突然、自宅に不倫(不貞行為)の慰謝料を請求する内容証明郵便が届き、不安に感じる方もいらっしゃると思います。
内容証明郵便が届いた場合には、誤った対応をしてしまうと、事態が悪化する可能性がある一方、適切な対応をすれば、大きな問題に発展することなく、無事に紛争を解決できることが多いです。
本稿では内容証明郵便が届いた時の注意点と対処法について、弁護士が解説いたします。
目次
1. 内容証明郵便とは
普段見慣れない内容証明郵便が送られてきたことで、驚く方も多いと思いますが、内容証明郵便に法的拘束力はなく、郵便制度の1つに過ぎません。
裁判所を介した書面と勘違いされている方も散見されますが、裁判を起こした人が裁判所に提出する訴状等と異なり、裁判所は関与していません。
内容証明郵便とは、郵便局が送付書類の内容を証明してくれるオプションが付された郵便のことで、具体的には、書面の写しが郵便局に保管されており、送付者がこれを閲覧することができるため、送付書類の内容が証明されることになります。
不貞の慰謝料請求の際に、内容証明郵便を利用する理由としては、以下のものが考えられます。
(1)慰謝料請求をしたこと及びその日付を証拠として残すため
内容証明郵便の方法を利用することで、不貞行為を理由とする慰謝料請求をしたこと及びその日付を証拠として保存することができます。
慰謝料請求をしたにもかかわらず、これを無視した場合には、後の裁判において、「反論の機会があったのに反論をしなかった」、「無視するという対応を行っており反省の態度が見られない」という主張がなされることがありますが、内容証明郵便はその際の重要な証拠になります。
また、慰謝料請求を行う場合、併せて年3%の遅延損害金(支払が遅れた場合に、遅れた期間に応じて発生する損害金)を請求することができますが、遅延損害金の起算点(遅延損害金が生じる時点)として、慰謝料請求した日を定めることがあります。
内容証明郵便により請求日を証明することができ、起算日を確定させることができます。
(2)消滅時効の完成猶予のため
不貞行為を理由とする慰謝料請求は、不貞の事実及び不貞行為を行った者を知った時から3年で時効により消滅しますが(民法第724条)、慰謝料請求を行った時点で6か月間は時効の完成が猶予されるので(民法第153条)、慰謝料請求を行い時効の完成が猶予されたことを証明するために内容証明郵便が利用されることがあります。
(3)プレッシャーを与えるため
内容証明郵便を利用する事実上の効果として1番大きいのは、内容証明郵便という通常の郵便物と異なる方法で送付することにより、相手方にプレッシャーを与えることができるという点です。
実際に、請求側の代理人として通知書を送付する場合、内容証明郵便の方法を利用することで、相手方がすぐに何らかの対応をしてくるケースは多いです。
2. 内容証明郵便が送られてきた際にしてはいけない対応
(1)無視する
内容証明郵便を受け取った場合、無視することは非常に危険です。
内容証明郵便の場合、請求者側は郵便物をいつ受け取ったかを把握することができるので、書類を受け取っているにもかかわらず、一定期間、何の反応もなければ、対応する意思がないものと考え、訴訟を提起してくる(裁判を起こしてくる)可能性があります。
また、前述のとおり、後の裁判において、「反論の機会があったのに反論をしなかった」、「無視するという対応を行っており反省の態度が見られない」などと主張され、不利な事情として扱われるおそれもあります。
さらに、弁護士を就けずに請求者本人が内容証明郵便を送付している場合に多い事象としては、職場や実家に郵送してくることが挙げられます。
職場や実家に送付することは、名誉毀損等の違法行為に該当し得るため、弁護士が職場や実家に送付することはほとんどありませんが、代理人弁護士を就けていない場合には、違法行為に該当し得るという認識のないままに、職場や実家に送付しているケースは少なくありません。
(2)受取を拒否する
内容証明郵便は、受取を拒否することができます。
しかし、受取拒否をした場合、請求者側に受取拒否により送付ができなかったことが伝わりますので、無視した場合と同様に、対応する意思がないと判断されて、訴訟を提起される可能性があります。
また、請求者本人が送付している場合に、職場や実家に送付してくるリスクも無視した場合と同様です。
(3)請求額を支払ってしまう
不貞慰謝料の内容証明郵便が送られてきた場合、請求額が記載されていることがほとんどですが、請求額は裁判で認められる金額よりも高額であることが多いです。
不貞慰謝料の相場は、数十万円から300万円ですが、離婚が成立しているか否か、別居するに至っているか否か、婚姻期間、不貞の期間・回数・頻度などの事情を総合的に考慮して決定されるため、請求金額の全額を支払ってしまうと、結果的に本来支払う必要のなかった金額を支払うこととなりかねず、大きな経済的不利益を被るおそれがあります。
また、請求額の全額を支払った後に、「不貞行為によりうつ病になってしまい会社を辞めなければならなくなったので、給与分の損害を補填して欲しい」、「追加の探偵費用が生じたので、探偵費用分も支払って欲しい」などと、追加の請求をされる可能性があります。
内容証明郵便が届いた場合、仮に一定の金額を支払うとしても、追加の請求など後の紛争を防止するために、清算条項(「当事者間に何らの債権債務がないことを相互に確認する」というこれ以上の金銭請求はできないことを確認する条項)を定めた書面を締結することが必須となります。
