等。養育費や財産分与を求める際に必要となります)
- 収入印紙:離婚のみを求める場合の印紙額は、1万3000円です。養育費や慰謝料等を求める場合には追加で印紙が必要となりますので、事前に管轄の裁判所に確認しましょう
- 郵券(切手):家庭裁判所によって必要な額や切手の種類が異なるので、事前に管轄の裁判所に確認しましょう
訴状の記載例や手続きの詳細については、裁判所のホームページでも説明されていますので、一度確認してみるとよいでしょう。
4. 離婚訴訟の流れ
裁判所に離婚訴訟の訴状を提出した後は、以下のような流れで手続きが進みます。
①訴状の送達・第1回期日の指定
訴状受け取った裁判所は、訴状の形式などについて不備がないかを確認します。
不備がある場合には、裁判所から連絡が来るので、指示に従って訴状の修正や、必要書類の追完をしましょう。
訴状に不備がないことが確認できると、第1回口頭弁論期日の指定が行われます。
初回の期日は、原告と裁判所の都合のみで決定され、被告には、訴状と期日呼出状(期日が決まったので、この日に出頭してください)という書類が送達されます。
初回は、被告の都合は加味されずに期日の決定がされるため、被告は第1回の期日に出頭しないこともよくあります。
②答弁書の提出
被告は、第1回の期日までに裁判所に答弁書を提出します。
答弁書には、被告の言い分や原告の主張で事実と異なることなどを記載します。
被告がこの答弁書を提出せず、第1回の期日を欠席すると、原告の言い分が全て認められ、原告の請求が認められることになりますので、被告側の立場の場合には、必ず答弁書を提出する必要があります。
なお、第1回の期日までに間に合わない場合には、原告の請求について争う旨の答弁書のみを提出し、主張は後から提出することもできます。
③第1回口頭弁論期日
第1回口頭弁論期日では、訴状と答弁書の陳述が行われます。
陳述とは、書面に書いてある内容を主張したとみなすための手続きです。
被告が原告の請求を争う旨の答弁書を提出している場合には、次回期日の調整が行われ、第1回の口頭弁論期日は終了となります。
④弁論準備手続
第2回目以降の期日については、原告や被告の了解を得たうえで、弁論準備手続として行われることが一般的です。
期日において行われる内容は口頭弁論期日とほぼ同じですが、口頭弁論が公開の法廷で行われるのに対し、弁論準備手続は非公開の手続で、会議室のような部屋で行われます。
この弁論準備手続を複数回繰り返し、お互いに相手の提出した書面(準備書面といいます)に対して反論の書面を提出したり、追加で証拠を出すなどしながら争点を整理していきます。
また、この弁論準備手続の中で、裁判官から和解の提案があることがあります。
裁判案は、和解の提案時点での裁判官の心証(争点に対する裁判官の認識)と共に、和解案を提示したり、原告や被告に対し、どういった内容であれば和解ができうるかを確認したりします。
例えば、裁判官の心証があまり自身に有利なものではない場合には、判決でより不利な結果とならないために早期に和解することも検討するとよいでしょう。
ただし、裁判官の心証はあくまでその時点でのものであるため、最終的に変わり得る点には注意が必要です。
また、裁判官の心証が特段不利なものでなかったとしても、早めに離婚を成立させたいなどという希望がある場合には、譲歩できる点については譲歩して、和解に応じるという選択肢もあるでしょう。
⑤尋問
お互いの主張や証拠が出そろい、争点が整理された段階で行われるのが、尋問です。
尋問には、原告や被告本人が代理人弁護士や裁判官からの質問に答える本人尋問と、当事者以外の第三者(証人といいます)が質問に答える証人尋問がありますが、離婚訴訟の場合には、本人尋問のみが行われることが多いです。
本人尋問は、以下のような流れで行われます。
主尋問とは、自身の代理人弁護士からの質問です。
原告であれば原告の代理人弁護士から、被告であれば被告の代理人弁護士から質問がされ、それぞれ原告又は被告がそれに答えます。
ただし、原告や被告が代理人を就けていない場合には、主尋問は裁判官から行われます。
反対尋問は、主尋問とは逆に相手方の代理人弁護士から行われます(原告には被告代理人弁護士から、被告には原告代理人弁護士から)。
代理人弁護士がいない場合には、反対尋問は自身で行うこととなります。
尋問では、これまで主張してきた事実について、裁判官に、その主張が事実であるとの心証を持ってもらえるように行わなくてはなりません。
例えば、相手に不貞行為があったことを主張したい場合、相手は不貞行為がなかったと弁解をするでしょうから、その弁解が不合理であることが表せるとよいでしょう。
⑥弁論準備手続(和解の提案)
尋問後には、改めて裁判官から和解の提案があることが一般的です。
この段階では、裁判官は尋問の結果も踏まえた心証を持っています。
判決ではこういった判断になるという点に関して裁判官の意見を聞ける場合もありますので、和解に応じた方がいいのか、改めて判断しましょう。
⑦判決
当事者の一方又は双方が和解に応じず、和解の見込みがない場合には、裁判官が双方の主張を踏まえて、離婚を認める否かを判断し、判決を言い渡します。
⑧控訴・上告
裁判官の下した判決に不服がある場合には、判決を受領してから2週間以内に控訴状を提出することで、高等裁判所での審理を求めることができます。
控訴期間内に、判決書(判決の内容や判断の理由が記載された書面)をよく確認し、控訴するか否かを判断する必要があります。
また、高等裁判所での判決に不服がある場合には、さらに上告をすることにより、最高裁判所での審理を求めることもできますが、最高裁判所への上告は、憲法違反がある場合などに限られているため、離婚事件においては上告が認められないことがほとんどです。
⑨離婚届の提出
離婚を認める判決がされ、控訴期間(2週間)以内に相手が控訴しなかった場合には、判決は確定し、離婚が成立します。
原告は、判決確定後10日以内に離婚届を提出しなければならないため、忘れないように注意しましょう。
5. まとめ
離婚訴訟においては、裁判官に自身の主張を認めてもらう必要があります。
説得力のある主張のためには、法的知識が欠かせません。
また、裁判官の心証を踏まえて和解すべきか否かを慎重に判断しないと、ご自身に大きく不利になってしまう・尋問を自身で行わなくてはならないなど、離婚訴訟を進めるにおいては、ご自身のみで対応が難しいケースも多いでしょう。
当事務所の弁護士は、離婚訴訟の経験も豊富であり、経験を踏まえた最適な対応が可能ですので、離婚訴訟をお考えの方は、問い合わせフォームよりお問い合わせください。