交際をしている相手とは、交際期間中はトラブルなく仲良く過ごしていても、別れた途端に相手が豹変してしまい嫌がらせをされてしまうということは、残念ながらよくあります。
今回は、その中でも特に近年増えてきている、元交際相手とのSNSトラブルについて解説します。
目次
1.SNSでのよくある嫌がらせのパターン
元交際相手がSNSを利用して嫌がらせをするという事例は、SNSの発達とともに増えています。
例えば、交際中に撮影した性的な写真や動画を拡散される、ありもしない噂話を流される、職場や自宅の情報を晒される、などが考えられます。
まず、SNSで性的な写真や動画を拡散する行為については、2014年に成立した、リベンジポルノ防止法(私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律)違反に該当する可能性が高いです。
この法律は、リベンジ(復讐)目的で元交際相手や元配偶者等の性的な写真や動画を公開する行為を防止する目的で制定されたものです。
正式名称が「私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律」であるとおり、「私事性的画像記録」の拡散が処罰の対象となります。
「私事性的画像記録」とは、性行為(又は類似行為)の際の人の姿態を撮影したものや、人の性器等を触る行為をしている姿態を撮影したもの、衣服の一部や全部を身に着けていない姿態を撮影したもの等をいいます。
リベンジポルノ防止法では、こういった画像や動画を「公表」することが、「公表罪」(リベンジポルノ防止法第3条第項)に該当するとして、3年以下の懲役や50万円以下の罰金が科されると規定されています。
なお、実際にはまだ写真等を掲載されていない場合であっても、「この写真をSNSに投稿してやるぞ」などと言われている場には、生命や身体、財産、名誉に対して害を加えることを告知して人を脅したとして、脅迫罪(刑法第222条1項)に、「この写真をSNSに投稿されたくなかったら、100万円を払え」などと言われた場合には、脅迫行為によって金銭を脅しとったとして、恐喝罪(刑法第249条1項)に、「写真を投稿されたくなかったら、復縁しろ」などといわれた場合には、脅迫行為によって、義務のないことを強制したとして、強要罪(刑法第223条1項)に該当する可能性もあります。
次に、ありもしない噂話を流されている場合には、名誉棄損罪(刑法第230条)が成立する可能性があります。
名誉棄損罪とは、公然と、事実を摘示(=挙げて)して、人の社会的評価を低下させた場合に成立します。
例えば、「元彼女は、複数人の異性と性的関係を持っていた」などとSNSに投稿した場合には、人の社会的評価を下げるような投稿をSNSという不特定多数の人が閲覧できる場で行ったとして、名誉棄損罪に該当する可能性があります。
なお、名誉棄損罪と似ている犯罪として「侮辱罪」(刑法第231条)があります。
こちらは、事実の適示がなく公然と人を侮辱した場合に成立するものですので、「●●はバカ」「●●はブス」といった内容をSNSに投稿した場合に成立する可能性があることになります。
最後に、自宅の住所をSNSにさらされている場合には、それのみで刑法上の犯罪は成立しないことが多いですが、プライバシー権の侵害に該当します。
プライバシー権とは「自己の私生活上の事柄をみだりに公開されない権利」と解釈されており、憲法第13条で保障されるものと考えられています。
自宅の住所については、個人の生活の本拠地であり、一般的には、公開を欲しないということができますので、プライバシー権の侵害であると主張することができるでしょう。
2.対処法
では、上記のように元交際相手とのSNSトラブルがあった場合には、どのように対応したら良いのでしょうか。
まず、まだSNSに投稿がされていない場合には、とにかく投稿を未然に防ぐことが一番です。
ただし、相手がSNSに投稿をするぞ、というような言動をしている場合、相手は冷静な判断をできなくなっている場合がほとんどですから、単に「やめてほしい」と言ってもやめてくれない場合も多いでしょう。
そういった場合には、弁護士に依頼し、弁護士から書面で相手に対して、そういった行為をしないように警告文を送る、という方法を検討すると良いでしょう。
相手としても、弁護士から書面を受け取るということはあまり経験のない事柄であるため、自分のしようとしていることの重大さが認識できるでしょう。
また、弁護士が書面を送付する場合には、具体的に相手のどういった行為がどのような犯罪に該当するのかを明確に記載したり、犯罪に該当しないとしても、もしSNSに投稿した場合には、損害賠償の請求をするということを伝えることとなりますので、相手としても、自分の行為のデメリットを明確に認識できます。
次に、残念ながら、既にSNSに投稿がされてしまった場合、まずはとにかく証拠を保存することが必要です。
犯罪行為に該当するとして警察に被害届を提出する場合や、相手の行為が不法行為に該当するとして慰謝料等の損害賠償請求をする場合に、必ず必要となるのが相手が実際に投稿をしたことの証拠です。
相手が一定期間経過後に投稿を削除したり、非公開にして閲覧できなくなったりすることも想定されますので、すぐに証拠を保存することが大切です。
可能であれば投稿画面を印刷しておくことをお勧めします。
スクリーンショット等よりも偽造がしづらいことから、一般的にはより信用性の高い証拠といえるためです。
また、「1」で解説したように、犯罪行為に該当する可能性のある行為については、警察に相談することも一つの対応策です。
この際には、証拠を持っていくことを忘れないようにしましょう。
警察としても、当事者の証言だけでは犯罪行為に該当するか判断しづらいことから、証拠がない場合には具体的な対応まで進めてもらえないことが多いためです。
