従業員等の横領・背任行為が発覚した場合、会社としては、会社の損害の回復や再発防止のために法的措置を講ずることが必要な場面もあるでしょう。
本稿では、従業員の横領・背任行為が発覚した場合の対処法を解説いたします。
目次
1 横領・背任とは
横領
「横領」とは、自己の占有する他人の財物を不法に自己の物にしてしまうことをいいます(単純横領罪、刑法第252条)。
例えば、会社の税金を支払うために従業員が金銭を預かったにもかかわらず、自身の飲食代に使用してしまった場合は、横領に該当することになります。
反復継続した(日常的に行っている)業務において、横領行為をした場合には、「業務上横領」に該当し、単純横領罪よりも重い刑罰が定められています(刑法第253条)。
背任
「背任」とは、他人のためにその事務を処理する者が自己又は第三者の利益を図り、若しくは、本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をして本人に損害を与えることをいいます(刑法第247条)。
例えば、会社の機密情報を協業他社に漏洩し、その見返りとして協業他者から金銭を受け取ったような場合には、背任に該当することになります。
なお、会社の取締役や役員が背任行為を行った場合には、「特別背任」に該当し、背任罪よりも重い刑罰が定められています(会社法第960条)。
2 横領・背任に対する法的責任
民事上の責任
横領と背任はいずれも民法上の不法行為に該当します(民法第709条)。
そのため、従業員の横領又は背任行為により会社が被った損害に対しては、損害賠償請求をすることができます。
なお、会社の取締役や役員が横領又は背任行為を行った場合には、役員の任務懈怠(役員が本来果たすべき義務を果たさないこと)としての損害賠償責任を負うことになります(会社法第423条1項)。
刑事上の責任
前述のとおり、横領と背任行為に対しては、刑事罰が定められています。
各行為の法定刑は以下のとおりです。
| 罪名 | 法定刑 | 条文 |
| 単純横領罪 | 5年以下の拘禁刑 | 刑法第252条 |
| 業務上横領罪 | 10年以下の拘禁刑 | 刑法第253条 |
| 背任罪 | 5年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金 | 刑法第247条 |
| 特別背任罪 | 10年以下の拘禁刑又は1000万円以下の罰金 | 会社法第960条 |
3 対処法
①証拠の収集
横領・背任行為又はその疑いが発覚した場合、まずは証拠を収集するようにしましょう。
前述した民事上の損害賠償請求が認められるためには、証拠が必要となります。また、証拠がないと後述する警察への被害届や刑事告訴が受理されない可能性もあるので、証拠の収集は非常に重要です。
証拠収集の際に注意しなければならないのは、横領・背任行為を行った当事者に直接話を聴くなどして当事者に知られることを控えることです。
証拠の収集が十分でない時点で当事者に横領・背任の調査や証拠収集をしていることを知られてしまうと、証拠を隠滅されてしまったり、共犯者や関係者と口裏を合わせられてしまうおそれがあります。
証拠の収集に当たっては、当事者や当事者と結託して横領・背任に加担している者に察されることのないように徹底しましょう。
横領・背任の証拠としては、以下のものが考えられます。
- 契約書、請求書、見積書、領収書等の契約に関する書類
- 預金通帳等の送金履歴
- 取引先とのメールやLINE等の履歴(※当事者に知られることなく確認できるか要確認)
- 他の従業員等の証言(※ただし、当該従業員等が共犯者の可能性がある場合は事情聴取を控えるべき)
②事情聴取
証拠の収集が完了したら、当事者に事情聴取を行いましょう。
十分な調査や証拠の収集によっても、横領・背任行為のすべてを把握できているとは限りません。
当事者には証拠を開示することなく、すべての横領・背任を含む違法行為を自白するよう求め、詳細な事情や横領・背任の具体的な金額を確認していきます。
