被相続人(亡くなった方)に子がいる場合には、孫は相続人とはなりません。
しかし、孫へも自身の財産を相続させたい、と考える方もいるでしょう。
孫へ相続をさせたい場合に考えられる方法としては、孫と養子縁組をすることが考えられます。
そこで、本記事では、養子縁組の際のメリットやデメリット・注意点を解説します。
目次
1. 法定相続人と養子縁組
法定相続人とは、民法で相続人となると定められている人のことをいい、被相続人に子がいる場合、被相続人の配偶者と子が法定相続人となります(民法第890条、民法第887条1項)。
被相続人に子がいる場合、子が既に亡くなっている場合を除き、孫は法定相続人とはなりません。
しかし、孫と養子縁組をした場合、法律上、祖父母と孫には法律上の親子関係が生じますので、祖父母の実施と同様、法定相続人となります。
実子と養子で法定相続割合に差は生じないため、孫と養子縁組をした場合には、孫は実子と同じ割合で相続人となることができるのです。
孫にも自分の子と同じように財産を残してあげたい、と希望する場合には、養子縁組をすることで希望を実現できることになります。
2. 孫へ相続させたい場合に養子縁組をするメリット
①遺言を作成する手間がかからない
孫へ遺産を遺したい場合には、遺言書によって孫へ財産を相続させると記載することもできます。
しかしながら、遺言によってする場合、形式を守っていないと無効になってしまったり、公正証書遺言を作成する場合には費用がかかったりという手間やリスクが生じます。
また、特定の相続人に対して多額の財産を残す場合には、他の相続人(法律上定められた最低限の相続分)から遺留分侵害額請求をされてしまうという可能性も考えられます。
養子縁組をした場合には、こういった手間やリスクなく、実子と同じ相続割合で相続させることが可能です。
②相続税の節税ができることがある
相続税は、相続する財産の額から債務や葬式の費用などを差し引いた額が一定の額(基礎控除額)を上回る際に発生します。
この基礎控除の額は、以下の式により算出します。
3000万円+(600万円×法定相続人数)
このように、法定相続人の数が増えると基礎控除の額も増えるため、養子縁組により法定相続人の数が増えた場合には、その分基礎控除の額も増えることになります。
また、相続税の税率は、課税価格によって税率も変わります(いわゆる累進課税です)。
課税価格(相続財産から基礎控除の額や債務などを控除した額)の額が大きいほど税率も上がるため、法定相続人が増えることにより、税率が下がる可能性もあるのです。
ただし、基礎控除の額を計算する際には、養子縁組をすれば無制限に法定相続人の数に加えられるのではなく、実子がいるときは一人まで、いないときは二人までしか法定相続人の数に加えられない点には注意が必要です(再婚相手の連れ子を養子縁組した際には、子の制限はありません)。
③死亡保険金・死亡退職金の非課税限度額が増える
被相続人が生命保険に加入していた場合や、死亡により退職金が遺族に支払われた場合、その額は相続税の課税の対象となります。
この、死亡保険金や死亡退職金には、それぞれ以下の式で計算される非課税枠があります。
500万円×法定相続人の数
こちらも法定相続人の数により非課税枠が増えるので、法定相続人の数が多いほど非課税枠も多くなります。
ただし、基礎控除の額の計算のときの同様、実子がいるときは一人まで、いないときは二人までしか法定相続人の数に加えられない点には注意が必要です。
3. 孫へ相続させたい場合に養子縁組をするデメリット
①実子との間でトラブルが生じる可能性がある
前述したとおり、実子と養子の法定相続割合には差はありません。
同順位の相続人が複数いる場合、相続分を均等で割ることになります。
つまり、もし子(全員)の相続分が300万円の場合、実子2人であれば、その300万円を1/2ずつの150万円ずつを相続することになります。
ここに養子縁組をして養子が一人増えた場合には、300万円の1/3ずつ、100万円をそれぞれが相続することとなりますので、子一人当たりの相続分は減ってしまうことになります。
実子としては、本来もらえるはずであった相続分が減ってしまうことになりますので、養子に対して相続放棄をするよう迫るなど、相続人間で争いになってしまうことが考えられます。