さらに、警察に相談をする際は、弁護士を同伴して行くことも効果的です。
弁護士が同行しているということは、弁護士が事実関係を整理し、犯罪行為に当たり得ると判断したからこそ同行しているのだろう、と警察に理解してもらうことができ、その後の対応がスムーズにされることが期待できます。
また、民事での対応としては、慰謝料を請求することが考えられます。
民法第709条では「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」と定められており、続く民法の第710条には、「他人の身体、自由もしくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、第709条の規定により損害賠償の責任を負うものは、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。」と定められています。
この「財産以外の損害」に対する賠償を、一般的に「慰謝料」と呼びます。
つまり、精神的苦痛に対する損害賠償のことを慰謝料と呼んでいます。
プライバシー権を侵害するような投稿をしたり、犯罪行為に該当するような投稿をした場合には、権利を侵害したとして、慰謝料を請求することが可能となりえます。
3.SNS上にされた投稿の削除
「2」に記載したとおり、警察への相談や損害賠償請求などの対処をしていくとともに、投稿をされてしまった方としては、まず投稿を削除してもらいたい、とお考えになるかと思います。
SNSにされた投稿を削除してもらう方法としては、主に、
①本人に投稿を削除させる
②サイトの管理者にウェブフォーム等から削除依頼をする
③一般社団法人テレコムサービス協会が作成したガイドラインに基づいて削除請求をする
④裁判手続で削除を請求する
といった方法が考えられます。
まず①については、本人に、権利侵害をするような投稿であることを示して削除を求めることが考えられます。
このような投稿をしている方が、口頭で求められただけで任意に投稿を削除することは考えづらいでしょうから、最低限、書面での請求をする必要があるでしょう。
次に、②についてです。
多くの掲示板やSNS等では、削除依頼のためのフォームを準備していることが多いです。
フォームを利用して簡便に削除請求をすることができ、特に費用もかからないため、手軽な方法であるといえます。
ただし、ウェブサイト側でも、権利侵害が実際にあったかを判断し、あると判断できた場合に削除するということとなりますので、証拠が不十分な場合などで、権利侵害が明らかではない場合には何も対応しない、というウェブサイトも多い点がデメリットとなります。
手軽な方法ではあるため、まずは試してみて、削除がされない場合には、③や④の方法を考えるという方法もありえるでしょう。
③については、一般社団法人テレコムサービス協会という、インターネットサービスのプロバイダ等が所属している団体が出している削除請求のガイドラインがあり、削除請求をするための書式も公開されていますので、こちらのガイドラインに従って削除請求をすることができますし、書式や方法もインターネットで閲覧することができます。
このような方法でも削除ができない場合には、裁判手続をすることが考えられます(もちろん、当初から裁判手続を進めることも可能です)。
SNSに投稿されている情報は、一般的には、時間が経てば経つほど拡散されてしまうことから、迅速な対応が必要となります。
そこで、削除請求については「仮処分」という手続を利用するのが一般的です。
「仮処分」とは、簡単にいうと、通常の民事訴訟を提起して勝訴した場合に得られる状態(本件でいえば「投稿の削除」という状態)と同じ状態を確保するための手続となります。
通常の民事訴訟では、自分の主張が正しいことを認めてもらう必要がありますが仮処分の場合には、必要とされる証明の程度が異なり、「主張が一応確からしい」という程度まで認められれば、つまり、「権利侵害がある」とまでは断定できなくても「権利侵害があるであろう」というところまで認めてもらえば、仮処分が認められることとなります。
仮処分は、裁判所に対して、投稿削除の仮処分を求める申立書を提出して行います。
この申立書において、投稿が削除されないことにより、自己の法律上保護された権利が侵害されるのであるということを主張していくこととなります。
例えば、プライバシー権の侵害があるとして仮処分を求める場合には、自己のどのようなプライバシー権が侵害されているかを主張していくこととなります。
申立後は、審尋といって、サイトの管理者等の削除請求をした相手方と、削除を求める側の当事者が立ち会う期日が開かれ、双方の言い分や証拠を裁判所が確認していくこととなります。
審尋を経て、裁判所が仮処分を認めるという判断をした場合には、担保金を納付して、仮処分の命令が発令されるという流れで手続が進みます。
担保金は、仮に不当な仮処分がされた場合に相手が受ける損害を担保するために納めるものであるため、通常は、一定の手続を踏めば返還されます。
4.まとめ
元交際相手からのSNSでの嫌がらせについては、特に投稿がすでにされている場合、迅速な対処が必要となることが多いです。
しかしながら、サイトの管理者や裁判での削除を求める場合には、権利侵害があることを十分に主張できずに、削除の対応がされない・削除が認められないということがあり、ご自身のみで対応をすることが難しい場合も多いでしょう。
当事務所では、迅速かつ丁寧な対応を心がけており、緊急で対応が必要な場合には、相手へ即座に警告を送付するなど、事案に応じた解決方法のご提案が可能ですので、現在お悩みの方は、ぜひ一度、お気軽にお問い合わせください。