裁判で勝訴判決を得たにもかかわらず、相手が判決どおりにお金を支払わなかった場合には、強制執行手続きにより相手の財産を差押えることができます。
差押をしたいのに相手の財産が不明な場合には、財産開示手続を利用して相手の財産を調べることを検討するとよいでしょう。
そこで、本記事では財産開示手続とはどのような手続や、手続の方法について解説します。
目次
1. 財産開示手続とは?
例えば相手にお金を貸していて、相手がそのお金を一向に返さないため、裁判をして勝訴判決、つまり「相手は金〇円を支払え」という判決が出たとします。
この場合、相手が判決に従って任意にその額を支払えば、貸したお金を回収できます。
しかし、人によっては判決が出たとしても任意にその判決に従った支払いをせずに放置することがあります。
そのような場合、強制執行といって、債務者から強制的に財産の回収をすることができます。
例えば相手の預金や給与を差押えてそこから債権を回収したり、債務者が所有する不動産を競売して換価(=お金に換え)して回収したりすることが可能となります。
ただし、この強制執行をするためには、債務者の財産の所在(預金の場合は口座を保有している支店など、給与の場合は勤務先など)が判明している必要があります。
強制執行をしたいのに財産の所在が不明な場合、強制執行を可能とさせるために相手に財産を開示させる手続が、財産開示制度です。
2. 財産開示手続はどのような場合にできる?
財産開示手続の申立てには、一定の要件を満たしている必要があります。
裁判において判決を取得している場合に必要な要件は、以下のとおりです(民事執行法第197条1項)。
- 執行力のある債務名義を有している債権者であること
- 執行開始要件を備えていること
- 強制執行を開始することができない場合でないこと
- 強制執行を開始し配当等の手続きをしても金銭債権の完全なる弁済を得ることができなかったこと、又は、知れている財産に対する強制執行を実施しても完全なる弁済が得られないことの疎明があったこと
- 債務者が3年以内に財産開示手続において財産を開示した者ではないこと
①執行力のある債務名義を有している債権者であること
債務名義とは、裁判所等の公的機関が、債権(金銭の支払いなどを請求できる権利のことをいいます)があることを認めた文書をいい、その債務名義が強制執行できる状態にある場合に、その文書に「執行力」があることになります。
例えば裁判においてお金を返せという判決を得ている場合、この判決正本が債務名義となりますが、判決があるだけでは強制執行はできません。
さらに裁判所に対し「執行文」を付与してもらい、判決を強制執行できる状態にしてもらう必要があり、この執行文が付与された判決が「執行力のある債務名義」です。
判決の他に、公正証書や和解調書、調停調書などが債務名義にあたります。
②執行開始要件を備えていること(民事執行法第29条前段)
強制執行を開始するためには、債務者(金銭の支払いなどの義務を負う人をいいます)に債務名義の正本(又は謄本)が送達されている必要があります。
つまり、債務者が判決を受け取っている必要があります。
通常、裁判所で判決が言い渡されると、債務者には判決が送達(送付)されます。
③強制執行を開始することができない場合でないこと
例えば、債務者が破産手続開始決定や民事再生手続開始決定を受けている場合には、強制執行を開始することができないと定められていますので、債務者にそのような事情がないことが必要です。
④強制執行を開始したが完全なる弁済を得ることができなかったこと、又は、知れている財産に対する強制執行を実施しても完全なる弁済が得られないことの疎明があったこと
財産開示手続を経ることなく強制執行をし、そこから債権が回収できるのであれば、財産開示手続を認める必要はないため、一度強制執行をしたにもかかわらず弁済を受けることができなかったこと、又は、把握している財産では弁済を受けることができないという要件が必要です。
後者の場合には、財産調査結果報告書という書面を提出します。
この文書には、債務者が不動産を有していないことや、預金調査をしたものの預金が判明しなかったことなどを記載します。
⑤債務者が3年以内に財産開示手続において財産を開示した者ではないこと
過去3年以内に債務者が財産開示手続において財産を開示している場合には、財産開示手続を利用することはできません(民事執行法第197条3項)。
ただし、この要件については、申立ての段階で明示的に主張することまでは求められていないので、この要件について別途の資料の提出は不要です。
3. 財産開示手続の方法
財産開示手続は、申立書やその添付書類を管轄の裁判所に提出して行います。
管轄の裁判所は、債務者の住所地を管轄する地方裁判所です。
申立書の記載例は、裁判所のホームページで確認できますので、記載例や注意事項を参照しながら作成しましょう。
