近年、マッチングアプリの普及に伴い、「結婚詐欺だから、お金を返せ」、「詐欺罪で被害届を出す」などと言われていて困っているというご相談が増えています。
およそ結婚詐欺に該当しないケースも散見されますが、仮に結婚詐欺に該当する場合、裁判で多額の返金請求が認められたり、詐欺罪で起訴されてしまうリスクがあります。
そこで、本稿では、結婚詐欺で金銭等の返還義務が認められるケースや詐欺罪に該当するケースを紹介したいと思います。
目次
1. 結婚詐欺とは
「結婚詐欺」とは、一般的に、結婚する意思がないにもかかわらず、結婚する意思があるかのように振る舞い、金銭を騙し取ることをいいます。
2. 返還請求の法的根拠
①詐欺
詐欺による意思表示は、取り消すことができます(民法第96条1項)。
すなわち、騙されて行った契約は取り消すことができるので、契約に基づき支払った金銭や交付した物の返還を請求することができます(これを不当利得返還請求といいます(民法第703条))。
②不法行為
詐欺に該当する場合は民法上の不法行為にも該当する可能性が高いので、詐欺により受けた損害の賠償請求をすることができます(民法第709条)。
③錯誤
詐欺の要件の1つである「相手方を騙す行為(欺罔行為)」がない場合、詐欺は成立しないことになりますが、相手方が結婚できると勘違いをして金銭や物を交付した場合には、錯誤により金銭や物の交付を取り消し(民法第95条1項)、返還を請求できることがあります。
もっとも、錯誤は、その勘違いが「重大な過失」によるものである場合には、原則として、取消しが認められないので(民法第95条3項)、結婚詐欺が問題となるケースにおいて、錯誤が認められるケースは稀です。
④金銭消費貸借契約
詐欺に該当するか否かにかかわらず、お金を貸したというケースにおいては、金銭消費貸借契約に基づき、金銭の返還を請求することができます(民法第587条)。
3. お金を返還しなければならないケース
①結婚詐欺に該当する場合
結婚詐欺に該当するとして、金銭の返還請求が認められるのは、どのようなケースでしょうか。
まず、詐欺の要件を見ていきましょう。
- 相手方を騙す行為(欺罔行為)があったこと
- 相手方が錯誤に陥って(騙されて)意思表示をしたこと
結婚詐欺の場合、結婚する意思がないにもかかわらず、結婚する意思があるかのように振る舞う行為が、相手方を騙す行為(欺罔行為)に当たることになります。
「結婚する意思がない」というのは人の主観になるため、一般的に結婚する意思がないことを証明することは難しいと言われています。
しかし、客観的な事情から結婚する意思がないと推認される場合には、結婚詐欺に当たると判断されることがあります。
以下、結婚する意思がないと考えられる事情の例を紹介します。
別の交際相手や親密な関係にある人がいる場合
別の交際相手や親密な関係にある人がいる場合、真剣に交際する意思がない=結婚する意思がないと判断されることがあります。
特に別の交際相手が複数いる場合は、その可能性が高まります。
多額の金銭を受け取った直後に交際解消又は音信不通になった場合
金銭目的での交際であると判断され、結婚をする意思はなかったものと推認される可能性が高いです。
既婚者である場合
日本では重婚が認められていませんので、既婚者であり、そのことを秘して相手方と交際していた場合には、結婚する意思がなかったと判断される可能性が高いです。
②結婚詐欺以外の事情で詐欺が認められる場合
いわゆる結婚詐欺に該当しない場合であっても、交際関係にある場合には、別の事情で詐欺に該当するケースが多く見受けられます。
例えば、「事業を始めたいが開業資金が足りない」、「母が大きな病気にかかり手術費用が払えない」、「専門学校に通いたいが学費が払えない」、「知人の連帯保証人になっていて、知人に代わり返済を求められている」と述べて、金銭の援助を求めたような場合、上記の話が虚偽であった場合、詐欺として返金請求が認められることがあります。
4. 詐欺罪に問われるリスク
前述した返金をしなければならないケースに該当する場合で、詐欺罪(刑法第246条)で被害届を出されてしまうと、立件(刑事事件化)されて、最悪の場合、逮捕されたり、起訴されて前科が付いてしまうおそれがあります。
前科がある場合や被害額が高額な場合、執行猶予が付かずに実刑になる(刑務所に収監される)可能性もあります。
5. 詐欺に該当する可能性がある場合の対処法
前述した詐欺に該当する可能性のあるケースの場合、裁判で多額の返金請求が認められたり、刑事事件化するリスクがあります。
このような場合は、相手方と早期に示談をすることが重要です。
示談を成立させることで、民事訴訟を提起されたり、刑事事件化するリスクを回避することができます。
また、民事訴訟で支払を命ずる判決が出た場合、一括での支払を命じられることになります。
一括での返済が難しい場合、民事訴訟を提起される前に示談交渉を行うことで、減額や分割払いの交渉を行うことができるというメリットもあります。
6. およそ結婚詐欺に該当しないケースもある
結婚詐欺に該当する事情がない場合、仮に交際期間中に相手方が金銭を負担したり、金銭を交付したり、プレゼントを贈るなどの行為があったとしても、これらは贈与契約(民法第549条)ですので、金銭及び物を返還する義務は生じません。
結婚詐欺に該当しないことが明らかであるにもかかわらず、「結婚詐欺だ!」と主張し、法的根拠のない金銭請求や謝罪を求められているというケースは多く見受けられます。
中には、親や職場に連絡する、SNSで公開するなどと脅してきたり、執拗に連絡してくる、自宅や職場の前で待ち伏せするなどのストーカー行為を行うことも少なくありません。
上記のようなケースにおいては、相手方が交際を解消されたことに納得が行かず、まだ交際を続けたい(少なくとも連絡・接触する手段を残しておきたい)、報復したいなどの目的で、不当な要求を行っていることが多いです。
このような場合、相手方の行為は、恐喝罪(刑法第249条)、強要罪(刑法第223条1項)、脅迫罪(刑法第222条)、ストーカー行為等の規制等に関する法律違反、各都道府県が定める迷惑行為等防止条例違反に該当する可能性がありますので、まずは警察に相談してみると良いでしょう。
ただし、警察が立件(刑事事件化)するか、相手方に警告を行うかは警察の判断になりますので、必ずしも警察が動いてくれるとは限りません。
警察に対応してもらえない場合には、弁護士に依頼して相手方に警告をしてもらうなどの対応を検討しましょう。
弁護士が介入することで、警察が対応すべき事案として対応してくれる可能性が高まります。
7. まとめ
結婚詐欺を含む詐欺に該当するか否かは、法的な判断が必要となることがあります。
安易に詐欺には該当しないと判断してしまうと、多額の返済義務を負ったり刑事事件化する可能性があります。
したがって、相手方から結婚詐欺を理由に金銭を請求されている場合や警察に被害届を出すと言われている場合には、早めに弁護士に相談して判断を仰ぐと良いでしょう。
また、およそ結婚詐欺に当たらない場合で、不当な要求、脅迫、ストーカー行為を受けている場合も、弁護士に相談することで具体的な対応策を示してもらうことができますし、状況によっては、弁護士に介入してもらい、弁護士が相手方に警告することで、不当な要求、脅迫、ストーカー行為を止めることができる可能性が高まります。
当事務所は、これまで結婚詐欺に関する案件を多数対応しておりますので、結婚詐欺でトラブルが生じているという方は問合せフォームよりお問い合わせください。