一度婚姻が成立すると、原則として、離婚以外の方法で婚姻関係を解消することはできませんが、例外的に、婚姻を取り消すことができる場合や婚姻が無効である場合があります。
本稿では、婚姻の取消しと無効が認められる具体例と婚姻の取消しと無効を求める手続について、弁護士が解説します。
目次
1. 婚姻の取消し
不適法な婚姻や婚姻の意思表示に瑕疵があった場合には、取消権を行使することで、婚姻は取り消され、婚姻が解消されます。
取消しの効力は将来に向かってのみ生ずるので、婚姻時に遡って婚姻がなかったことにはなりません(民法第748条1項)。
ただし、婚姻時に取消しの原因があることを知らなかった場合には、現に利益を受けている限度で婚姻によって得た財産を返還すれば足りるとされています(民法第748条2項)。
一方で、婚姻の時に取消しの原因があることを知っていた場合は、婚姻によって得た利益の全部を返還しなければならず、さらに、相手方が取消しの原因があることを知らなかったときは、相手方に対して損害賠償をしなければなりません(民法第748条3項)。
また、婚姻の取消事由は、以下のとおり、民法に定められています。
不適齢婚
民法では、「婚姻は、18歳にならなければ、することができない」と定められています(民法第731条)。
これに違反した婚姻は、取り消すことができます(民法第744条)。
重婚
民法は「配偶者のある者は、重ねて婚姻をすることができない」と定めています(民法第732条)。
これに違反した婚姻は、取り消すことができます(民法第744条)。
なお、重婚には、刑事罰も定められています(刑法第184条)。
また、重婚は法律婚に限られ、事実婚は重婚の禁止の対象にはなりません。
近親婚
原則として、直系血族又は三親等内の傍系血族の間の婚姻は禁止されています(民法第734条1項)。
「直系血族」とは、両親、祖父母、子、孫などの自分から見て直接の血のつながりがある親族のことをいいます。
「傍系血族」とは、兄弟姉妹、従兄弟従姉妹、伯父伯母、叔父叔母などの同じ始祖から分かれ出た血族のことをいいます。
例えば、兄弟や伯父は二親等のため婚姻が禁止され、従兄弟は三親等のため婚姻が禁止されていないということになります。
また、直系姻族の間の婚姻も禁止されています(民法第735条)。
「直系姻族」とは、自身の配偶者の直系血族や自身の直系血族の配偶者のことをいいます。
例えば、配偶者の母親は直系姻族に当たるので、配偶者と離婚した後に配偶者の母親と婚姻することはできません。
さらに、民法は「養子若しくはその配偶者又は養子の直系卑属若しくはその配偶者と養親又はその直系尊属との間では・・・婚姻をすることができない」と定めています(民法第736条)。
これらの規定に違反する婚姻は、取り消すことができます(民法第744条)。
詐欺又は強迫
「詐欺又は強迫によって婚姻をした者は、その婚姻の取消しを家庭裁判所に請求することができる」とされています(民法第747条1項)。
取消権は、詐欺を発見し、若しくは、強迫を免れた後3か月を経過した場合又は追認した場合には、消滅します(民法第747条2項)。
2. 婚姻の無効
婚姻が有効に成立するためには、婚姻の意思があることが必要です。
以下のような場合には、婚姻の意思が認められず、婚姻は無効となります。
- 勝手に偽造された婚姻届を提出された場合
- 婚姻届記入時は婚姻意思があったものの、届出時点では婚姻意思を有していなかったときに、婚姻届が提出されてしまった場合
- 偽装結婚の場合(在留資格取得のためなど)
- 重度の認知症等により意思能力を有していない場合
婚姻の取消しと異なり、婚姻無効の場合には、婚姻時に遡及して婚姻の効力がなかったことになります。
また、婚姻無効の効力は、当事者のみでなく、第三者にも及びます(「対世効」といいます)。
3. 婚姻取消しの手続
婚姻の取消しを求める場合、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所又は当事者間で合意した家庭裁判所に申立てを行うことが必要です。
婚姻取消しには、調停前置主義が採用されているので、原則として、いきなり訴訟を提起することはできず、まずは調停を申し立てることが必要になります。
「調停」とは、裁判所を通じた話合いの手続で、裁判官(又は調停官)1名と調停委員2名で構成される調停委員会が話合いを仲介してくれます。
調停で話合いがまとまらず、調停委員会が合意の見込みがないと判断した場合、調停は不成立となり、終了します。
調停が不成立になった後は、婚姻取消しを求める訴訟の提起を検討することになります。
訴訟を提起した場合には、裁判所が取消事由の有無を判断し、結論を出すことになります。
なお、夫婦間に未成年の子がおり、裁判所が婚姻の取消請求を認める場合には、未成年の子について、親権者指定の裁判をしなければならないこととされています。
4. 婚姻無効の手続
婚姻の無効を求める場合も、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所又は当事者間で合意した家庭裁判所に申立てを行うことが必要です。
婚姻無効についても、調停前置主義が採用されているので、まずは調停を申し立てることになります。
婚姻無効調停の場合、当事者双方が婚姻を無効にすることに合意しており、婚姻の無効事由に争いがないときには、裁判所が合意に相当する審判をします(家事事件手続法第277条)。
合意に相当する審判に、当事者の一方又は双方が異議を申し立てず、確定した場合には、婚姻の無効が確定します。
他方、調停がまとまらずに不成立となった場合、又は、合意に相当する審判に異議が出された場合は、婚姻無効の訴訟提起を検討することになります。
5. まとめ
上述のとおり、婚姻の取消しと婚姻の無効を求めるためには、裁判手続が必要になります。
ご自身で対応することが難しいという方は、弁護士に相談・依頼することを検討すると良いでしょう。
当事務所は、婚姻の取消し及び婚姻の無効を含む夫婦関係のトラブル全般に対応しております。
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