したがって、内容証明郵便が届いたからといって、すぐに請求額を支払ってしまうことは控えましょう。
3. 対処法
(1)内容を確認する
内容証明郵便が届いてパニックになってしまい、冷静な判断ができないまま、上記のような誤った対応をしてしまうことは絶対に避けましょう。
まずは、内容証明郵便の内容をきちんと確認しましょう。
確認すべきポイントは以下のとおりです。
①事実関係
・不貞行為がない場合
不貞行為(肉体関係)がない場合には、基本的に慰謝料を支払う必要はありません。
もっとも、肉体関係がなかった場合でも、一緒にホテルに宿泊した、宿泊を伴う旅行に行った、いずれかの自宅において2人で過ごしたなどの事情がある場合は、不貞行為があったと認定される可能性があるので、慎重な検討が必要です。
また、肉体関係がない場合であっても、キスやハグをした、2人で頻繁にデートをした、「大好き」、「愛してる」などの愛情表現をしたなどの事情がある場合、「親密交際」として、慰謝料請求が認められる可能性があります。
・既婚者と知らなかった場合
関係を持った相手が既婚者と知らなかった場合には、慰謝料請求が認められない可能性があります。
ただし、既婚者と知らなかった場合であっても、既婚者と知らなかったことに過失があったと認められる場合、つまり、既婚者であることを知ることができた場合には、慰謝料請求が認められることには注意が必要です。
例えば、職場が一緒である場合、関係を持っていた期間が長期に渡る場合には、過失があったと認められ、慰謝料請求が認められる可能性が高いです。
・関係を持つ前に婚姻関係が破綻していた場合
関係を持つ前に婚姻関係が破綻していた場合には、関係を持ったことと婚姻関係の破綻との間に因果関係が認められないため、慰謝料請求が認められないことになります。
もっとも、離婚成立前に婚姻関係が破綻していたと判断されるケースは極めて稀であり、慰謝料請求が否定されることは少ないです。
②請求内容
慰謝料請求に関する内容証明郵便の場合、請求内容が記載されていることが多いです。
慰謝料金額については、前述のとおり、相場は数十万円から300万円ですが、離婚が成立しているか否か、別居するに至っているか否か、婚姻期間、不貞の期間・回数・頻度などの事情を総合的に考慮して決定されるので、慎重な検討が必要です。
また、謝罪や接触禁止など、金銭の支払以外の要求がなされることも多いので、要求の内容に法的根拠があるか、法的根拠はないものの早期・円満解決のために任意に要求に応じるかなど、具体的な要求内容によって、検討をする必要があります。
③請求者
・弁護士の場合
弁護士は交渉を代理する権限を有しているので、交渉は請求者本人ではなく弁護士とやりとりをすることになります。
内容証明郵便が届いてすぐに弁護士に電話をかけたという方が多くいらっしゃいますが、「言いくるめられた」、「不利な言質を取られてしまった」という話をよく聞きますので、弁護士から内容証明郵便が届いたからといって、焦って電話をしてしまうことは控え、反論書面や交渉内容をまとめた書面を郵送又はFAXで送付するのが良いでしょう。
また、弁護士を就ける予定がある場合には、「現在、弁護士に相談しているので、弁護士を選任し次第、代理人弁護士から回答させていただきます」といった内容の書面を送付しておくことで、前述した訴訟移行等のリスクを回避することができる可能性が高まります。
・請求者本人の場合
請求者本人から内容証明郵便が送られてきている場合、交渉は請求者本人と行う必要があります。
当事者同士の交渉となるため、相手が感情的になったり、脅迫してくるということもあり、交渉がまとまらないまま、解決まで時間がかかることが多いです。
・弁護士以外の第三者の場合
稀ではありますが、司法書士や行政書士、請求者本人の代理人と称する者(親族や知人等)が書面を送付してくることがあります。
まず、司法書士の場合、140万円以下の金額であれば、交渉を代理する権限を有していますが、140万円を超える場合、司法書士の有する権限の範囲外ということになります。
次に、行政書士や親族等の第三者は、請求者本人の請求権を処分する(金額の交渉をする)権限を有しませんので、第三者と交渉を行うことは控え、仮に交渉する場合には、本人と行うようにしましょう。
(2)回答
内容を確認したら、内容証明郵便記載の内容に対する回答をします。
回答は、書面で行うことが一般的で、前述のとおり、特に弁護士から書面が送られてきている場合には、電話ではなく、書面で回答する方が良いでしょう。
回答書面には、事実と異なる点があれば反論内容を、請求内容に応じられない点があれば応じられない旨とその理由を、こちらから提案することができる和解案があればその内容を記載します。
内容証明郵便の場合、「本書面が到達してから1週間以内に」というように、回答期限を指定されていることが多いですが、これに法的拘束力はありませんので、回答に時間がかかりそうな場合には、まずは「回答まで○週間程度、お時間をいただきます」などと回答しておいたうえで、その後に反論の書面を送ると良いでしょう。
4. 内容証明郵便が届いたらまずは弁護士に相談を
このように、内容証明郵便が届いた場合、適切な対応が求められます。
請求内容の妥当性や有効な反論内容は、専門的な知識がないと判断が難しいことがありますので、内容証明郵便が届いたという方は、まずは弁護士に相談されると良いでしょう。