相手方に認知を拒否されたので、認知調停を申し立てたいが、申立方法が分からない、手続の流れが分からず不安という方もいらっしゃると思います。
そのような方のために、本稿では、認知調停の申立方法と手続の流れを解説いたします。
目次
1. 認知調停とは
認知とは、婚姻をせずに男女の間に生まれた子について、父との間に法律上の親子関係を生じさせることをいいます(民法第779条)。
認知調停とは、認知をするか否かについて、裁判所を通して話合いを行う手続です。
調停の進行は、調停委員会(裁判官又は調停官1名と調停委員2名)が行います。
裁判官は他の調停の担当も兼ねているため、通常は調停委員2名が主に進行を行うことになります。
認知は、役所に認知届を提出すれば成立するものですので(民法第781条1項)、認知調停を申し立てるということは、相手方が認知を拒否している又は相手方と音信不通になっているという場合がほとんどです。
2. 調停の申立方法
必要書類
- 申立書の正本・副本(※記載例)
- 子の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 相手方の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 離婚後300日以内に出生した出生届未了の子に関する申立ての場合、子の出生証明書の写し及び母の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 収入印紙1200円
- 郵券(郵便切手)
※郵券は裁判所によって内訳が異なるので、事前に申立先の家庭裁判所にご確認ください
申立先
相手方の住所地を管轄する家庭裁判所又は当事者間で合意した家庭裁判所
※当事者間で合意した裁判所に申し立てる場合には、管轄合意書等の合意が成立していることを示す書面の提出が必要になります
3. 調停の流れ
①申立て
上記申立てに必要な書類を管轄の裁判所に提出しましょう。
提出は郵送でも可能です。
書類提出後、裁判所から補正や追加の書類提出を求められることがありますので、その場合は、裁判所の指示に従いましょう。
②期日調整
申立てが完了すると、裁判所から第1回調停期日の日程調整の連絡があります。
日程が確定すると、裁判所から相手方に期日通知書と申立書の副本が送付されます。
なお、裁判所が遠方の場合には、ウェブ会議や電話会議による出席が認められることがあるので、ウェブ会議や電話会議を希望する場合には、裁判所にその旨伝えましょう。
ただし、ウェブ会議や電話会議を認めるかは裁判所の判断になるので、必ずしもウェブ会議や電話会議による出席が認められるわけではないことには注意が必要です。
③第1回調停期日
第1回調停期日に出席します。
1回目の期日は、裁判所と申立人のみで調整した日程になるので、相手方の都合がつかず、相手方が出席できないということもあります。
その場合は、相手方欠席のまま期日が実施され、相手方を含めて2回目の期日の日程調整をすることになります。
また、前述のとおり、認知調停を申し立てるケースでは、相手方が認知を拒否していたり、相手方と音信不通になっていることがほとんどですので、経験上、調停を申し立てても、相手方が調停手続に対応しないことも少なくありません。
相手方が調停手続に対応しない場合、例えば、第1回調停期日に無断で欠席した場合には、家庭裁判所の調査官が相手方に出頭勧告(調停期日に出席するよう促す手続)を行い、出頭勧告にも応じない場合には、調停は不成立となり終了します。
④鑑定
相手方が調停に対応してきた場合、鑑定を行うことになります。
具体的には、当事者双方又は一方が鑑定の申出を行い、裁判所が選任した鑑定人のもと、DNA鑑定を行い、相手方と子との間に父子関係があるかを調査します。
DNA鑑定の結果、父子関係が確認されれば、裁判所が「合意に相当する審判」という認知を認める判断を下すことになります(家事事件手続法第277条)。
なお、合意に相当する審判に対しては、異議を申し立てることができるため、相手方から異議が出された場合には、調停は不成立となります(異議の期限は、審判の告知を受けた日から2週間以内です(家事事件手続法第279条))。
また、相手方が調停に対応してきた場合であっても、「自分の子でないことは間違いない」、「鑑定する必要はない」などと理由をつけて、鑑定を拒否するというケースは間々あります。
その場合も、調停は不成立となり終了します。
鑑定費用については、裁判実務上は折半とするのが一般的ですが、相手方が鑑定費用の支出を拒否した場合、申立人が鑑定費用を負担することになります。
鑑定費用は10万円程度となることが多いです。