②相続税額の2割加算がされることがある
相続税の2割加算とは、相続人のうち特定の人について、相続税の額を2割加算する制度です。
被相続人の孫が養子となった場合、本来は被相続人から子への相続と、その子から孫への相続で2回相続が発生し、その都度相続税が課税されるはずであるのに、1回の相続しか発生しないことにより1回分相続税を免れることになるため、その対処として加算という制度があります。
加算額は、以下の式で計算されます。
各相続人の相続税額×20%
2割加算されてしまうことにより相続税がどの程度増えるのかをしっかり確認したうえで、養子縁組をするか否かを検討するとよいでしょう。
4. 孫へ相続させたい場合に養子縁組をする場合の注意点
①養子縁組の解消ができないこともある
養子縁組の解消は、当事者の合意があれば離縁届を提出することで可能です。
しかしながら、仮に相手が同意しなかった場合には、調停の申立てが必要となります。
更に、調停でも相手が離縁に同意しない場合には裁判を行わなくてはなりません。
裁判で離縁が認められるには、以下の法律上認められた離縁理由があることが必要です(民法第814条1項)。
- 他の一方から悪意で遺棄されたとき(民法第814条1項1号)
- 他の一方の生死が3年以上明らかでないとき(民法第814条1項2号)
- その他縁組を継続し難い重大な事由があるとき(民法第814条1項3号)
いかなる場合でも簡単に離縁が認められるわけではないことに、注意が必要です。
②税務署に認められない場合がある
相続税対策を目的として養子縁組をしたと税務署に判断された場合、養子を基礎控除の額の算定にあたり法定相続人に含めることが認められない場合があります。
相続税対策のみを目的として養子縁組をしたわけではないと説明できる理由(家系の係属のためなど)を持っておくとよいでしょう。
5. 養子縁組以外の方法
これまで述べてきたとおり、孫に相続をさせたい場合に養子縁組をするには、メリット・デメリットの双方があります。
養子縁組をしなかったとしても、以下のような方法で財産を残すことができますので、併せて検討するとよいでしょう。
①遺言書を作成する
遺言書を作成し、孫に対し特定の財産(預貯金や不動産など)を相続させる旨を記載することで、自由に孫に相続して欲しい財産を相続させることができます。
ただし、既に述べたとおり、多額の財産を相続させるとした場合には、他の相続人の遺留分を侵害する内容となってしまい、後々トラブルとなる可能性があるので、注意が必要です。
遺留分については、こちらのコラムで解説していますので、こちらを参考に、遺留分を侵害しないような内容の遺言を作成するとよいでしょう。
遺留分の計算方法は?具体例付きで簡単に遺留分が分かる
また、遺言書の作成方法は、以下のコラムで詳しく解説しています。
遺言書の書き方は?揉めない遺言書の内容を弁護士が解説〜例文付き〜
②生前贈与をする
生前贈与とは、尊命中に財産を他者に無償で譲渡することをいいます。
贈与は、贈与者(財産を譲渡する側)と受贈者(財産をもらう側)の合意のみでできますので、好きなタイミングで財産を譲渡できる点がメリットです。
なお、年間110万円を超える贈与をした場合には贈与税が発生しますので、注意が必要です。
この場合でも、教育資金の贈与の場合には1500万円まで、住宅購入資金の場合は500万円または1000万円までなど、非課税制度が用意されていますので、これらも活用して贈与を行うといいでしょう。
③生命保険を活用する
生命保険に加入し、受取人を孫にすることで、ご自身が亡くなった際に死亡保険金という形で孫に財産を残すことができます。
ただし、法定相続人ではない人が生命保険金の受取人となっている場合には、死亡保険金の非課税制度の適用外である点には注意が必要です。
6. まとめ
孫に財産を残す方法としては、本記事で紹介したとおりいろいろな方法があります。
ご自身の状況によっても、どの方法が最適であるかは異なりますし、税金の問題も絡んでくるため、ご自身のみでは判断が難しい場合もあるでしょう。
当事務所では、税理士とも連携してご相談にお乗りすることが可能ですので、お気軽にお問い合わせください。