自社の業務を他社に委託する際など、企業においても締結の機会が多い契約書が「業務委託契約書」です。
業務委託契約書に記載すべき事項が記載されていなかったり、記載が不明確だったりすると、後々トラブルになりかねません。
そこで、本記事では、業務委託契約書作成のポイントを解説します。
用語解説
業務委託契約:特定の業務を他者に委託し、その遂行を依頼するための契約形態
目次
1. 業務委託契約とは
業務委託契約とは、自社の業務の一部を第三者(会社や個人など)に委託する際に結ぶ契約です。
例えば、コンテンツの制作の委託や、自社で使うシステム開発の委託などをする際に締結します。
この業務委託契約は、民法上は、請負契約・委任契約・準委任契約の3種類のいずれかに分類できるのが通常です。
・請負契約
請負契約とは、受託者が仕事の完成をする義務を負い、その成果に対して報酬を支払う契約です(民法第632条)。
請負契約の目的は、契約に定められた仕事を完成することにあるため、仕事が完成しなかった場合は、委託者は報酬を支払う必要がありません。
例えば建築工事やウェブサイトの制作など、仕事が完成するまでのプロセスは受託者に任せ、成果物(建物やウェブサイト)の完成に主眼を置く場合に締結されます。
・委任契約
委任契約は、仕事の完成を依頼するのではなく、法律行為をすることを委託する契約です(民法第643条)。
例えば、弁護士に訴訟の代理人を依頼する場合や、税理士への確定申告への依頼など、法律効果を発生させるための行為を委託する際に締結されます。
・準委任契約
準委任契約も委任契約と同じく、仕事の完成を委託するものではありません。
委任契約と同様一定の行為を委託するものですが、委任契約との違いは、法律行為以外の事務処理を委託することを約する点にあります(民法第656条)。
例えば、プロジェクト管理やシステム設計を委託する場合など、成果物の完成ではなく技術力の提供が必要な場合に締結されます。
このように、業務委託契約といっても、その法的性質は請負契約であったり、委任契約や準委任契約であったりと様々です。
契約がどの法的性質を持つか契約書の定めから明らかではない場合には、契約書に定めた内容から判断されることとなります。
2. 業務委託契約書に記載すべき内容
①業務内容
業務委託契約において一番大事な定めといえるのが、業務内容の記載です。
受託者に対しどのような業務を委託するのかが明確になるように記載しましょう。
記載例:
第○条(業務の委託)
甲(委託者)は、乙(受託者)に対し、甲の指定するウェブサイトに掲載する記事の制作を委託し、乙はこれを受託する。
②対価
委託業務の対価や支払い方法についての記載も必須です。
振込の場合には、振込手数料をどちらが負担するのかについても忘れずに記載しましょう。
記載例:
第○条(委託業務の対価)
1. 本件業務の対価は、金○円とする。
2. 甲は、前項の対価を、委託業務の終了後○日以内に、乙の指定する口座に振り込む方法により支払う。振込手数料は甲の負担とする。
③契約期間
契約がいつからいつまで効力を持つかについての定めです。
委託業務の実施に要する期間などを加味して決定しましょう。なお、自動更新(契約期間終了時にいずれの当事者からも通知がない場合には、自動的に契約期間を更新する旨の定め)を入れることもあります。
記載例:
第○条(契約期間)
本契約の有効期間は、令和○年○月○日より令和○年○月○日までとする。
④成果物の納品に関する定め
ウェブサイトやシステムなどの作成を委託する場合には、その納期や検収についても定めておくことが必要です。
記載例:
第○条(成果物の納品及び検収)
1. 乙は、目的物を、令和○年○月○日までに、甲の指定する方法により納入する。
2. 甲は、納入日から○日以内に、納入された目的物を仕様書に従い確認するものとする。この確認の完了をもって目的物の引渡が完了したものとみなす。
3. 前項に従い甲が目的物を確認し、乙に対し確認完了の通知をしたことをもって、確認の完了とする。
⑤再委託に関する定め
委託した業務を、第三者に再委託することが可能かどうか、可能な場合、どういった条件で再委託ができるかを定めることも必要です。
特に、受託者の能力を重視して契約を締結した場合、自由に再委託ができてしまうと、契約の目的を達成できなくなってしまう可能性もありますので、再委託の可否については慎重に検討しましょう。
記載例:
第○条(再委託)
1. 乙は、事前に甲の書面による承諾を得た場合に限り、本件業務を第三者に再委託することができる。
2. 乙が前項に基づき本件業務を第三者に委託する場合、乙は、乙の責任において、委託先に対し、本契約により乙が追う義務を負わせるものとする。
⑥成果物の権利帰属に関する定め
委託業務の過程で制作された成果物については、特許権や著作権などが生じる場合があります。
このような知的財産権について、どちらに権利が帰属するかを明記しておかないと、委託者としては、せっかく受領した成果物が自由に使えない、受託者としては、権利を行使できないといったことになりかねませんので、必ず記載するようにしましょう。
記載例:
第○条(知的財産権)
成果物にかかる特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権等の知的財産権は、成果物の納入をもって、乙から甲に移転する。
3. 業務委託契約に記載すべきその他の内容
上記のような定めに加えて、損害賠償についての定めや受託者が追う義務についても定めておくとよいでしょう。
①損害賠償について
損害賠償については、どの範囲で損害を賠償する義務を負うかや、損害の範囲(生じた損害についてはすべて賠償の責任を負うとするのか、賠償額の上限を定めるかなど)を定めておくとよいでしょう。
例えば、自社が無制限に損害を負うリスクを予防したいのであれば、損害賠償の範囲を限定しておくことが考えられますが、その場合、相手に対しても損害賠償を請求できる範囲が限定されるということも考えられるため、リスクや損害が生じる可能性などを踏まえて決定するとよいでしょう。
②受託者が追う義務について
例えば、秘密保持(契約遂行の過程で知りえた秘密を第三者に漏洩しない旨の定め)や、個人情報の保護に関する定め、委託業務を実施するにあたって適用される法令があるのであれば、法令を遵守するよう求める定めを置くことが考えられます。
③その他の一般条項
また、多くの契約書に一般的に記載される事項として、紛争が生じた場合の管轄(どの裁判所を管轄とするか)、契約の解除に関する定め(どのような場合に契約の解除が可能か)、反社会的勢力の廃除に関する定め(互いに反社会的勢力ではないことや、反社会的勢力と関りがないことを誓約する旨の定め)などがあります。
4. まとめ
本記事では、契約書に記載すべき事項や記載例を紹介しました。
ただし、上記はあくまで一例であり、企業の状況や委託する業務の内容によっては、更なる定めが必要な場合も多いです。
取引に際して契約書は非常に大きな意味を持ちます。
様々な要素を考慮しながら契約書を作成することで、後のトラブルを回避できる可能性が高くなります。
当事務所には、都内の大手IT企業で企業内弁護士として勤務し、契約書のリーガルチェックの実績豊富な弁護士が所属していますので、問い合わせフォームよりお気軽にお問い合わせください。