子どもがいる夫婦が離婚した場合、子どもを監護養育する親は、相手に対し養育費の支払いを請求することができます。
子どもを育てるには、生活費や医療費、教育費など多くの費用がかかるため、適切な額の養育費を支払ってもらわないと、生活が苦しくなってしまうことになりかねません。
そこで、本記事では、請求できる養育費の額や請求方法について、解説します。
目次
1. 養育費とは?
養育費とは、子どもの監護や教育のために必要な費用のことをいい、生活費や医療費、教育費などが含まれます。
夫婦が離婚したとしても、子どもにとって親であることには変わりなく、親は子どもに対して扶養義務を負いますので、子どもと一緒に暮らし、子どもの監護養育をする親(監護親といいます)は、もう一方の親(非監護親といいます)に対し養育費を請求することができます。
2. 養育費の相場は?
令和3年度の全国ひとり親世帯等調査によると、以下の表のとおり、養育費の額の平均は、母子世帯で約5万円、父子世帯で約2万6000円でした。
養育費の額は、裁判所が作成した算定表を用いて決めることが一般的です。
算定表とは、両親の収入や子どもの数を元に、養育費の額が一覧できる表のことをいいます。
両親の収入を元に養育費を算定していることから、男性の方が高収入であるケースが多い日本では、母子世帯が受け取る額の平均額が高くなっているものと考えられます。
全世帯平均額 | 子ども1人の家庭の平均額 | 子ども2人の家庭の平均額 | 子ども3人の家庭の平均額 | 子ども4人の家庭の平均額 | 子ども5人の家庭の平均額 | |
---|---|---|---|---|---|---|
母子世帯 | 50,485円 | 40,468円 | 57,954円 | 87,300円 | 70,503円 | 54,191円 |
父子世帯 | 26,992円 | 22,857円 | 28,777円 | 37,161円 | ― | ― |
3. 養育費はいくら請求できる?
では、養育費の具体的な額はどのように決めるのでしょうか。
以下では、いくつか例を挙げて解説します。
①夫の年収が600万(会社員)、妻が専業主婦で、妻が子ども1人(5歳)を養育している場合
この場合には、裁判所が公開している算定表のうち「養育費・子1人表(子0~14歳)」を使用します。
養育費を請求する権利者(妻)の年収は0円なので、グラフの横軸は0円の箇所を、養育費を支払う義務者(夫)の年収は600万円なので、グラフの縦軸は600万円の箇所(給与所得者のため「給与」の軸)をみます。
グラフ内で交差する場所が、6~8万円の上方付近なので、養育費の額は8万円が適正となります。
②夫の年収が800万円(自営業)、妻の年収が200万円(会社員)、妻が子ども2人(15歳の子ども1人、8歳の子ども1人)を養育している場合
この場合には、裁判所が公開している算定表のうち「養育費・子2人表(第1子15歳以上、第2子0~14歳)」を使用します。
養育費を請求する権利者(妻)の年収は200万円なので、グラフの横軸は200万円の箇所を、養育費を支払う義務者(夫)の年収は800万円なので、グラフの縦軸は800万円により近い「802」の箇所(自営業のため「自営」の軸)をみます。
グラフ内で交差する場所が、16~18万円の真ん中付近なので、養育費の額は17万円が適正となります。
③夫の年収が800万円(会社員)、妻の年収が400万円(会社員)、妻が子ども4人(15歳の子ども1人、14歳の子ども1人、8歳の子ども1人、3歳の子ども1人)を養育している場合
養育費の算定表は、子どもが3人までの場合のもののみしか公開されていませんので、算定表では額が確認できません。このような場合には、養育費を算出する計算式を用いて計算する必要があります。
実は、養育費の算定表も、この計算式を元に作成されており、都度計算が不要なように表形式で養育費の額を算定できるようになっているのです。
養育費の計算方法は、以下のとおりです。
ステップ1:夫婦の基礎収入を算定する
基礎収入とは、年収から公租公課や住居関係費などの必要経費を引いた額をいいます。
可処分所得とほぼ同じと考えていただくとイメージがつきやすいでしょう。
基礎収入は、以下の表に基づき決められた割合を収入に乗じることで算出できます。
表:給与所得者の基礎収入割合
収入(万円) | 割合 |
---|---|
0~75 | 54 |
~100 | 50 |
~125 | 46 |
~175 | 44 |
~275 | 43 |
~525 | 42 |
~725 | 41 |
~1325 | 40 |
~1475 | 39 |
~2000 | 38 |
表:自営業者の基礎収入割合
収入(万円) | 割合 |
---|---|
0~66 | 61 |
~82 | 60 |
~98 | 59 |
~256 | 58 |
~349 | 57 |
~392 | 56 |
~496 | 55 |
~563 | 54 |
~784 | 53 |
~942 | 52 |
~1046 | 51 |
~1179 | 50 |
~1482 | 49 |
~1567 | 48 |
夫と妻の基礎収入は、それぞれ以下のとおりです。
夫の基礎収入=800万円×0.4=320万円
妻の基礎収入=400万円×0.42=168万円
ステップ2:子どもの生活費を計算する
次に子どもの生活費を、生活費指数を使って計算します。
生活費指数とは、大人1人を100とした場合に、家族のそれぞれに割り振られるべき生活費の割合をいい、0~14歳の子が62、15歳以上の子が85と定められています。
養育費とは、夫婦の収入に応じて子どもに支払うべき費用を決めるという考え方によるものなので、生活費指数という考え方で子どもの生活費を計算するのです。
子どもの生活費は、以下の式で算出します。
子の生活費=義務者の基礎収入 × (子の指数 ÷義務者の指数+子の指数)
上記の例に当てはめると、以下のとおりです。
子の生活費 = 320万円 × (85+62+62+62 ÷100+85+62+62+62)
=2,337,466円(小数点以下切り捨て)
ステップ3:義務者(夫)の支払額を計算する
ステップ2で計算した子どもの生活費について、夫と妻の収入に応じてそれぞれが分担する義務を負うので、お互いの収入に応じて按分した額が、義務者(夫)の支払額です。
義務者(夫)の支払額は、以下の式で計算します。
義務者(夫)の分担額 = 子の生活費 × 義務者の基礎収入÷(義務者の基礎収入+権利者の基礎収入)
上記の例に当てはめると、以下のとおりです。
義務者(夫)の分担額 = 2,337,466×320万円 ÷(320万円+168万円)
=1,532,764円(小数点以下切り捨て)
算出された額は年額なので、月額に直す(÷12をする)と、約12万7730円となり、これが上記の例での養育費の額となります。
3. 養育費を算定表の額より増額できることはある?
