離婚協議の中で親権について争いがあるご夫婦においては、ある日突然、配偶者の一方が子どもを連れて勝手に家を出てしまうというケースがたびたび見受けられます。
そこで、本記事では、子どもの連れ去りは違法となるのかという点や、子どもを連れ去られてしまった場合の対処法について解説します。
目次
1. 子どもの連れ去りは違法となる?
親であったとしても、配偶者の同意なく子どもを連れて行き返さないという場合には、連れ去りが違法とみなされることがあります。
例えば以下のような場合には、連れ去りが違法とみなされ、面会交流を制限されたり、最悪の場合、未成年者略取誘拐罪(刑法第224条)に該当してしまう可能性もあります。
- 親権について激しく争っている最中に子どもを連れ去った
- 子どもが抵抗しているのに無理やり子どもを連れて行った
- 面会交流を実施した後に、そのまま子どもを返さない
- 通学途中の子どもを勝手に連れていく
- 保育園に勝手に迎えに行く
ただし、親権について争っている場合でも、子どもの身の安全を確保するため(例えば配偶者によるDVから守るためなど)に子どもを連れて行ったという場合には、違法とはならない可能性が高いでしょう。
また、2024年5月24日に公布された改正民法により、2026年5月24日までには、共同親権の制度が開始されることとなっています。
これにより、離婚時の親権争いが回避でき、子の連れ去りも減少することが期待されています。
子の連れ去りが起こる理由として、親権の決定にあたり、子どもの監護をどちらが行っているか(いたか)という監護実績や、監護の継続性といった事情が重視されることが挙げられます。
このような観点から、子どもを連れ去って別居することが親権争いにおいて有利になる一面が否定できず、親権欲しさに子どもを連れ去るというケースが起こりうるのです。
共同親権が導入されれば、離婚後も双方の親が親権者となることができるので、親権欲しさに子どもを連れ去るというケースが減少することが期待できます。
2. 子どもを連れ去られた時の対処法
子どもを連れ去られてしまった場合には、子の引渡しの調停や審判と、子の監護者指定の調停や審判を同時に申立てるとよいでしょう。
子の監護者指定の調停・審判とは、その名のとおり子どもの監護者を決めるための調停・審判です。
監護者とは、子どもの監護権(子どもの世話や教育をする親の権利義務)を持つ親のことをいいます。
また、子の引渡しの調停・審判とは、子どもの監護者であることを前提に、連れ去られた子どもを自分のもとに引渡すよう求める調停・審判です。
子の監護者指定の調停や審判で子どもの監護者であると認められても、子どもを連れ去ったような相手の場合、相手が任意に子どもを引き渡してくれない可能性があることから、子の監護者指定と引渡しの調停や審判は、同時に申し立てることがほとんどです。
調停と審判の違いは、調停はあくまで当事者間の合意を目指す話し合いの手続きなので、合意ができなければ不成立となって終了するのに対し、審判は、裁判所が当事者の主張や提出した証拠を元に、一定の判断を下す手続きであるという点です。
調停が不成立になると自動的に審判に移行するため、まずは調停を申立てることも考えられますが、子の引渡しや監護者指定を求める場合には、調停を経ずに審判から申し立てるのが通常です。
子どもを連れ去ったような相手が調停で合意することは考えづらいことや、調停は約1ヶ月〜2ヶ月間隔で調停期日が実施されるという比較的時間がかかる手続きであることが理由です。
3. より早く子どもを取り戻すための「審判前の保全処分」
審判前の保全処分とは、権利の対象を仮に確保するために裁判所によって行われる暫定的な手続きのことをいいます。
子の監護者指定や引渡しの審判を申立てたとしても、審判で結論が出るまでには一定の時間がかかります。
相手方により子どもの適切な監護がされないおそれがあり、審判の確定を待っていると子どもの身の安全が確保できないなどの緊急性がある場合には、裁判所に保全処分の申立てをすることにより、子どもの監護者を仮に指定する・子どもを仮に引渡すよう命ずるといった保全処分の審判を求めることができます。
この保全処分は、審判で結果が出るまでの暫定的な措置ではありますが、保全処分の必要性が認められれば、審判がされるまでの間は、暫定的に子どもの引渡しを受けることができます。
子どもを連れ去られてしまい、審判が出るまでの間に、相手に監護実績を積み上げられてしまうことを避けるため、保全処分を利用することを検討するのがよいでしょう。
4. 子の監護者指定・子の引渡しの審判申立ての方法
子の監護者指定・子の引渡しの審判は、相手方の住所地を所在する管轄の裁判所に以下の必要書類を提出することで申立てができます。
- 申立書
- 子の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 印紙(申立て手数料):子ども1人につき1200円分
- 郵券(切手):事前に管轄の裁判所に種類や必要な額を確認しましょう