確定判決を債務名義とする場合、その他に提出が必要な添付書類や証拠書類は、以下のとおりです。
- 執行力のある債務名義の正本
- 債務名義の正本送達証明書
- (当事者が法人の場合)資格証明書
- (債務名義上の氏名や名称、住所に変更がある場合)住民票、戸籍謄本、履歴事項全部証明書等、変更後の氏名や名称、住所が分かる書類
- 申立手数料(2000円分の収入印紙)
- 郵券(切手)
- 強制執行を開始したが完全なる弁済を得ることができなかったこと、又は、知れている財産に対する強制執行を実施しても完全なる弁済が得られないことを疎明する書類
- 執行力のある債務名義の正本:既に述べたとおり、確定判決を債務名義とする場合には、債務名義に執行力があることが必要です。具体的には、裁判所に対し、「執行文付与申請書」というものを提出し、判決に執行文を付与してもらいます。
- 債務名義の正本送達証明書:債務者に対して判決が送達されたことを証明するための書類です。判決を言い渡した裁判所に、送達証明申請書を提出することにより取得できます。
- (当事者が法人の場合)資格証明書:手続の当事者となる資格があることを証明するための書類です。法人の場合には、法人の履歴事項全部証明書や、代表者事項証明書を提出します。
- (債務名義上の氏名や名称、住所に変更がある場合)住民票、戸籍謄本、履歴事項全部証明書等、変更後の氏名や名称、住所が分かる書類:判決の確定後に債務者が引っ越すなどして、債務名義に記載された債務者の住所に変更がある場合には、変更後の住所が分かる住民票などの書類を提出します。
- 郵券(切手):裁判所が債務者などに書類を送付するために、あらかじめ郵券(切手)を提出します。必要な額や種類は裁判所によって異なるため、事前に管轄の裁判所に確認しましょう。
- 強制執行を開始し配当等の手続きをしても金銭債権の完全なる弁済を得ることができなかったこと、又は、知れている財産に対する強制執行を実施しても完全なる弁済が得られないことを疎明する書類:前者の場合は、強制執行手続における配当表又は弁済金交付計算書の写しを、後者の場合は、財産調査結果報告書を提出します。
なお、上記のほか、債務名義に誤記があるなどして更生されている場合は、更生決定の正本やその送達証明書などが必要になる場合もあります。
4. 財産開示手続の流れ
それでは、財産開示手続が実際にどのような流れで行われるのかみていきます。
①申立て
申立書類や添付書類の準備ができたら、裁判所に申立書を提出します。
書類が不足している場合や、申立書に不備がある場合には、裁判所に追加で書類の提出を指示されたり、申立書の補正を指示されたりしますので、指示に従って準備をしましょう。
②財産開示期日の決定
裁判所に申立てが認められると、裁判所が財産開示期日を決定し、債務者を呼び出します。
通常、申立てが認められてから、約1か月後に期日が設定されることが多いです。
③財産目録の作成・提出
債務者は、事前に自身の財産の目録を作成し、裁判所に提出します。
④期日当日
債務者が期日に出頭し、自身の財産について陳述を行います。
この期日において、債権者は、裁判所の許可を受けたうえで、債務者に対し、財産についての質問をすることができます。
財産開示手続において債務者の財産を把握したら、強制執行手続を行い、債務者の財産から債権を回収することを検討しましょう。
5. 債務者が期日に出頭しない場合は?
2020年4月1日に民事執行法が改正され、財産開示手続はより実効性のある手続となりました。
改正前は、債務者が期日に出頭しなかったり、嘘の陳述をした場合のペナルティが30万円以下の過料のみであったため、債務者が30万円以上の支払義務を負っている場合には、期日を欠席したり、嘘の陳述をする方が得をしてしまう状態であり、あまり実効性のある手続とはいえませんでした。
このような問題点に対処するため、改正後の民事執行法では、期日に正当な理由なく出頭しい、陳述をしない、虚偽の陳述をした場合のペナルティが「6ヶ月以下の懲役又は50万円以下の罰金」と改められました(民事執行法第213条5号・6号)。
財産開示手続を無視した場合、懲役や罰金という前科が就いてしまう可能性があるという点で「逃げ得」の解消につながることが期待されます。
そこで、仮に債務者が期日に出頭しない場合などには、刑事告訴をすることを検討しましょう。
債務者としても刑事罰を受けることは避けたいと思うでしょうから、告訴を受けた債務者が任意に財産を開示する・債務を支払うといった対応をする可能性が高まるでしょう。
6. まとめ
財産開示手続や、その後の強制執行は、必要な書類が多いことに加え、申立書の記載方法に独特な決まりがあるなど、ご自身で対応することが難しい場合が多いです。
当事務所では、財産開示手続からその後の強制執行手続で債権を回収するに至るまで、一貫したサポートが可能ですので、お気軽に以下問い合わせフォームよりお問い合わせください。