DV被害を受けている方の中には、警察に被害届を出すべきかどうか迷っている方も多いのではないでしょうか。
そこで、本記事では、被害届を出すことの効果や被害届を出す場合の注意事項について解説します。
目次
1. DVとは
DVとは、ドメスティック・バイオレンスの略称です。
日本語訳では「家庭内暴力」とされていますが、単に殴る・蹴るといった直接の暴行だけではなく、執拗に精神的に攻撃する精神的暴力や、生活に必要なお金を渡さないといった経済的暴力もDVに含まれます。
そして、このような行為は、殴る・蹴るであれば刑法上の暴行罪(刑法第208条)や傷害罪(刑法第204条)に、暴言を吐いたのが人前であった場合には名誉毀損罪(刑法第230条)や侮辱罪(刑法第231条)に該当するなど、刑法上の犯罪に該当する可能性のある行為です。
2. 被害届とは
被害届とは、犯罪の被害にあった際に、どういった被害にあったかを警察に申告するための書類です。
警察が被害届を受理すると、被害届に記載のある内容の犯罪があったかの捜査を開始することになります。
ただし、被害届は、警察に対し捜査をする義務を課す効果があるものではないため、警察が被害届を受理したとしても、必ず捜査が開始されるわけではないことには注意が必要です。
3. DV被害にあったら被害届を出すべき?
DV被害を受けて警察に被害届を提出することを検討している場合には、まず自分の受けている行為が犯罪に該当するかを確認しましょう。
上で述べたように、直接暴力を受けている場合はもちろん、暴言を吐かれている場合でも、犯罪に該当する場合があります。
また、性行為を強要されるなどの性的暴力も、不同意性交等罪に該当する可能性のある行為です。
このように、相手の行為が犯罪に該当する場合には、被害届を出すことで、警察による捜査が開始され、相手が警察に取り調べを受けたり、警察から警告をしてもらえたり、場合によっては相手が逮捕されることもあります。
このように警察が対応することで、相手が改心したり、相手の行為が犯罪に該当するものであることを相手に伝えることができ、更なるDVを防ぐことができる可能性があります。
また、逮捕がされれば、しばらく相手は自宅に帰ってこないこととなりますから、その間に避難すべき場所や仮住まいを見つける余裕ができるというメリットもあります。
他方で、被害届を出すことにはデメリットも存在します。
まず、繰り返しDVを行っているような相手の場合には、被害届を出したことにより改心するどころか、逆上して更に行為がエスカレートしてしまうことも考えられます。
また、捜査が開始された場合には、警察としても被害の詳細を確認する必要があることから、あなた自身がどのような被害にあったかを、詳細に話す必要がでてきます。
長時間警察と話をするだけでも大変ですが、思い出したくない内容を話さなくてはならないといった負担も生じます。
ただし、デメリットがあるからといって必ずしも被害届の提出をためらう必要はありません。
相手が逆上することが想定される場合には、事前に避難をしたうえで被害届の提出をするなどの対応を検討しましょう。
4. 被害届の提出方法
被害届は、事件があった場所を管轄する警察署に行って提出します(警察署の管轄区域は、お住いの都道府県の警察署ホームページで確認できます)。
例えば、自宅でDVの被害にあっている場合には、自宅を管轄する警察署に被害届を提出しましょう。
なお、被害届は交番に提出することも可能ですが、事件の大きさなどによっては対応できないと言われてしまう場合があるので、二度手間を防ぐためには、警察署に行くとよいでしょう。
被害届の書式は警察署にありますが、多くの場合には、被害者の話を聞いて警察官が代わりに記載するという形を取ることが一般的ですので、ご自身で記載をしていく必要はありません。
被害届に記載される事項は以下のとおりですので、警察に聞かれることも同じ内容となります。
事前にある程度準備していくと、スムーズに話ができるでしょう。
- 被害者の住居、職業、氏名、年齢
- 被害の年月日時
- 被害の場所
- 被害の模様
- 被害金品
- 犯人の住居、氏名、人相、着衣、特徴等
- その他参考となるべき事項
5. 被害届提出後の流れ
警察に被害届が受理されたのちは、警察はその判断により捜査を開始します。
捜査が開始されれば、まずは加害者や被害者に対して取り調べを行います。
その他、必要に応じて実況見分や証拠の収集・鑑定などが行われます。
警察は、この取り調べを踏まえて、事件を検察官に送検するかを判断します。
捜査の結果、警察が、事件を検察に送検することが適当であると考えた場合には、検察官に事件の記録が送られ、今度は検察官による捜査が開始されます。
なお、この検察官による捜査の段階でも、被害者に対して取り調べが行われます。
検察官は、捜査の結果を踏まえて起訴・不起訴の判断をします。
検察が起訴をした場合には、刑事裁判が行われ、加害者が犯罪をした事実があるか否かや、刑罰の確定がされます。
6. 被害届を出す際に注意すべきこと
①被害の内容を具体的に伝える
被害届を出す場合には、被害の事実が警察官にちゃんと伝わるように、犯罪被害の内容を正確に、かつ具体的に伝えられるようにしましょう。
これは、口頭で被害の内容を伝え、警察官が被害届を代筆するという場合でも同様です。
この犯罪被害の内容が具体的でなかったりするなどして事件性がないなどと判断されると、警察に被害届を受理してもらえないことがあります。
実際に「事件性がないとして被害届を受理してもらえなかった」というご相談はよくお受けします。
事件性があることを分かってもらうためにも、いつ、どこで、どういった内容の被害があったのかを明確に、かつ具体的に伝えるよう意識するとよいでしょう。
②証拠を持参する
被害の内容を具体的に分かってもらうために有用なのが、証拠です。
暴力を振るわれた際に怪我をして病院を受診したのであれば、その際の診断書を持参する、怪我をした部位の写真などがある場合には、その写真を持参するようにしましょう。
また、暴力や暴言を受けている際の音声データも有用です。
③被害を受けた後できるだけ速やかに提出する
被害届については、事件後○日以内に提出しなければならないといった期限が定められているわけではありません。
しかし、被害を受けてからあまりにも時間が経ってしまっている場合には、客観的証拠が乏しくなっているなどといった理由から、捜査が困難になることが多いといえるでしょう。
警察も多くの事件を抱えており、人手や予算にも限りがあることから、より緊急性の高い事件を優先せざるを得なくなります。
被害があったらすぐに被害届を提出することで、被害届を受理してもらう可能性を高めることができます。
7. 被害届でお困りの際は弁護士に相談を
どうしても被害届を受け取ってもらえずに困っている場合には、弁護士に相談することを検討してみてください。
弁護士であれば、犯罪が成立するための要件を把握していることから、被害届に記載すべき内容を具体的にアドバイスすることができます。
また、事案によっては被害届の提出の際に警察署に同行するなども可能となります。
当事務所では、被害届提出後の示談交渉や、DVを理由とした離婚に関するご相談についてもお受けできますので、配偶者によるDVにお悩みの方は、お気軽にお問い合わせください。