建物の賃借人(借主)が家賃を滞納し続けているなど、重大な契約違反があるとき、建物を明け渡すよう求めることができる場合があります。
これを「建物明渡請求」といいます。
本稿では、建物明渡請求の流れを解説いたします。
目次
1. 建物明渡請求が可能なケース
単に賃貸借契約の内容に違反する行為があったというだけでは、建物明渡請求ができるとは限りません。
判例上、建物の賃貸借契約のように継続的な契約の解除が認められるためには、当事者間の信頼関係を破壊したといえる程度の債務不履行(契約違反)が必要であると解されています。
以下のような事情がある場合には、当事者間の信頼関係を破壊したといえる程度の債務不履行があったと判断される可能性が高いです。
賃料の未払
賃料の未払により信頼関係が破綻したといえるか否かは、賃貸借期間の長短、賃料未払の程度、未払に至った事情などの諸事情を総合的に考慮して判断されます。
1つの基準として、実務上は、3か月以上連続して賃料の支払を怠った場合、信頼関係を破壊したといえる程度の債務不履行があったと判断されることが多いです。
無断転貸・譲渡
賃貸人(貸主)に無断で、建物を第三者に貸したり(「転貸」といいます)、賃借権(建物を使用する権利)を譲渡した場合には、信頼関係の破綻が認められることがほとんどです。
賃貸借契約において、賃貸人は、賃借人のことを信頼して自己の所有する建物を貸しているので、賃貸人に無断で転貸や譲渡をしてしまうことは、背信性の高い行為と判断されるためです。
例外的に、一時的に親族に使用させた場合など、賃借人が経済的利益を得る目的なく、やむを得ない事情で使用させたような場合には、信頼関係の破綻が認められないこともあります。
重大な契約違反がある場合
例えば、賃貸人に無断でリフォームを行う、ペットの飼育を禁止しているにもかかわらずペットを飼う、居住用の物件を店舗や事務所として使用する、騒音や悪臭により近所から多数の苦情が来ているなど、重大な契約違反と評価される行為があった場合には、信頼関係の破壊が認められる可能性が高いです。
どのような契約違反であれば明渡しが認められるかの判断に関しては、法的評価が必要になることがあるので、弁護士に相談し、見通しを聞いてみると良いでしょう。
2. 建物明渡請求の流れ
①証拠を収集する
まずは、賃借人が契約違反をしていることが分かる証拠を収集しましょう。
証拠がなくても、明渡しの請求をすることはできますが、賃借人が契約違反の事実を否認した場合、証拠がないと、裁判所に明渡しの請求を認めてもらうことができません。
また、賃借人に対し、契約違反を指摘した上で、債務の履行を催告する又は契約違反の是正を求めたことが分かる証拠も保存しておくとベストです。
例えば、賃料の未払がある場合には、支払を催促する書面を内容証明郵便の方法で送付するなどして、記録を残しておくと良いでしょう。
催告や是正を求めたにもかかわらず、賃借人がこれに応じなかったことが分かれば、信頼関係が破壊されたと判断されやすくなります。
②裁判外で請求を行う
証拠の収集が完了したら、建物明渡の請求を行いましょう。
建物明渡の請求は、訴訟提起(裁判上の請求)によって行うこともできますが、訴訟の場合、時間や費用が生じることから、まずは裁判外で請求を行うのが良いでしょう。
建物明渡請求は、相手方に建物を占有する権限がないことが前提となりますので、賃貸借契約が解除されていることが必要になります。
そこで、建物明渡請求に当たっては、賃貸借契約を解除する旨の意思表示も一緒に行うことが必要です(賃貸借契約を解除する根拠も明記しておくと良いでしょう)。
賃貸借契約を解除する旨の意思表示と建物の明渡請求は、記録に残る方法(内容証明郵便等)で行うのが良いです。
後に訴訟に移行した場合に、訴訟で賃貸借契約を解除する意思表示を行ったこと及び建物を明け渡すよう求めたことの証拠として利用するためです。
また、未払賃料等の賃借人に対する金銭請求がある場合には、建物明渡請求と併せて請求を行うのが一般的です。