「月額で受けとる額とは別に、子どもの学費を負担して欲しい」「習い事の費用を負担して欲しい」。養育費に関するご相談をお受けしている中で、よくこういったご相談を頂くことがあります。
養育費の算定表では、統計を元に年収に応じた標準的な住居費、医療費、学費等を加味して養育費の額が算定されていますし、習い事については監護親が任意に通わせるものなので、追加で学費などの費用を請求することはできないのが原則です。
ただし、私立学校の学費については、算定表で考慮されているのがあくまで公立学校の場合の学費であることを理由に、一部を相手に請求することができる場合があります。
ただし、私立学校に通っている場合の学費を加味できるのは、基本的には①相手が私立学校への進学を承諾していた場合又は②相手の収入・学歴・地位等からその教育費負担が不合理でない場合のみとされています。
例えば、明示的な承諾がなかったとしても、同居中から私立学校への進学が決まっていた場合には、①の同意があったとして養育費の額に追加して請求できる場合があります。
また、習い事についても、相手方の同意がある場合や、お子さんの養育に習い事が必須な場合などには、一部を相手に請求できる場合があります。
では、具体的にいくら請求できるのでしょうか。
以下では、私立学校の学費を例にとって説明します。
実務でよく取られる方法は、算定表上考慮されている公立学校の標準的な学費と私立学校の学費(実際にかかる額)の差額をそれぞれの年収で按分するという形です。
この方法で加算額を計算する場合、具体的には、以下の式で計算します。
(私立学校の学費-公立学校の標準的な教育費)×義務者の基礎収入÷(義務者の基礎収入+権利者の基礎収入)
例えば、夫の年収が800万円、妻の年収が400万円、子どもが通っている私立高校の学費が100万円の場合でみてみましょう。
公立高校の標準的な教育費は、年額で25万9342円です。
養育費の算定表では、この基礎収入を元に養育費が算定されていることから、私立学校の学費を増額する場合も、基礎収入を算出して計算します。
それぞれの基礎収入は、「2」で算定したとおりですから、上の式に当てはめると、以下のとおりとなります。
(100万円-25万9342円)×320万円÷(320万円+168万円)≒ 485677円
以上より、年額約48万5677円、月額約4万円を養育費の額に加算して請求できることとなります。
4. 養育費の請求方法は?
①相手との協議で請求する
養育費の請求方法としてまず考えられるのが、相手との協議によって額を決めて請求する方法です。
相手と協議ができそうであれば、相手に対し養育費を請求することを伝え、額や支払い方法について協議しましょう。
この場合、相手との合意さえできれば、養育費の額は自由に決めていいことになりますから、必ずしも算定表に従う必要はありません。
ただし、相手としても、裁判所が作成している算定表であれば合意がしやすいでしょうから、算定表をベースに話し合いをするとスムーズに合意ができることが考えられます。
また、相手と額が合意できた場合には、合意書の形で支払い方法や額、いつからいつまで支払うのかといったことを書面に残すようにしましょう。
書面に残すことで、後になって「養育費を支払うなんて合意していない」などと言われることを避けられます。
また、可能であれば、支払いが滞ったときに差押などの強制執行が可能となるように、公正証書(公証役場で公証人が作成する、書面の内容等を公証人が証明してくれる文書)を作成するとよいでしょう。
②調停
相手と養育費について合意ができない場合には、養育費の請求調停を申し立てることを検討しましょう。
調停とは、1名の裁判官(又は調停官)と2名の調停委員が当事者の話し合いを仲介し、当事者による合意を目指す手続です。
あくまで話し合いの手続きですから、相手と合意することが必要となりますが、養育費の額については、算定表という客観的な指標があることから、争点が少なくなる傾向があり、調停段階で合意することができることも多いです。
調停の申立ては、裁判所に申立書や以下の必要書類を提出することで行います。
- 申立書
- 収入印紙:子ども1人につき1200円分
- 郵券(切手):事前に管轄の裁判所に必要な額や枚数を確認しましょう
- 対象となる子の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 申立人の収入に関する資料(源泉徴収票など)
上記の他に、裁判所から追加で資料の提出を求められることがありますので、その場合は指示に従って資料を提出しましょう。
なお、調停でも話し合いが成立しなかった場合には、調停は不成立となり、自動的に審判という手続きに移行します。
審判では、調停と異なり、裁判官が当事者の提出した証拠を元に養育費の額を決定します(通常、1か月あたり〇円を支払え。といった形で結論が出されます)
5. 養育費に関するご相談は新静岡駅前法律事務所まで
当事務所では、養育費に関するご相談の解決実績が多数あります。
離婚時に養育費の合意をしていない場合や、相手が養育費の協議に応じてくれずお困りの場合などには、お気軽に問い合わせフォームからお問い合わせください。