離婚や養育費、親権などで調停を行っている方から、「なかなか自分の主張を聞いてもらえず、時間ばかり過ぎていく」「早く離婚したいのに、一向に調停が進まない」などのご相談をいただくことがよくあります。
本記事では、調停を円滑に進めるためのコツや、調停を行うにあたって留意すべき点について、解説します。
目次
1. 調停とは?
①調停とは
調停とは、裁判のように裁判官が両者の主張や証拠を元に一定の判断を下す手続とは異なり、裁判所の仲介の元、話し合いにより合意をすることによって紛争を解決することを目指す手続です。
調停手続は、管轄の裁判所(基本的には、相手の住所がある地の裁判所が管轄裁判所となります)に申し立てることにより始まります。
調停委員会といって、調停委員2名と裁判官で構成される委員会が、当事者の話し合いをあっせんし、お互いに合意することを目指します。
調停委員は、原則として40歳以上70歳未満の人から選任されます。
家事調停(離婚や養育費に関する調停など、家庭裁判所にて行われる調停をいいます)においては、通常2名のうち、1名は男性、1名は女性が選ばれ、弁護士、公認会計士など資格をもった専門家や、社会貢献活動を行っている方など、幅広い経歴を持った方が調停委員となります。
②調停の流れ
調停を開始するには、まず裁判所に申立書を提出することが必要です。
申立書には、例えば離婚を求める調停であれば、申立人(調停を申立てる側、離婚を請求する側)と相手方(調停を申立てられる側、離婚を請求される側)の住所や、夫婦間の子の有無、離婚に際し求める条件、離婚をしたい理由等を記載します。
家庭裁判所のホームページでは、申立書の書式を公開しており、必要事項を記載することにより申立てが可能です。
申立書ができたら、申立費用(離婚の場合、収入印紙1200円分)と相手方に申立書などの必要書類を送るための郵便切手(額は裁判所に電話すれば確認できます)、戸籍謄本などの必要書類とともに、裁判所に提出します。
申立書が裁判所に受理されると、相手にも調停の申立書(写し)が送付され、第1回の調停期日が決まります。
調停期日では、調停委員が主導となり(裁判官は多くの案件を抱えているため、通常の話し合いの際には参加せず、調停委員から情報の共有を受けます。
そして、合意をする場合など、調停の重要な局面でのみ、調停に参加します)、両者の主張を交互に聞く形で開催されます。
交互に主張を聞く形で進み、控室も別々となるため、基本的には、相手と顔を合わせる必要はありません(最終的に合意をするための書面を作る場合などに、両者が同席の元で行うこともありますが、例えばDVなどを受けていて、顔を合わせたくない場合には、事前に裁判所に連絡をしておくことにより、手続の終了まで顔を合わせることなく実施することも可能です)。
1回の調停では、15分~20分程度ずつ交互に2-3回程度調停委員と話すこととなるため、およそ2時間ほどかかります。
また、調停は1か月に1回程度しか実施されないため、合意に至るまで、早くても半年程度かかるということも多いです。
調停は、相手との合意が成立するか、相手との合意が困難であり今後合意の見込みがない場合に、不成立となって終了します。
例えば、通常の裁判であれば、裁判官の判断に不服がある場合には、「控訴」といって、上級の裁判所での審理を求めることができますが、調停が不成立となった場合には、そのような不服申し立ての仕組みはありません。
では調停が不成立となってしまいどうすれば良いか?という点ですが、離婚を求める調停であれば、裁判を提起して、裁判官に、離婚の理由があるかを判断してもらうことができます。
また、養育費の額を争う調停が不成立になった場合には、自動的に「審判」という手続に移行します。審判は、調停のように合意を目指す手続ではなく、裁判官が双方の言い分や提出された資料を踏まえて養育費の額を決定する手続です(その意味で「裁判」に近いものとなります)。
2. 調停がなかなか進まない
ここまで調停の基本的知識について解説をしてきました。
前述したとおり、調停については、裁判所が申立書の書式等を公開していることや、合意を目指す手続であることからも、ご自身で進めている方が裁判と比べても多い印象です。
しかし、そういった方の中には「調停期日を何度重ねてもなかなか進捗がない」「なかなか調停委員に主張を分かってもらえず、相手の意見ばかりが尊重されているように感じる」というような悩みを持ち、相談に来られる方も多くいらっしゃいます。
そこで、以下では調停が進まない場合に考えられる原因や打開策について解説します。
調停が進まない場合に考えられる原因①-口頭でのみ主張をしてしまっている-
調停期日では、調停委員が相手と交互に対席の上で、自己の主張を伝えることから、特に弁護士が代理人として就任していない場合には、書面において自分の主張をまとめる必要がない、と考えてしまう方がいらっしゃいます。
たしかに、あくまで相手との合意を目指す手続であることから、口頭で自分の気持ちを伝え、譲れない部分を直接調停委員にわかっていただくということも必要です。
