相続が始まった場合に知っておくべき制度のひとつに「寄与分」があります。
被相続人(亡くなった方)の介護をずっとしてきた相続人は、寄与分という制度により他の相続人より遺産を多くもらえる可能性があるので、寄与分を受け取ることができるかを確認すると良いでしょう。
そこで、本記事では、寄与分のポイントを解説します。
目次
1. 寄与分とは
寄与分とは、被相続人の財産の維持や増加に特別な貢献をした相続人に対し、通常の法定相続分を超えた割合で財産を相続できるとする民法上の制度のことです。
ある相続人の貢献によって、被相続人の財産が維持(=減らなかった)されたり、増加したりした場合には、その相続人に対して他の相続人より多くの財産を相続させるのが公平であるという考えから認められているものです。
例えば、被相続人の相続財産(遺産)が1000万円あったとします。
被相続人には、子ども二人がおり、そのうち妹が長年被相続人の介護をしていたため、寄与分が250万円認められるとします。
寄与分が認められる場合には、相続財産からその金額を引き、残りの額を「みなし相続財産」として相続割合に基づきそれぞれの相続分を決定します。
上の例でいうと、それぞれの相続分は以下の図のとおりです。
特別な貢献とは、例えば、被相続人が営んでいる事業を無償で手伝っていたとか、長期にわたって被相続人の介護を行い、ヘルパー代を節約できた場合などが挙げられます。
寄与分は、あくまで相続人に対し認められているため、相続人ではない人(例えば義理の娘など)は請求できません。
ただし、相続人ではないのに長年被相続人を介護していた場合には、特別寄与料という別の制度を利用できる場合があるので、こちらの記事をご確認ください。
2. 寄与分はどのような場合に認められる?
寄与分は、被相続人の介護をしていれば無条件に認められるものではなく、以下の要件を満たす必要があります。
また、寄与行為は相続開始前の行為である必要があります。
例えば被相続人が亡くなった後に遺産の管理をしたとしても、寄与分の主張は認められませんので注意が必要です。
- 寄与行為が被相続人にとって必要不可欠であったこと
- 寄与行為が特別な貢献であること
- 被相続人から対価を得ていないこと
- 寄与行為が一定の期間以上あること
- 片手間ではなくかなりの負担を要していること
- 寄与行為と被相続人の財産の維持又は増加に因果関係があること
- 寄与行為が被相続人にとって必要不可欠であったこと
①寄与行為が被相続人にとって必要不可欠であったこと
寄与行為がなかったとしても、被相続人が自己の財産を維持・管理できていたような場合には、寄与分の主張は認められない可能性が高いといえます。
②寄与行為が特別な貢献であること
例えば親族として通常する家業の手伝いや、身内の世話といった程度の寄与では、寄与分の主張は認められません。
親族であれば、財産の維持や管理について多少貢献があるという事例は多くあり、そのすべてにおいて寄与分の主張が認められるべきではないためです。
被相続人との(親族という)関係上、通常期待されるような行為を超えた「特別な」貢献があったことが必要です。
③被相続人から対価を得ていないこと
既に寄与行為の対価を受け取っている場合には、他の相続人より遺産を多くもらうとむしろ不公平になることから、寄与行為が無償であることも必要です。
ただし、ごく低額の対価のみ受けていたような場合には、寄与分が認められる可能性もあります。
④寄与行為が一定の期間以上あること
例えば、少しの間被相続人の身の回りの世話をしたといった程度では、寄与分の主張は認められません。
裁判実務では、少なくとも1年以上の継続性は必要であると考えられています。
⑤片手間ではなくかなりの負担を要していること
例えば、自らも別の仕事をしており、空いている時間に少し家業を手伝っていたなどの場合には、寄与分の主張は認められません。
裁判例は、「専従性」といって、どの程度寄与行為に専従性(=専ら寄与行為のみに従事していたといえるか)を重視しています。
⑥寄与行為と被相続人の財産の維持又は増加に因果関係があること
寄与行為があったとしても、それにより被相続人の財産が維持されたり減らなかったのではなく、それとは無関係に被相続人の財産が増加しただけでは、その相続人による貢献とはいえませんから、寄与分の主張は認められません。
3. 寄与行為として認められるものの具体例とは
続いて、具体的にどのような行為であれば寄与行為として認められるかを、パターン別に解説します。
