2020年4月1日に民事執行法が改正され、第三者からの情報取得手続が新設されました。
これにより、債権者は、債務者の財産に関する情報を、債務者本人からだけでなく、債務者以外の第三者からも取得することができるようになりました。
そこで、本記事では、第三者からの情報取得手続について、要件や方法、流れを詳しく解説します。
目次
1. 第三者からの情報取得手続とは?
相手に対し、金銭の支払などを請求できる法律上の権利(=債権)を持っている人のことを債権者といい、逆に、請求に従い履行をする義務を負っている人のことを債務者といいます。
例えば金銭債権を持っている債権者が債務者に履行を請求しても、債務者が一向に従わない場合、債権者は強制執行といって、債務者の財産を差し押さえ、その財産から回収することのできる手続を利用できます。
ただし、この場合、差し押さえる財産を債権者が特定しなければなりません。
そこで、債務者の持っている財産に関する情報を、裁判所を通じて第三者から取得する手続きが、第三者からの情報取得手続です。
2. どのような情報を取得できる?
第三者からの情報取得手続において、取得することができる情報は、以下の4つです。
- 不動産に関する情報
- 給与に関する情報
- 預貯金に関する情報
- 上場株式、国債等に関する情報
①不動産に関する情報:
債務者名義の不動産(土地、建物)の所在地や家屋番号の情報が取得できます。
この場合、情報の取得先の第三者は法務局です。
②給与に関する情報
債務者の給与の支給者に関する情報(勤務先の情報)が取得できます。
この場合には、市区町村又は日本年金機構など厚生年金を扱う団体が第三者となります。
③預貯金に関する情報
債務者が有する預貯金の口座情報(支店名、口座番号、預金の額)が取得できます。
銀行や信用金庫などが第三者となります。
この場合には、債務者が口座を保有していると考えられる銀行や信用金庫を第三者として申し立てるのが通常です。
複数の金融機関を第三者として申立てができるので、心当たりがない場合には住んでいる地域の地銀や、メガバンクなどを第三者とすることが多いです。
④上場株式、国債等に関する情報
債務者が保有する上場株式や国債の銘柄や数の情報が取得できます。
証券会社などを第三者として申し立てることとなるので、③と同様、債務者が利用しているであろう証券会社や、大手の証券会社を第三者とすることが考えられます。
3. 申立てをすることができる人
第三者からの情報取得の申立てをすることができるのは、「執行力のある債務名義を有する債権者」です。
債務名義とは、裁判所等の公的機関が、債権があることを認めた文書をいい、確定判決、公正証書、和解調書、調停調書などがこれにあたります。
そして、その債務名義をもって強制執行できる場合、その文書には「執行力」があることになります。
例えば債務名義が判決正本の場合には、判決で「被告は、原告に対し、令和6年〇月末日限り金100万円を支払え」といったような判決がされることになり、この判決の正本が債務名義です。
まだ支払期日が到来していない場合、相手はまだ100万円を支払う必要はないわけですから、当然強制執行はできません。
つまり、支払期日前の債務名義には執行力はないのです。
そこで、債務名義が既に強制執行ができる状態になっていることを示すために、判決に執行文の付与をしてもらう必要があり、この執行文の付与があって初めて、債務名義に執行力がある状態となるわけです。
具体的には、裁判所に対し執行文の付与を申請し「債権者は、債務者に対し、この債務名義により強制執行をすることができる」というような付記をしてもらう手続が必要となります。
なお、勤務先情報の取得は①養育費や婚姻費用など、民事執行法第151条の2第1項に定める請求権を有する債権者、又は、②人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権を有している債権者のみが取得できるとされていますので、注意が必要です。
これは、勤務先情報が債務者にとってプライバシー性の高い情報であることから、単なる金銭債権ではなく、第三者からの情報取得手続を認める必要性が高い養育費・婚姻費用や人の生命身体に関する債権を有している場合に限って認めるべきであるという理由によるものです。
4. 第三者からの情報取得手続きはどのような場合にできる?