しかし、書面において証拠とともに自己の主張を整理することで、客観的立場である調停員や裁判官へ、こちらの主張を明確に示すことができ、事件のポイントを整理して進めることができます。
口頭のみでやり取りを続けていると、どうしても感情的になってしまったり、同じことを繰り返して話してしまうなど、建設的な話し合いができないということになってしまいがちです。
こちらの主張がどういった点で正しいのか、という点を示すためにも、書面にてこちらの主張をまとめるということは、とても重要になります。
調停が進まない場合に考えられる原因②-調停委員とのコミュニケーションがうまくできていない-
調停委員はあくまでも両者の仲介役という立場ですから、明確にどちらかの味方となり、一方に有利な主張をする、ということはありません。
しかしながら、相手が明らかに不合理であれば、調停委員から、「そういった主張は通常認められない」というように諭してもらうことはできます。
実際に、調停委員からそういった説得をされて相手が納得したというケースはよくあります。
その意味では、ある意味で「調停委員を味方につける」ということも調停を円滑に進めるためには必要となります。
もちろん、こちらの主張をすべて認めさせるように味方につける、という意味ではなく、こちらの主張が一般的にも正しいのであるということを、調停員に分かってもらう必要があるという意味での、「味方につける」ということです。
そのためには、調停委員とのコミュニケーションが非常に重要です。
調停委員としても、両者が合意するために精いっぱい努力して調停を進行してくれます。
とはいえ、相手にも主張があるために争いになっているわけですから、こちらの気持ちを伝えただけでは、調停委員としても相手を説得することはできません。
そこで「調停委員に相手方を説得できる材料を渡してあげる」ということが非常に重要です。
調停期日において調停委員とやり取りをする中で、調停委員が何を求めているか、どういった主張や証拠を出して欲しいと思っているかを適切に把握するためにも、コミュニケーションを円滑に行うことを心がける必要があります(自分の辛かった気持などを分かってもらう必要がある場面もありますので、絶対に感情的になってはならない、ということではありませんが、必要以上に相手を罵倒する、感情的になって調停委員の言うことを全く聞かない、ということは避ける必要があります)。
調停が進まない場合に考えられる原因③-相手を説得できるほどの材料がない-
②で述べたように、調停委員に相手を説得することのできる材料を渡してあげることは、大変重要です。
相手の主張が不合理である場合には、なぜそれが不合理なのかを説得的に示す必要があります。
例えば、相手の主張している内容が通常の離婚実務上かけ離れた主張であることを示す文献を証拠として提出する、裁判例で相手の主張に反する判断がある場合には、そういった裁判例を証拠として提出するなどが考えられます。
その上で、調停委員にも、相手の主張が不合理であるという点を理解いただく必要があります。
証拠に加えて口頭でも、どのような点が不合理なのかを、調停委員と適切にコミュニケーションを取りながら伝えてあげると良いでしょう。
また、最終的には相手と合意をしなくてはなりませんから、譲歩できる箇所は譲歩するということも必要となります。
例えば離婚の際の条件でもめているという場合には、「ここだけは譲れない」「ここまでは譲ってもいい」といったポイントを事前に検討しておくと良いでしょう。
ただし、調停において一度相手と合意してしまった内容は、後にやはりその合意の内容を変えたい、と思ったとしても、合意時と事情が大きく異なるなどといった特別の事情がない限り、変更することはできません。
そのため、必要以上に譲歩してしまい、一方的に不利な内容で合意をしてしまうことにならないかについては、注意する必要があります。
例えば離婚調停の中で慰謝料についても合意する場合には、おおよその相場を調べておく、養育費の額についての調停であれば、裁判所が公開している養育費の額を簡易的に算定できる算定表を利用して、おおよその額を確認しておくなどすると良いでしょう。
3. まとめ
以上のように、調停については、その進め方に様々なコツがあります。
また、相手を説得することのできる材料を用意するためには、どのような材料が必要かという点が分かっていないといけませんが、初めて調停をご自身で行う場合には、なかなかどういった主張が効果的か分からない場合もあるでしょう。
また、調停の中でどこまでであれば合意して譲歩した方が良いのか、逆に、譲ってはいけない点はどこなのかといった点については、数多くの調停を経験した弁護士であるからこそ判断できることもあります。
当事務所では、離婚案件を500件以上対応したことのある実績のある弁護士が手厚いサポートを行います。
対応実績が豊富なため、調停委員とのコミュニケーションも円滑に行うことができます。
現在ご自身のみで調停に出席しているけれど、なかなか手続が進まずお悩みの方がいらっしゃれば、ぜひ一度お気軽にご相談ください。