相続人の範囲は民法に定められていますが、一定の事由がある場合、例外的に相続人になることができません。
本稿では、相続権が剥奪される制度である相続欠格と相続廃除の条件や手続を弁護士が解説いたします。
1. 相続欠格
相続欠格とは
「相続欠格」とは、民法に定められた欠格事由に該当する場合に、相続人の相続権を失わせる制度です(民法第891条)。
相続欠格事由
相続欠格事由は、以下のとおりです。
- 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者(同条第1号)
- 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない(同条第2号)
- 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者(同条第3号)
- 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者(同条第4号)
- 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者(同条第5号)
相続欠格の効果
相続欠格事由に該当する場合、欠格事由のある相続人は、裁判所の手続等を要することなく、当然に相続権を失います。
被相続人(亡くなった方)の遺言書があった場合でも、相続権を得ることはできません。
相続権を失うので、遺留分侵害額請求もできないことになります(遺留分額侵害請求権の詳細はこちらのコラムをご参照ください)。
相続欠格事由に該当する者に子がいる場合、代襲相続といって、相続欠格により相続権を失った相続人に代わり、その子が相続人になることができます(民法第887条2項)。
代襲相続の詳細はこちらのコラムで解説しておりますので、ご参照ください。
相続欠格を争う場合の手続
前述のとおり、相続欠格事由がある相続人は、当然に相続権を失うことになりますが、相続欠格事由に該当するか否かに争いがある場合には、裁判手続で結論を出す必要があります。
具体的には、他の相続人から相続欠格事由があると主張されている者は、「相続人の地位確認の訴え」という裁判を提起し、自らに相続欠格事由がないこと及び相続権があることを主張及び請求することになります。
他方、他の相続人の中に相続欠格事由があると主張する者は、「相続人の地位不存在確認の訴え」という裁判を提起し、他の相続人に相続欠格事由があること及び当該相続人に相続権がないことを主張及び請求することになります。
これらの裁判は、家庭裁判所ではなく、地方裁判所に提起する必要があります。
2. 相続廃除
相続廃除とは
「相続廃除」とは、被相続人の生前に、虐待、重大な侮辱、その他著しい非行等を行った推定相続人がいる場合に、被相続人が当該推定相続人の相続権を失わせるよう求めることができる制度です(民法第892条)。
相続廃除の対象
相続廃除の対象となるのは、「遺留分を有する推定相続人」のみです。
「遺留分」とは、相続人に保障される最低限の相続分のことで、被相続人の配偶者、直系卑属(子や孫)、直系尊属(両親や祖父母)に認められています。
「推定相続人」とは、被相続人が亡くなった時点で、相続人になる予定の者を指します。
遺留分を有しない推定相続人、例えば、兄弟姉妹に相続させたくないという場合には、遺言書において、相続権を与えたくない兄弟姉妹を相続の対象から外しておくことで足りるので、相続廃除の制度は必要がないことになります(遺留分を有する推定相続人の場合、遺言書で相続の対象から外したとしても、遺留分額侵害請求を行うことができるため、相続廃除の制度が有用ということになります)。
なお、相続欠格の場合と同様に、相続廃除がなされた者に子がいる場合は、代襲相続が生じ、その子に相続権が生じます(民法第887条2項)。
相続廃除の条件
相続廃除が認められるためには、被相続人に対し、虐待又は重大な侮辱を加えたこと、若しくは、推定相続人に著しい非行があったことが必要です。
「著しい非行」に該当するか否かは、個別具体的な事情により判断されることになりますが、例えば、重大な犯罪を犯し有罪判決を受けている、ギャンブルを繰り返して借金を作りこれを被相続人に肩代わりさせている、配偶者が不貞行為を継続し家庭を顧みない、被相続人の財産を不当に処分し損害を与えるなどの事情は、「著しい非行」に当たると判断される可能性が高いでしょう。
ただし、実務上、相続廃除の要件を満たしていると認められることは少ないです。
仮に相続廃除に該当する事情があったとしても、推定相続人が事実を否認した場合、相続廃除の条件を満たす事実の証拠がないと、相続廃除が認められない可能性が高いです。
したがって、相続廃除の手続を行うに当たっては、証拠を収集するようにしましょう。
相続廃除の手続
相続廃除の手続を行うことができるのは、被相続人のみです。
また、手続には、以下の2つの方法があります。
①生前廃除
「生前廃除」とは、被相続人が生前に相続廃除の手続を行うことです。
被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所に、相続廃除を申し立て、裁判所が相続廃除の要件を満たすと判断した場合に、相続廃除が認められます。
申立てに必要な書類等は下記のとおりです。
- 審判申立書
- 被相続人の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 廃除したい推定相続人の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 収入印紙800円
- 郵券(郵便切手)※金額と内訳は裁判所によって異なるので、管轄の裁判所に確認する必要があります
②遺言廃除
「遺言廃除」とは、推定相続人を廃除する意思表示を遺言にて行う方法です。
具体的には、遺言書に特定の推定相続人を廃除することを明記する方法になります。
遺言廃除の場合、相続開始後(被相続人が亡くなった後)に、遺言執行者が家庭裁判所に相続廃除の審判を申し立てる必要があるので(民法第893条)、遺言書では必ず遺言執行者を指定しておくようにしましょう。
なお、遺言書の作成方法は、こちらのコラムで解説していますので、遺言書の書き方を知りたいという方はご確認ください。
戸籍法上の手続
相続廃除の審判の申立てが行われ、裁判所が相続廃除を認めた場合、審判が確定してから10日以内に、被相続人の本籍地又は最後の住所地の市区町村役場に戸籍の届出(推定相続人廃除届の提出)をする必要があります(戸籍法第97条)。
戸籍の届出のためには、裁判所が作成した審判書の謄本と審判の確定証明書が必要になりますので、裁判所に申請して取得するようにしましょう。
届出がなされると、相続廃除された推定相続人の戸籍に相続廃除された旨が記載されます。
相続廃除の効果
生前廃除の場合、相続人廃除の審判が確定した時点で、相続権が失われる効果が発生します。
遺言廃除の場合は、相続廃除の審判が確定した時点で、相続開始時に遡って相続権が失われる効果が生じます(民法第893条)。
3. 相続欠格と相続廃除の違い
- 相続欠格は、欠格事由があれば、当然に相続人としての資格を失いますが、相続廃除は、被相続人又は遺言執行者による家庭裁判所への申立てを行い、裁判所が相続廃除の要件を満たすと判断することで効果が生じます。
- 相続欠格の場合は戸籍に記載されませんが、相続廃除の場合には戸籍に記載されます。
- 相続欠格の場合は他の相続人も主張が可能ですが、相続廃除は被相続人の意思に基づくことが必要になります。
- 相続欠格の事由と相続廃除の条件が異なることは、前述したとおりです。
4. まとめ
相続欠格や相続廃除は、相続権を失わせるという例外的な制度ですので、主張・立証のハードルは非常に高い制度といえ、また、相続廃除については手続が複雑です。
したがって、相続欠格や相続廃除を求めたいという方は、弁護士に相談することをお勧めします。