③裁判上の請求
裁判外での請求により、任意に建物を明け渡してもらえなかった場合には、建物明渡請求訴訟を提起することを検討しましょう。
建物明渡請求訴訟では、建物の明渡しのほかに、建物が明け渡されるまでの賃料相当額の不当利得返還請求又は損害賠償請求を併せて行うのが一般的です。
また、未払賃料等の賃借人に対する他の法的請求がある場合には、併せて請求を行うことができます(ただし、賃貸借契約に関係のない請求の場合は併せて請求することができない場合もあります)。
建物明渡請求訴訟において、賃借人が裁判に対応してきた場合には、裁判の中で和解が成立し、任意に退去してもらえることもあります。
建物明渡請求訴訟を提起されている賃借人は、経済的に困窮しており、賃料や転居費用を支払うことができないというケースが非常に多く、一方で、賃貸人としては、紛争が長期化するよりも、賃借人に早く退去してもらい、新しい人に入居してもらいたい(賃料収入を得たい)と考える方が多いので、賃貸人が一定の解決金(転居費用として数十万円)を支払う代わりに賃借人に早期に退去してもらう内容で和解が成立することが多いです。
和解が成立しない場合には、裁判所が判決を下すことになります。
④強制執行
建物明渡請求を認める判決がなされたにもかかわらず、判決後も賃借人が退去しない場合には、強制執行を行うことになります。
強制執行とは、判決などの債務名義を取得した者の相手方に対する請求権を裁判所が強制的に実現する手続です。
建物明渡請求の強制執行の場合、相手方を強制的に建物から退去させたり、相手方の荷物も撤去するなどして、建物の明渡しを実現することになります。
強制執行は、判決などの債務名義を取得している場合に、執行官という特別な権限を有している者が行う手続ですので、例えば、賃貸人が勝手に鍵を替えてしまったり、強引に相手方を退去させたり、相手方の許可なく相手方の荷物を処分することはできません(「自力救済の禁止」といいます)。
万が一、このような自力救済行為を行ってしまうと、損害賠償請求をされたり、最悪の場合、刑事罰を受けるおそれがあるので、注意が必要です。
強制執行は、判決などの債務名義を取得したら、自動的に行われるというものではないので、別途裁判所に強制執行の申立てが必要になります。
3. 建物明渡請求を弁護士に依頼するメリット
交渉の窓口になってもらえる
賃借人と直接交渉を行うことが精神的に負担という方もいらっしゃると思います。
特に、相手方が高圧的な態度で接してきたり、何かと理由を付けて言いくるめられてしまうというような場合は、精神的な負担が大きいことが多いです。
弁護士に依頼することで、弁護士が交渉の窓口となってくれるので、相手方と直接やりとりをする必要がなくなり、精神的負担をなくすことができます。
書面の作成・送付を代行してもらえる
前述したとおり、相手方に建物の明渡しを求める場合、書面を内容証明郵便で送付することが必要となる場合があります。
弁護士に依頼すれば、専門的な知識・経験のもと、書面を作成してもらえ、また、書面の送付手続も一任することができます。
訴訟・強制執行の対応をしてもらえる
建物明渡請求訴訟や強制執行は、書面の作成や証拠の精査・提出に際し、専門的な知識と経験が必要になります。
ご自身で裁判手続を行った場合、知識不足により、本来であれば勝訴できた裁判で敗訴してしまうリスクがあります。
また、裁判手続は、手続自体が非常に複雑で、裁判所とのやりとりも必要になるので、手続に関し専門的な知識と経験を有する弁護士に依頼することが有益といえます。
弁護士に依頼すると、裁判所への出頭なども弁護士に一任できることから、物理的な負担も軽減することができます。
4. まとめ
当事務所は、主に離婚・相続案件などの家事事件に注力しておりますが、離婚・相続案件においては、不動産が争点となることが多いため、建物明渡請求を含む不動産案件の経験も多数です。
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