過去に逮捕歴や前科がある方としては、周囲の人に知られたくないと思うのが通常でしょう。しかし、時には逮捕歴や前科が、インターネットのニュースサイトに掲載されたり、ネット上に書きこまれてしまうことがあります。これにより周囲の人に知られてしまったり、就職活動の際に不利益な取り扱いをされてしまう可能性があるでしょう。
そこで、本記事では、逮捕歴や前科の報道・書き込みの削除が可能なケースや削除請求の方法について解説します。
目次
1 逮捕歴や前科の報道・書き込みは削除できる?
逮捕歴や前科の報道・書き込みは、全ての場合に削除が可能なわけではありません。
まず、報道機関には、報道の自由があるとされています。報道の自由とは、メディアが公権力等から干渉されることなく事実を取材・報道する権利のことをいい、憲法第21条の「知る権利」(必要な情報を自由に入手できる権利)に奉仕する重要な権利とされています。このようにメディアには報道の自由があることから、逮捕歴や前科を報道することも、保護に値するとされているのです。また、報道ではなく掲示板やSNSへの書き込みについても、思想、意見、主張、感情などを、公権力による検閲や不当な妨害を受けることなく自由に表現することのできる「表現の自由」(憲法第21条)において保障されています。
逮捕歴や前科に関する報道・書き込みについて、いかなる場合であっても削除が可能としてしまうと、こういった報道の自由や表現の自由の侵害に該当してしまいます。他方で、逮捕歴や前科については、個人のプライバシーに属する事実であることから、いかなる場合にも削除ができないわけではなく、一定の場合には削除が可能となると考えられています。
そして、その判断基準について、裁判所は、「本件事実の性質及び内容、本件投稿によって本件事実が伝達される範囲と債権者が被る具体的被害の程度、債権者の社会的地位や影響力、本件投稿の目的や意義、本件投稿がされた時の社会的状況とその後の変化など、債権者の本件事実を公表されない法的利益と本件投稿を一般の閲覧に供し続ける理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきもので、その結果、債権者の本件事実を公表されない法的利益が本件投稿を一般の閲覧に供し続ける理由に優越する場合には、投稿の削除を求めることができるものと解するのが相当である」と判示しています(最高裁判所令和4年6月24日第二小法廷判決・民集76巻5号1170頁)。
つまり、それぞれの要素を考慮したうえで、事実を報道・公表する必要性と、公表しないことにより守られる利益を比較し、後者が優越する場合には、削除が認められるという考え方です。
2 削除が認められやすいと考えられるケース
不起訴処分となったケース
犯罪の成立に関し嫌疑があるとして嫌疑不十分で不起訴処分となっていたり、被害者との示談が成立するなどして不起訴処分となっている場合、公共の利害(社会一般の利益)に関する事実といえる程度が低いとして、削除が認められやすいといえるでしょう。
事件から時間が経っているケース
一般的に、事件から長期間が経過している場合、過去の事実であり、現在も報道したり、書きこみによって多数の人に知らせる必要性が低いといえることから、事件から相当程度時間が経過している場合、削除が認められやすいと考えられます。
揶揄・嘲笑するような文言と共に投稿されているケース
特にSNSや掲示板の書き込みでは、逮捕歴や前科と共に、対象者を揶揄・嘲笑するような文言が記載されていることがあり、公共性のある投稿とはいえないケースも散見されます。
このような場合には、投稿の削除が認められる可能性が高くなります。
3 削除請求の方法
①本人に削除を求める
投稿した相手が誰であるか認識できている場合や、DM等で連絡が取れる場合には、本人に連絡して任意に削除をしてもらうことが考えられます。
相手が応じてくれれば時間や費用がかからず、簡便な方法といえますが、相手が任意に削除に応じる可能性は高いとはいえないため、同時に②以下の対応をすることも検討しましょう。
②サイトの管理者にウェブフォーム等から削除依頼をする
多くのSNSや掲示板では、違法な投稿の通報や削除請求のためのフォームを設けていますので、フォームから削除依頼することが考えられます。単に削除を求めるのではなく、判例等も挙げながら、権利侵害があることを説明するようにしましょう。
比較的簡単に削除依頼ができる方法ではありますが、あくまでサイト管理者の判断で削除するかが決定されるため、必ずしも削除されるわけではないというデメリットもあります。
③一般社団法人テレコムサービス協会が作成したガイドラインに基づいて削除請求をする
一般社団法人テレコムサービス協会とは、インターネットサービスのプロバイダ等が所属している団体です。いわゆる「テレサ書式」というものがあり、投稿の削除を求める場合に必要事項を記載する書式が公開されていますので、こちらを利用して削除請求することが考えられます。ただし、この方法によっても、必ずしも削除がされるわけではないことに注意が必要です。
④裁判手続で削除を請求する
①~③の方法を試しても削除がされない場合などには、裁判手続きを利用することを検討しましょう。投稿の削除を求める場合には、簡易迅速に審理をしてもらうことのできる「仮処分」という手続きによるのがお勧めです。
削除請求については、以下のコラムで詳しく解説していますので、ご確認ください
4 削除依頼をする前に
投稿の削除依頼をする前には、必ず事前に投稿の証拠を保管しておくようにしましょう。
削除依頼をした場合、どのタイミングで投稿が削除されるかについては、こちらで把握することが難しいため、知らない間に投稿が消えていた、ということになりかねません。
一度投稿が削除されてしまうと、投稿の日時やURL等の、投稿者の特定やその後の損害賠償請求に必要な情報が確認できなくなってしまう恐れがあります。投稿の削除と共に、相手への損害賠償請求を検討している場合には、必ず証拠を保管しておくようにしましょう。
なお、投稿者の特定については、以下のコラムで解説していますので、ご参照ください。
5 まとめ
逮捕歴や前科の報道・書き込みがある場合、日常生活に大きな支障をきたしてしまうことがあるでしょう。逮捕歴や前科の報道・書き込みの削除は、知る権利や表現の自由という憲法上重要な権利との兼ね合いがあるため、個人で削除を請求することは難易度が高いといえます。弁護士に相談することで、具体的な見通しや対応方法を知ることができますので、一度弁護士に相談してみることをお勧めします。当事務所には、東京都内の大手IT企業にて企業内弁護士として勤務した経験のある弁護士が所属しており、実際に投稿の削除を認めさせた実績もございます。お困りの方は、問い合わせフォームよりお気軽にお問い合わせください。
