相続などにより不動産が他者との共有状態になっていることがあります。
共有状態となっている不動産は様々なリスクを含んでいるので、共有状態を解消したいという方もいらっしゃると思います。
本稿では、共有物分割の方法や手続に加え、共有物分割以外の共有状態を解消する方法を紹介します。
目次
1. 共有物分割とは
「共有物分割」とは、動産又は不動産を2名以上で共有している場合に、その共有状態を解消することです(民法第258条)。
民法では、物は単独所有が原則と考えられているため(民法第206条参照)、共有状態を解消するために、共有物分割に関する条項が定められています。
2. 共有不動産のリスク
自由な処分ができない
共有物に変更を加えるためには、他の共有者全員の同意を得る必要があります(民法第251条1項)。
したがって、他の共有者の同意なく、不動産を売却したり、増改築するなどの処分や変更を加えることができません。
他の共有者を知ることができず、又は、その所在を知ることができない場合も、裁判手続を経なければ、不動産に変更を加えることができないとされており(民法第251条2項)、自由に処分や変更を加えることができません。
使用すると賃料相当額を請求される可能性
共有者は、自己の共有持分権に基づき、原則として、不動産の全部を使用・占有することができると解されています(東京地方裁判所平成17年3月22日判決)。
他方、不動産を使用・占有する場合、他の共有者は、共有持分割合に応じ、賃料相当額の不当利得返還請求又は損害賠償請求をすることができるとされています(最高裁判所平成12年4月7日判決)。
したがって、共有の不動産の全部を使用・占有する場合には、他の共有者から賃料相当額の不当利得返還請求又は損害賠償請求をされるリスクがあります。
共有者が増えて共有状態の解消が更に難しくなる
共有状態の不動産を放置してしまうと、共有者に相続が発生し、更に共有者が増える可能性があります。
共有者が増えれば、共有状態の解消が難しくなりますし、特に下の世代や配偶者への相続が生じた場合、親族間の関係が希薄であることが多く、共有者と連絡が取れない、共有者の所在が分からない、協議がスムーズに進まないという事態を生じかねません(例えば、兄が共有者の不動産がある場合、兄が亡くなって、配偶者と兄の子が共有者になると、共有者が増えて、かつ、兄と比較して連絡が取りにくかったり、協議が難しくなる可能性があります)。
なお、相続人の範囲や相続順位については、以下のコラムで解説しておりますので、ご参照ください。
3. 共有物の分割方法
共有不動産の主な分割方法は以下の3つです。
①現物分割
共有持分割合に従い、共有物を物理的に分割する方法です。
しかし、不動産の場合、物理的に分割することは困難であることが多いので、現物分割の方法が取られることはほとんどありません。
②換価分割
不動産を売却して金銭に換えた上で、共有持分割合に応じて、金銭を分ける方法です。
後述する共有物分割訴訟(裁判)で判決となった場合、換価分割を命じられることが多く、その場合、不動産を競売手続に付して売却金額を分けることになります。
一般的に、競売手続による場合、市場価格よりも低価で売却されることがほとんどですので、判決になる前に任意売却→売却代金の分割という内容で和解が成立することも少なくありません。
③代償分割(全面的価格賠償)
不動産の単独所有を希望する共有者がいる場合、代償分割(全面的価格賠償)という方法を取ることもあります。
「代償分割」、「全面的価格賠償」とは、共有者の1人が不動産の単独所有権を取得する代わりに、他の共有者に代償金(賠償金)を支払う方法のことです。
全面的価格賠償の場合、賠償金の金額が争点となることが多く、不動産の評価額について合意ができない場合には、不動産鑑定の手続が必要になることもあります(鑑定費用は20万〜30万円程度となることが多いです)。
前述のとおり、共有物分割訴訟が判決となった場合には、換価分割を命じられることが多いです。
例外的に、代償分割の判決を得るためには、単独所有を求める共有者が単独所有することが相当であることの主張・立証(証明)、代償金を支払うことができる資力があることの立証をすることが必須となりますが、実際に代償分割が認められるケースは少ないです。
4. 共有物分割の手続
協議
まずは、共有者全員で分割方法を協議することから始めましょう。
他の共有者と連絡が取れない、所在が分からないという場合には、弁護士に代理人として協議することを依頼すれば、住所を調査してもらえる可能性があります。
調停・訴訟
協議が整わない場合には、裁判手続に移行することを検討しましょう。
裁判手続の種類としては、調停と訴訟が考えられます。
調停
「調停」とは、裁判所を通じて話合いを行う手続で、調停委員会(裁判官と調停委員2名)が協議を仲介してくれるので、裁判外での協議よりも紛争の解決力の高い手続になります。
ただし、調停は、あくまで「話合い」ですので、裁判所が何らかの結論を出したり、決定を下すことはなく、話合いがまとまらなければ、調停は不成立となり、終了します。
訴訟
「訴訟」は、調停と異なり、最終的に裁判所が判決を下す手続になります。
もっとも、訴訟を提起したから必ず判決に進むということではなく、訴訟の中でも話合いの場が設けられることがほとんどで、裁判上の和解が成立するケースは多いです。
最終的に裁判所から判決が下されるという点で調停よりも解決力が高く、また、調停と同じように話合いの場が儲けられることも多いので、調停よりも訴訟を選択することをお勧めします。
5. 共有物分割以外の方法
共有持分権の売却
近年は、不動産の共有持分権を買い取る不動産業者が増えています。
不動産の共有持分権の売却は、他の共有者の同意なく行うことができるので、共有持分権の売却は、共有関係から抜けるという点では、最も簡便な方法になります。
ただし、共有持分権を売却する場合、市場相場よりも大幅に低い金額での売却となることが多いので、経済的な面ではデメリットの大きい方法になります。
また、不動産の状況や価格、共有持分割合によっては、業者が買い取ってくれないこともあるので、必ず共有持分権を売却できるわけではないという点も注意が必要です。
共有持分の放棄
共有持分は、放棄することができます。
共有持分を放棄した場合には、その持分は他の共有者に帰属するので(民法第255条)、共有関係から抜けることができます。
共有持分の放棄には、他の共有者の同意は不要で、一方的に行うことができますが(他の共有者全員に共有持分放棄の意思表示を行えば足りますが)、共有持分の放棄を登記する際に、他の共有者の協力が必須になります。
他の共有者が登記手続に協力してくれない場合には、別途、登記引取請求訴訟を提起する必要があります。
したがって、他の共有者の協力が得られなそうな場合には、共有持分の放棄の方法は選択しない方が良いでしょう。
また、共有持分の放棄の場合、代償金や賠償金を得ることはできませんので、経済的利益はないという点にも注意が必要です。
6. まとめ
これまで紹介したとおり、共有物分割の場合、他の共有者の所在を調査したり、裁判手続が必要になることがあります。
所在調査や裁判手続は、専門的な知識・経験が必要になる場面が多いので、共有物分割請求を検討されている方は、まずは弁護士に相談されると良いでしょう。
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