申立書の記載例は、裁判所のホームページで確認できます。
5. 子の監護者指定・子の引渡しの審判の流れ
子の監護者指定・子の引渡しの審判の申立書を裁判所に提出した後の流れは、おおよそ以下のとおりです。
①申立て
申立書を提出すると、必要に応じて裁判所から追加で資料の提出を求められることがあります。
資料がそろうと、裁判所との間で第1回の期日の日程調整をします。
②第1回期日
第1回期日には、多くの場合調査官(心理学、社会学、社会福祉学、教育学などの専門的な知識や技法を活用して調査活動などを行う家庭裁判所の職員)が同席し、どのような調査を実施するかを決定します。
この調査は、どちらの親が子どもの監護を行うのに適しているかを調査するのが目的で行われます。
通常は調査官による家庭訪問や、子どもの意向調査、子どもの学校・保育園へのヒアリング、双方の親へのヒアリング等が実施されます。
また、子どもの監護状況を確認するために、調査官から、母子手帳や保育園・幼稚園の連絡帳などの資料の提出を求められることがあります。
③調査官調査
第1回期日で決定した内容に従い、調査官による家庭訪問や双方の親へのヒアリングが行われます。
家庭訪問は、現在子どもを監護している親の自宅へ調査官が行き、子どもの暮らしの状況などを確認します。
ヒアリングでは、これまでの監護の状況や、子どもを引き取った場合、どのように監護していく計画かなどの質問がされることが多いです。
また、通常は調査官が子どもと会い、現在の生活状況や双方の親への気持ちを聞く意向調査も行われます。
④調査報告書の提出
調査官は、実施した調査の内容を踏まえて、調査報告書を作成します。
通常この報告書に、どちらが子どもの監護者にふさわしいかについての調査官の意見が記載されています。
裁判官は、専門家である調査官の意見を重視することから、この調査官の意見は非常に重要となります。
⑤第2回期日
実務上、調査報告書の提出がされた後に第2回の期日が実施されることが多いです。
この期日では、調査報告書の内容を踏まえて裁判官より和解の提案がされるのが一般的です。
例えば、調査報告書の内容が申立人を監護者とするのがふさわしいとする内容ではなかった場合には、子の監護者指定や引渡しを認める代わりに、面会交流を充実させることでどうかという内容での和解を勧められるなどといったことが行われます。
⑥審判
和解が成立しなかった場合には、裁判官が調査の結果を踏まえて審判を言い渡します。
例えば子どもの引き渡しを認める場合には、「相手方は、申立人に対し、未成年者○○を引き渡せ」などという審判がされます。
⑦(必要に応じて)強制執行
子の引渡しを認める審判がされても、相手が任意に子どもを引き渡さない場合には、強制執行をすることが可能です。
強制執行には、相手が一定の期間内に子どもを引き渡さない場合に、一定額の間接強制金の納付を命じる間接強制と、執行官が子どもの元へ行き、子どもの引渡しをさせる直接強制の2種類があります。
ただし、直接強制は、子どもに対する負担が大きい手続きであることから、間接強制を行っても子どもの引渡しがされなかった場合など、利用できる場面が限られていることに注意が必要です。
6. 人身保護請求とは
子の監護者指定・子の引渡しの審判以外の方法として考えられるのが、人身保護請求です。
人身保護請求とは、正当な手続きによらないで身体の自由を拘束されている者が、その救済を求めるための手続きです。
かつては人身保護請求という手段が利用されていたこともありましたが、人身保護請求には厳格な要件が定められている(①子が拘束されていること②拘束が違法であること③拘束の違法性が顕著であること④ほかに救済のための適切な方法がないこと)ことから、現在の実務では、子の監護者指定・子の引渡しの審判に代わる手続としては、ほぼ利用されていません。
実務上は、上で述べた強制執行が功を奏しなかった場合、すなわち、間接強制によっても子どもを任意に引き渡さず、直接強制でも「子が泣いている」、「子の体調が悪い」などの理由で直接強制を行うことが相当でないと判断されて直接強制ができなかった場合の最終手段として利用されることがほとんどです。
7. 子どもを自分で連れ戻すことはできる?
子どもを連れ去られてしまった方から、相手に黙って子どもを連れ戻してよいでしょうか?というご相談を受けることがありますが、相手が先に連れ去った場合でも、こちらが再度連れ去ってしまった場合、こちらの連れ去りが違法であるとして、親権者にふさわしくないなどといった判断をされてしまうおそれがありますし、子どもにも負担を与えてしまうことになるので、自分で連れ戻すことは避けるべきでしょう。
8. まとめ
子の監護者指定・引渡しの審判においては、どちらが監護者にふさわしいかを具体的な事情と共に詳細に主張する必要があります。
また、相手が子どもを連れ去ってから時間が経過してしまうと、それだけ相手が監護している期間が長くなることになってしまうので、迅速に申立てをする必要があります。
まずは、経験豊富な当事務所にお問い合わせください。