①家業従事型
被相続人が自営業をしていて、その事業を無償で手伝っていた場合には、寄与行為があったと認められる場合があります。
例えば、被相続人が代表取締役である会社の経理を全て担当していた、被相続人の営んでいるお店の店番を継続して行っていた場合などが考えられます。
ただし、一定程度継続的に寄与行為があったことが必要なため、被相続人が店番をできない日だけ単発的に手伝いを行っていただけであれば、特別の寄与行為があったと認められない場合があります。
②金銭等出資型
被相続人が住むための家を購入してあげた、被相続人の借金を代わりに返済してあげたなど、金銭的な支援を行った場合は、金銭等出資型として寄与行為が認められることがあります。
家業従事型とは異なり、継続性は必要とされていませんから、一度だけ、家の購入にあたり一括で頭金を出してあげたという場合でも認められ得るのが金銭出資型の特徴です。
③療養看護型
被相続人の介護を長期間行っていた場合に認められます。
こちらも、①の家業従事型と同様に、継続性が必要です。
また、親族には扶養義務といって、お互いに看護や介護をするという義務があります。
例えば、身の回りの世話を少しすることは、親族であれば当然であり、扶養義務の範囲といえるでしょう。
そこで、療養看護型において寄与分が認められるのは、通常の扶養義務を超えるような専属的貢献があった場合のみです。
例えば、介護が必要な方の身の回りの世話を付きっきりで一日中していたような場合には、寄与分が認められ得るでしょう。
④扶養型
扶養型とは、被相続人に対し定期的に仕送りしていた、被相続人の生活費を代わりに負担していたといった場合に認められます。
このパターンでも、③療養監護型と同様に、扶養義務との関係が問題となります。
つまり、被相続人に対して通常期待される扶養義務の範囲を超えたような寄与行為が必要です。
例えば、お小遣いを渡していたといった程度では、寄与行為があったとは認められない可能性が高いでしょう。
⑤財産管理型
被相続人の所有する財産の管理をしていた場合に認められ得るのが、財産管理型の寄与行為です。
例えば、被相続人がアパートを所有していて、そのアパートの入居者を被相続人に変わって探し、入居者との契約締結のために必要な行為をしたといった場合に認められます。
こちらも継続性が必要となりますので、たまにアパートの清掃をしていたといった程度では、寄与分の主張は認められない可能性が高いでしょう。
4. 寄与分の計算方法は?
では、具体的に寄与分はいくら請求できるのでしょうか。
ここでは、被相続人の介護をしていたという療養監護型を例に計算方法を解説します。
この場合、寄与分は以下の式で算定します。
介護日数×介護報酬相当額×裁量割合
介護日数とは、被相続人の介護を実際に行っていた日数です。
介護報酬相当額は、介護報酬基準額(介護保険制度において要介護度に応じて定められている基準額)を元に、相当な報酬額を5000円~8000円程度の間で決めます。
最後に、裁量割合として0.5~0.9の数値を乗じます。
これは、元々扶養義務のある親族は、専門的な介護業者と比べて介護報酬額を低めに見積もるべきであるという考え方からなるものです。
5. 寄与分を認めてもらうためのポイント
寄与分は、自分以外の他の相続人に対して主張していくことになります。
請求される側としても、単に「介護をしていました」というだけではなかなか受け入れられないでしょうから、客観的な証拠とともに主張することがポイントとなります。
例えば、被相続人の介護を行っていた場合、具体的にいつからいつまで行っていたかを、日記などに記録として残しておくようにしましょう。
また、被相続人の家業を手伝っていた場合には、タイムカードなどの証拠が有用です。
他にも、被相続人に対し金銭を出資した場合には振込履歴などの記録があるとよいでしょう。
6. まとめ
前述のとおり、寄与分は、「特別の寄与」があった場合に認められますが、「特別」という概念はあいまいであり、どういった寄与行為があれば「特別」の寄与といえるかは、一概に分かりません。
そのため、相続人間の協議ではなかなか認められなかったり、調停でも正しく主張できないといったことが起こりえます。
主張の難しさがあるとしても、長年被相続人に貢献したのであれば、寄与分は正しく認められるべきですから、寄与分の主張をご検討中の方は、以下フォームよりお気軽にお問い合わせください。