離婚と離婚条件の合意が成立したら、離婚協議書を作成すると良いでしょう。
離婚協議書を作成することで、後の紛争を防止することが期待できます。
本稿では、離婚協議書の作成方法を弁護士が解説します。
目次
1. 離婚協議書とは
離婚協議書とは、夫婦が離婚に合意すること及び合意している離婚条件を定めた書面です。
離婚協議書は、互いに合意した内容を記載するものですので、一方的に離婚協議書を作成しても意味がありません。
離婚協議書の作成に先立ち、離婚条件について協議を行った上で、合意が成立してから作成するのが一般的です。
2. 離婚協議書の内容
離婚の合意
互いに離婚に合意する旨、離婚協議書の締結が完了した後、夫婦の一方が速やかに離婚届を提出する旨を記載しましょう。
離婚の合意に関する条項を定めることで、離婚協議書の締結後、夫婦の一方が離婚を拒否したとしても、離婚訴訟等において、有効な離婚協議書を証拠として提出することで、離婚を成立させることができます。
<条項例>
夫◯◯(以下「甲」という。)と妻◯◯(以下「乙」という。)は、協議離婚することを合意し、乙は、本協議書締結後、速やかに離婚届の提出を行う。
親権者の指定
夫婦間に子がいる場合には、離婚に際し夫婦の一方を親権者と指定することが必要です。
理論上は親権と監護権(子の監護教育をする権利)の分離が可能なので、どちらが監護養育するかも明示しておくと良いでしょう。
<条項例>
甲乙間の子である◯◯(◯年◯月◯日生、以下「長男」という。)の親権者を母である乙と定め、同人において監護養育する。
養育費
夫婦間に子がおり、非監護親(子と離れて暮らす親)が監護親(子と一緒に暮らす親)に養育費を支払うことに合意した場合には、養育費の月額、始期、終期等を定めるようにしましょう。
養育費の月額は、裁判所が公表している「婚姻費用・養育費算定表」をもとに算定することが多いです。
また、養育費の終期は、子が満20歳に達する日の属する月までとするのが一般的ですが、四年制大学に進学することが確定している又は既に進学している場合は、大学卒業まで(子が満22歳に達した後最初に到来する3月まで)と定めることが多いです。
<条項例>
甲は、乙に対し、長男の養育費として、◯年◯月から子が満20歳に達する日の属する月まで、毎月末日限り、◯万円を支払う。
特別出費
養育費とは別に、子に関し特別の出費が生じた場合には、その負担について、別途協議するという条項を定めることが一般的です。
<条項例>
長男の進学、病気、事故等特別の出費を要する場合には、その負担につき甲乙間で別途協議して定める。
面会交流
夫婦間に子がおり、非監護親が子と面会交流をすることに合意している場合、面会交流の頻度、回数、日時、場所、方法等を定めるようにしましょう。
宿泊を伴う面会交流を実施する場合には、その旨も記載しておきましょう(ゴールデンウィーク、夏休み、年末年始などの長期休暇に実施するケースが多いです)。
なお、離婚協議書において、面会交流の頻度、回数、日時、場所、方法を具体的に定めておくことは必須ではなく、臨機応変に都度協議しながら面会交流を実施したいという場合には、「面会交流の日時、場所、方法等については、別途協議して定める」と記載することでも問題ありません。
また、頻度については、形式的に「月1回」とする必要はなく、「月1回程度」という定め方をすることも多いです。
<条項例>
乙は、甲が長男と、月1回程度、面会交流することを認め、その日時、場所、方法等については、子の福祉に配慮し、甲乙間で別途協議して定める。
財産分与・慰謝料
離婚に伴う財産分与や慰謝料の支払に合意している場合には、財産分与や慰謝料の支払義務や支払方法を定めるようにしましょう。
財産分与や慰謝料の具体的な金額と支払期日を記載しておくと後の紛争を防止することに繋がります。
「慰謝料」という名目に抵抗感がある場合は、「解決金」という名目にすることも検討しましょう。
後述する清算条項を定める場合には、財産分与と慰謝料の合計金額を「解決金」として支払う内容としても問題ありません。
また、一括での支払が難しい場合には、分割払いとすることもあります。
