インターネット上(5チャンネル・爆サイなどの掲示板や、Facebook・X(旧Twitter)Instagramなど)で誹謗中傷されている・自分の情報や写真を勝手に公開されている場合には、相手に対して損害賠償請求をできることがあります。
しかしながら、インターネット上の投稿は匿名で行われていることも多く、損害賠償請求の前に、まず相手を特定することが必要となるケースがほとんどです。
そこで、本記事では、インターネット上の投稿をした人(発信者)を特定するための手続きのひとつである、発信者情報開示命令について解説します。
目次
1. 発信者情報開示命令とは
発信者情報開示命令とは、インターネット上の投稿によって自己の権利を害されたと主張する人が、発信者(投稿をした人)に関する情報を開示するよう求める手続きです。
同じく発信者を特定するための手続きとして、発信者情報開示請求という裁判上の手続きもありますが、発信者情報開示命令は、非訟事件(訴訟事件以外の裁判事件)であり、より簡易・迅速に発信者情報の開示を受けられるよう、2022年10月1日に施行された改正プロバイダ責任制限法(民事関係手続等における情報通信技術の活用等の推進を図るための関係法律の整備に関する法律)により定められた手続きです。
2. 発信者情報開示命令の申立ての流れ
発信者情報開示命令の申立ては以下のような流れで進めます。
なお、発信者情報開示命令を申し立てるには、対象の特定が申立てを行おうとする人の権利を侵害していることが明らかである等の要件が必要です。
要件は、発信者情報開示請求と共通となりますので、こちらの記事でご確認ください。
- サイト管理者(CP=コンテンツプロバイダ)への発信者情報開示命令申立て
- CPへの提供命令申立て
- アクセスプロバイダ(AP)への発信者情報開示命令申立て
- APへの消去禁止命令の申立
- CPからAPへのIPアドレスなどの提供
- APから投稿者への意見照会
- 開示命令の発令
①サイト管理者への発信者情報開示命令申立て
まずは、投稿がされているサイトの管理者宛に、発信者情報開示命令の申立てを行います。
通常、サイト管理者は投稿をした人の氏名や住所などの情報を保有していないことから、投稿者に関する直接の情報ではなく、投稿がされた際のIPアドレスを開示するように求めます。
東京地方裁判所に申立てを行う場合、必要な書類は、以下のとおりです。
発信者情報開示命令の申立ては、東京高等裁判所、名古屋高等裁判所、仙台高等裁判所又は札幌高等裁判所の管轄区域内に所在する地方裁判所が管轄を有する場合、それらの地方裁判所だけではなく、東京地方裁判所に申立てができます。
例えば、相手方の所在地が静岡市であり、静岡地方裁判所が管轄を有する場合には、東京地方裁判所にも申立てができます。
- 申立書(写し含め計2通)
- 証拠(対象の投稿のスクリーンショットなど)
- 証拠説明書(証拠の標目や内容を説明するための書類)
- (相手方が法人の場合)資格証明書
- 印紙:1つの申立てにつき1000円
- レターパックライト(相手方に申立書の写しを送付する用)
申立書の書式は裁判所のホームページで確認できます。
なお、アカウント作成の際に電話番号やメールアドレスの登録が必要なサイトの場合には、IPアドレスだけではなく電話番号やメールアドレスを開示するよう求めることもできます。
②CPへの提供命令申立て
提供命令とは、一定の情報を提供するよう裁判所から命令するよう求める手続きです。
ここでは、(ⅰ)申立人に対し、プロバイダ(インターネット接続サービスを提供する事業者)名を提供せよ(ⅱ)サイト管理者に対し、サイト管理者が発信者を特定するために必要な情報を提供せよという趣旨の申立てをします。
この申立ては、①の申立てと同一の申立書で申し立てることができます。
③アクセスプロバイダ(AP)への発信者情報開示命令申立て
②の提供命令を申し立てると、通常数日のうちに、裁判所から提供命令が発令され、プロバイダがどこであるか判明します。
自宅でインターネットを利用する場合、通常は住んでいる人が自分でプロバイダと契約をしてインターネットを利用しているので、プロバイダは契約者の氏名や住所等の情報を保有しています。
そこで、プロバイダの情報を教えてもらえば、プロバイダに対して、投稿をした人の氏名や住所を開示するよう求めることができるのです。
④APへの消去禁止命令の申立
プロバイダへ③の開示命令を申し立てる際には、消去禁止命令の申立ても併せて行うことをお勧めします(①と②の申立てと同様、一つの申立てで同時に行うことができます)。
これは、プロバイダによってアクセスログの保存期間が決まっており、ログが消えてしまうと発信者を特定することができなくなってしまうので、開示命令が出るまでの間ログを消さずに保存してもらうために行う申立てです。
⑤CPからAPへのIPアドレスなどの提供
プロバイダに対して発信者情報開示命令を申し立てたら、サイト管理者に対して、プロバイダに対して発信者情報開示命令を申し立てた旨の通知をします。
この通知をすることにより、サイト管理者は、プロバイダに対して、プロバイダが発信者を特定するために必要な情報(IPアドレスなど)を通知します。
⑥APから発信者への意見照会
プロバイダは、発信者に対して「あなたの情報を開示することに同意しますか」という形で発信者の意見を聞く手続きを行います。
この段階で、発信者が意見照会に同意をすれば、プロバイダから発信者の氏名や住所が開示されます。
発信者が開示に同意しなかった場合には、プロバイダは、申立てに対する反論(開示がされるべきかどうかに対するプロバイダ自身の意見)の書面を提出することが一般的です。
⑦開示命令の発令
裁判所が、申立書の記載やプロバイダの反論(申立人からさらに反論の書面が出されることもあります)を踏まえて、発信者情報を開示すべきかどうかを判断し、要件を満たしていると判断した場合には、開示命令が発令され、プロバイダから発信者情報が開示されます。
3. 発信者情報開示請求と発信者情報開示命令は、どちらを利用すべき?
発信者情報開示命令も、発信者情報開示請求も、いずれも発信者の特定をするための手続きであり、取得できる情報に差はないため、どちらの手続きを利用しても問題はありません。
発信者情報開示命令は、開示命令と提供命令や消去禁止命令を一つの手続きで申し立てることができ、発信者情報開示請求のように複数の裁判手続きを利用しなくてよい点にメリットがありますが、どちらの手続きを利用する方がよいかについては、ケースバイケースともいえるため、判断がつかない場合には、弁護士に相談することをお勧めします。
4. 発信者情報が開示されたら
発信者情報が開示されたのちは、発信者に対して、投稿の削除や損害賠償を求める、また、名誉棄損など刑法上の犯罪に当たる場合には、刑事告訴を行うなどといった対応が考えられます。
また、上で述べた意見照会の段階で、投稿者が開示に同意している場合、投稿者の側から和解交渉をしたいと連絡が来る場合もあります。
誹謗中傷の場合の慰謝料の相場については、こちらのコラムで、
肖像権侵害の場合の慰謝料の相場はこちらのコラム
で解説していますので、こちらも参考に、相手と交渉をしていくとよいでしょう。
5. まとめ
発信者情報開示命令という制度ができたことにより、違法な投稿の発信者を特定することが以前より容易になりましたが、どの手続きを選択すべきかや、サイト管理者やプロバイダの保有している情報によって、何を開示するよう求めるのかを適切に選択する必要があります。
手続きの選択を誤ってしまうと、発信者の特定ができない、ログが消えてしまっているということになりかねませんので、発信者の特定をお考えの方は、問い合わせフォームよりお問い合わせください。