事情聴取においては、供述内容を証拠化するために、内容を録音し、また、聴取した内容を文書にまとめた上で、当事者に内容に間違いがない旨の署名・押印をもらうようにしましょう。
事情聴取の注意点としては、暴力や暴言を用いないという点です。暴力や暴行を用いた事情聴取を行ってしまうと、暴行罪や脅迫罪などの刑事罰を問われたり、損害賠償請求を受けたり、折角聴取できた自白が無効と判断されてしまうおそれがあります。
なお、事情聴取の内容を録音することは、前述した証拠化以外にも、暴行や脅迫がなかったことの証明に役立ちますので、事情聴取の際は必ず内容を録音するようにしましょう。
③損害賠償請求
前述のとおり、横領・背任は民法上の不法行為に該当し、当事者に対する損害賠償請求が可能です。
そこで、事情聴取が完了したら、当事者に対して損害賠償請求を行います。
損害賠償請求は、証拠化するために、内容証明郵便等の記録に残る方法で行うのが良いでしょう。
損害賠償請求をすることにより、会社の被害を回復できるだけではなく、将来の横領・背任の再発防止に繋がります。
損害賠償請求と並行して後述する刑事事件の手続を進めることも可能ではありますが、当事者が刑事事件化をおそれて損害賠償請求に応じる効果が期待できることから、刑事事件の手続を保留としつつまずは損害賠償請求を行うことが多いです。
損害賠償について合意が成立したら、合意した内容を書面にまとめ、当事者の署名・押印をもらうようにしましょう。
損害賠償に関する協議を行う場合には、暴行や脅迫を受けたという反論を防ぐために、内容を録音しておくと良いです。
また、横領・背任行為に取引先等の第三者が加担していた場合には、当該取引先等も共同不法行為者に該当し、取引先等に対しても損害賠償請求が可能です(民法第719条)。
④被害届の提出・刑事告訴
当事者が横領・背任行為を認めない場合や損害賠償請求に応じない場合には、刑事事件化を検討します。
具体的には、これまで収集した証拠をもとに警察への被害届の提出や刑事告訴を行います。
被害届又は刑事告訴が受理されると、捜査機関(警察や検察)による捜査が始まり、その過程の中で、当事者から示談の申入れがあったり、損害賠償に応じる可能性があります。
なお、刑事告訴の方法は、以下のコラムで解説しておりますので、ご参照ください。
⑤解雇・退職手続
企業秩序維持の観点からは、横領や背任を行った従業員に対して、会社として何らかの処分を行うことを検討すると良いでしょう。
横領又は背任があったことが証拠上明らかである場合、雇用契約書や就業規則に定めている解雇事由に該当し、解雇が有効と判断される可能性が高いケースが多いことから、懲戒解雇を含む懲戒処分や普通解雇等の処分を検討することになります。
解雇は、労働基準法に解雇権濫用の法理が定められており、その有効性が厳しく判断されることから、解雇に当たっては、弁護士に相談し見通しを確認すると良いでしょう。
なお、解雇の方法については、以下のコラムで解説しておりますので、ご参照ください。
また、解雇処分までは行わないとしても、会社の在籍させ続けることは難しいケースが多いため、合意退職や退職勧奨等の手続を取ることが必要となるでしょう。
⑥再発防止策
横領・背任事件への対応が完了したら、再発防止策を講じるようにしましょう。
再発防止策としては、上司による監視・チェック体制の強化、横領・背任の具体的な行為を禁止する雇用契約書・誓約書・就業規則・取引先との契約書等の規定の改訂、コンプライアンス研修の実施などが挙げられます。
4 まとめ
上記のとおり、従業員の横領・背任に対しては、証拠の収集・事情聴取などの対応、民事上の損害賠償請求・刑事事件・解雇などの法的措置が必要となる場合があります。
これらの対応には法的・専門的知識が必要となることがあるので、弁護士への相談・依頼を検討されると良いでしょう。
当事務所は、企業法務・刑事事件・労働案件に対応しており、従業員による横領・背任事件の経験及び実績も豊富です。
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