第三者からの情報取得は、以下の要件を満たす場合にのみ申立てができます(民事執行法第207条)。
- 民事執行法第197条1項各号のいずれかに該当すること
- 不動産に関する情報・勤務先情報を取得する場合には、申立前3年以内に財産開示手続が実施されていること
①民事執行法第197条1項各号のいずれかに該当すること
いわゆる「不奏功要件」といわれているもので、債務者の財産によって完全な弁済を受けられないことが必要です。
より具体的には、ⅰ強制執行を開始したが完全なる弁済を得ることができなかったこと、又は、ⅱ知れている財産に対する強制執行を実施しても完全なる弁済が得られないことの疎明があったことのいずれかの要件を満たす必要があります。
強制執行により弁済を受けられていたり、把握している財産から回収ができる場合にまで、債務者の財産に関する情報を取得する必要性があるとはいえないためです。
②不動産に関する情報・勤務先情報を取得する場合には、申立前3年以内に財産開示手続が実施されていること
不動産に関する情報や、勤務先に関する情報を取得したい場合には、事前に財産開示手続を実施し、債務者本人から財産の情報の開示を受ける必要があります。
こちらも債務者のプライバシーに関する情報を取得するための手続きであることから求められる要件ですが、預貯金に関する情報や、株式に関する情報は、一般的には債務者が財産隠しをすることが容易であることから、債務者に知られることなく情報を取得する必要性が高いといえます。
そこで、預貯金に関する情報や株式に関する情報を取得する場合には、この要件は不要とされています。
なお、財産開示手続については、こちらのコラムで詳しく解説しています。
5. 申立ての方法
第三者からの情報取得手続は、申立書やその添付書類を管轄の裁判所に提出して行います。
管轄の裁判所は、債務者の住所地を管轄する地方裁判所です。
申立書の記載例は、裁判所のホームページで確認できますので、記載例や注意事項を参照しながら作成しましょう。
また、その他に提出が必要な資料についても、上記裁判所のホームページで確認できます。
申立ての費用は、1つの申立てにつき1000円です。
申立て費用は収入印紙で納入します。
その他に、予納金を納める必要があります。
予納金の額は裁判所が定めますが、東京地方裁判所の場合には、不動産に関する情報が1件6000円、勤務先情報が1件6000円、預貯金の情報と株式の情報が1件5000円です。
6. 申立後の流れ
裁判所に申立書を提出すると、裁判所は形式や必要書類に不備がないかを確認します。
この際に、裁判所から申立書の訂正や、追加で提出が必要な資料を求められる場合もありますので、その際は指示に従いましょう。
裁判所が申立てを認めると、裁判所から情報提供命令が発令され、情報提供命令の正本が第三者に送付されます。
情報提供命令の正本を受け取った第三者は、裁判所に対し、書面で債務者の財産情報を提供します(第三者から、情報提供書というものが裁判所に提出されます)。
この情報提供書が裁判所又は、第三者から直接債権者に送付され、債務者の財産に関する情報が確認できることになります。
預貯金に関する情報や株式に関する情報の場合、前述のとおり、債務者が財産を隠すことが容易です。
例えば、情報提供命令が発令されたことを知った債務者が、預金を全ておろしてしまう、株式を売却してしまうことが考えられます。
そこで、預貯金に関する情報や株式に関する情報提供命令が発令された場合、債務者には、発令があってから約1か月後に、発令があったことの通知がされます(民事執行法第208条2項)。
強制執行をする場合、この通知までに強制執行をすることで、債務者の財産隠しを防ぐことにつながりますので、情報提供書を確認したらすぐに強制執行の手続をとるとよいでしょう。
【預貯金に関する情報や株式に関する情報の場合の流れ】
他方、不動産に関する情報、勤務先情報の場合、情報提供命令は債務者にも送達されると定められています(民事執行法第205条3項、206条2項)。
これは、債務者へ不服申し立てをする機会を与えるためです。
債務者が不服申立てをした場合には、これに理由がないことが確定するまでの間、情報提供命令の効力は生じないこととされています(民事執行法第205条5項、第206条2項)。
【不動産に関する情報、勤務先情報の場合の流れ】
7. まとめ
民事執行法が改正され、第三者からの情報取得手続が新設されたことにより、債務者の財産調査がより実効性のある手続となりました。
特に預貯金に関する情報や株式に関する情報を取得する場合、債務者に情報提供があったことを通知される前の短期間に強制執行の手続をしなくてはなりません。
当事務所にご依頼をいただいた場合には、財産調査後の強制執行までトータルサポートすることが可能ですので、債権回収をお考えの方は、問い合わせフォームよりお問い合わせください。