分割払いとする場合には、毎月の支払額と支払期日(毎月末日限りなど)を明示するようにしましょう。
<条項例>
乙は、甲に対し、本件離婚に伴う財産分与として、◯円の支払義務があることを認め、これを甲名義の◯銀行◯支店の普通預金口座(番号◯◯◯◯◯◯◯)に振り込む方法により支払う。
振込手数料は乙の負担とする。
年金分割
年金分割については、離婚協議書で定めただけでは手続を完了させることができず、別途年金事務所での手続や調停、審判等の手続が必要になります。
離婚協議書では、離婚成立後に年金分割の割合で紛争が生じることを防止するために、年金分割の割合を合意する内容を記載しておきましょう。
なお、年金分割手続の詳細は、こちらのコラムで解説していますので、ご参照ください。
<条項例>
甲及び乙は、甲と乙との間の年金分割についての請求すべき按分割合を0.5と定めることに合意し、本件離婚成立後、年金分割に関する手続に協力することを約束する。
清算条項
離婚に関して、後の紛争が生じないようにするために最も重要な条項が「清算条項」です。
清算条項を定めることにより、原則として、互いに追加の請求をしたり、合意した金額の減額等ができなくなるので、後の紛争を防止する効果があります。
慰謝料だけは合意が成立していない、財産分与は調停手続で解決したいなど、一部合意できていない事項がある場合には、合意が成立していない事項を清算の対象から除く形で清算条項を定めることもあります。
<条項例>
甲及び乙は、本件離婚に関し、本協議書に定めるもののほか、何らの債権債務のないことを相互に確認する。
公正証書作成の合意
離婚に関し公正証書を作成する予定である場合には、公正証書の作成に合意する旨を記載しておくと良いでしょう。
公正証書の作成には費用がかかりますので、作成費用についても合意しておくとベターです。
<条項例>
甲及び乙は、本協議書と同内容の強制執行認諾文言付公正証書を作成することに合意する。
なお、上記公正証書の作成にかかる費用は、甲と乙が2分の1ずつ負担する。
3. 離婚協議書の作成方法
離婚協議書の作成方法について、法律上定められた要式はありません。
もっとも、「こんな離婚協議書に合意したことはない」、「この離婚協議書は偽造されたものだ」など、離婚協議書の無効を主張されることのないように、離婚協議書の作成に当たっては、以下の点に注意すると良いでしょう。
①署名・押印
離婚協議書には、双方の署名・押印を残すようにしましょう。
署名は本人が直筆で、押印は実印で行うようにすることで、真正な離婚協議書であることを証明しやすくなります。
②2通作成し互いに1通ずつ保有する
離婚協議書は、2通作成し、互いに1通ずつ保有することで、偽造等の主張を防止することができます。
2通の離婚協議書に割印をしておくと、更に偽造等の主張が難しくなるので、割印をすることがベストです。
4. 公正証書
離婚協議書の締結が完了しましたら、公正証書の作成を検討しましょう。
公正証書を作成することで、合意した離婚条件が履行されなかった場合に、強制執行(財産の差押え)ができます。
また、公正証書は、公証役場において公証人の面前で作成されますので、書面の信用性が担保され、偽造や強迫等の主張が非常に難しくなります。
公正証書を作成するためには、公証役場とのやりとりや当事者双方が公証役場に赴く必要があり、作成費用も生じるため、公正証書の作成をするかは、公正証書作成の必要性を考慮して検討すべきです。
例えば、養育費の支払について合意が成立している場合、養育費の支払期間は長期に渡ることが多いので、公正証書を作成することをお勧めします。
5. まとめ
離婚協議書は、離婚の成立や離婚条件を確定させるために非常に重要な書面ですので、離婚協議書を作成する場合には、弁護士に離婚協議書案のチェックや作成を依頼することをお勧めします。
当事務所は、離婚協議書のリーガルチェック及び作成、公正証書案や公正証書の作成手続代行のご依頼を承っておりますので、離婚協議書の作成等を弁護士に依頼することを検討されている方は、問い合わせフォームよりご連絡ください。