⑤合意に相当する審判の確定
前述した合意に相当する審判が確定すれば、法的に認知が認められます。
役所で手続を行うことで、戸籍にも認知が反映されます。
また、認知が認められたことにより、養育費の請求が可能になります。
認知が認められた時点で養育費を請求することも考えられますが、養育費の支払義務は、養育費を請求した時点から負うことになるので、認知が認められた後に養育費を請求した場合、過去分(認知が認められる前)の養育費は請求できなくなってしまいます。
したがって、認知を請求する(認知調停を申し立てる)場合には、併せて養育費を請求する(養育費調停を申し立てる)のが良いでしょう。
4. 認知の訴え
認知の訴えとは
認知調停が不成立となった場合、認知の訴えを提起することを検討しましょう。
認知の訴えとは、強制的に認知を認めさせる方法です(これを「強制認知」といいます)。
なお、認知請求は、調停前置主義が適用されるため(家事事件手続法第257条1項)、原則として、認知調停を経ずに認知の訴えを提起することはできません。
必要書類
- 訴状(正本・副本)
- 子の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 相手方の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 離婚後300日以内に出生した出生届未了の子に関する申立ての場合、子の出生証明書の写し及び母の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 収入印紙1万3000円
- 郵券(郵便切手)
※郵券は、裁判所によって内訳が異なるので、事前に申立先の家庭裁判所にご確認ください
相手方が対応してきた場合
相手方が認知の訴えに対応してきた場合には、当事者双方又は一方が鑑定の申出を行い、鑑定の結果により、判決ないし合意に相当する審判がなされることが多いです。
相手方が鑑定を拒否した場合には、原告(認知を請求している側)の主張が全面的に認められ、強制認知が認められるケースがほとんどです。
相手方が対応しない場合
認知の訴えの期日に相手方が出頭せず、答弁書等の反論書面も提出されない場合には、原告(認知を請求している側)の主張が全面的に認められ、強制認知が認められます。
公示送達の場合(相手方の住居所が不明な場合)
認知の訴えにおいて、相手方の住居所が不明な場合、「公示送達」という方法により、認知の訴えを提起することがあります(公示送達による方法を認めてもらうためには、相手方の居住所を調査し、調査を尽くしても住居所が不明であったことを報告する調査報告書の提出が必要です)。
公示送達の場合、「相手方の反論がなければ、認知請求をしている側の主張がそのまま認定される」という「擬制自白」の適用がないため、父子関係を示す証拠が必要となります。
このような場合、相手方のDNA鑑定により証拠を得ることは不可能に近いため、相手方の親族を対象に鑑定の申出を行い、証拠を収集するのが一般的です。
胎児認知の場合、認知の訴えは認められない
母の承諾があれば、胎児の認知をすることができます(民法第783条1項)。
もっとも、胎児認知は、任意又は調停での認知のみ可能で、裁判での認知は認められていないので、胎児認知を強制することはできません。
5. 認知調停を弁護士に依頼するメリット
①早期に認知できる可能性が高まる
相手方が認知を拒否していたり、相手方と音信不通になっている場合、弁護士が間に入って交渉することにより、相手方が調停手続に対応して、認知に応じる可能性が高まります。
②手続を一任することができる
前述のとおり、調停の申立てを行う場合、必要書類を準備したり、裁判所とのやりとりが必要になります。
弁護士に依頼することで、必要書類の準備や裁判所とやりとりを弁護士に一任することができるので、調停申立ての手間を省くことができます。
③調停期日に同席してもらえる
調停手続が初めてで、1人で裁判所に赴くことが不安という方もいらっしゃると思います。
弁護士に依頼すると、調停期日に弁護士が同席し、アドバイスをもらうこともできるので、上記のような不安を解消することができます。
6. まとめ
相手方が認知を拒否していたり、相手方と音信不通になっている場合、認知調停は非常に有効な手段ですが、手続や裁判所とのやりとりに戸惑ったり、裁判所に出頭することが不安という方もいらっしゃると思います。
そのような場合は、弁護士に依頼することで手続をスムーズに進めることができ、上記のような不安を解消することができるので、弁護士に依頼することを検討すると良いでしょう。