同意をしていないのに、無理やり性交渉をされてしまった・無理やりキスをされてしまったといった被害に遭われ、お悩みの方もいらっしゃるのではないかと思います。
このような場合に取ることのできる方法の一つが、加害者への慰謝料請求です。
そこで、本記事では、不同意性交や不同意わいせつの慰謝料の相場や請求方法について解説します。
目次
1. 不同意性交とは
不同意性交とは、同意しない意思を形成、表明又は全うすることが困難な状態の相手方と性交等を行なった場合に成立する犯罪です(刑法第177条)。
つまり、嫌だといえない状況で性交をされてしまった際に、加害者は不同意性交として処罰される可能性があるということです。
性交だけではなく、性交類似行為(オーラルセックスなど)も処罰の対象となっています。
「同意しない意思を形成、表明又は全うすることが困難な状態」とは以下の状態をさします。
- 暴行又は脅迫があること
- 心身の障害を生じさせること
- アルコール又は薬物を摂取させること
- 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること
- 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと(=同意していないこと)
- 予想と異なる事態に直面させて恐怖・驚愕させること
- 虐待に起因する心理的反応を生じさせること
- 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること
このように、暴行や脅迫により性交をされてしまった場合のみではなく、予想外・予想を超える事態に直面して、いわゆるフリーズの状態になってしまい、その際に性交がされた場合、上司であるなどの地位を利用して性交をされてしまった場合も、不同意性交が成立し、慰謝料を請求できる場合があります。
2. 不同意わいせつとは
不同意わいせつとは、不同意性交と同じく、同意しない意思を形成、表明又は全うすることが困難な状態でわいせつな行為をした際に成立する犯罪です(刑法第176条)。
上で述べた①~⑧を原因として、わいせつな行為をした際に成立します。
わいせつな行為とは、キスをする、胸や陰部を触るといった行為を指します。
不同意性交との違いは、性行為があるか否かです。
3. 不同意性交の慰謝料の相場
慰謝料の額は、加害者との交渉の中で慰謝料が決まることが多いため、一概にはいえませんが、不同意性交の慰謝料の相場は、おおよそ100万円~500万円程度であることが多いです。
性犯罪の中でも刑罰が最も重い類型のものであり、被害者の方の受ける苦痛も大きいことから、慰謝料は高額になる傾向にあります。
また、不同意性交罪は、以前は「強制性交罪」という名前でした。
刑法が改正され、「不同意性交」と改められた背景として、「強制性交」では、暴行や脅迫を用いたことが犯罪の成立要件となっていたため、断ることができない状況であっても犯罪が成立しないという問題点があったことがあります。
このように、近年、性犯罪についてはその成立範囲が拡大されるなど厳罰化傾向にあるため、慰謝料の額も増額傾向にあります。
4. 不同意わいせつの慰謝料の相場
不同意わいせつの慰謝料の相場は、おおよそ50万円~100万円程度であることが多いです。
例えば、無理やりキスをされた場合に比べると、胸や陰部を触られた場合の方が慰謝料の額は高くなることが一般的であり、行為の態様によっても慰謝料の額は異なります。
5. 慰謝料の額に影響を及ぼす要因
不同意性交や不同意わいせつの慰謝料の額に影響を及ぼす要因には、様々なものが挙げられますが、ここでは主なものについて一つずつ解説します。
犯行態様の悪質性
例えば、刃物で脅すなど凶器を使用して脅迫し行為をした場合や、執拗に暴行した場合、複数回に渡って行為を行った場合など、犯行態様が悪質な場合には、慰謝料が高額になる傾向があります。
被害者の年齢
不同意性交罪は、被害者が13歳未満である場合や被害者が13歳以上16歳未満で加害者が5歳以上年長である場合、同意があったか否かに関わらず成立します。
このように、子どもの権利はより手厚く守られているといえることから、被害者の方が若年である場合、慰謝料が高額になる傾向があります。
傷害の有無
例えば、暴行された結果怪我をしてしまった場合には、身体的にも更なる苦痛を負ってしまうことになるため、慰謝料の額も増額されることが多いです。
また、怪我をしてしまった場合には、加害者は不同意性交等致傷罪(刑法第181条2項)に問われることになり、法定刑も不同意性交等罪より重いものとなります。
加害者の収入・財産
加害者にいくら高額の慰謝料を支払うという意思があったとしても、収入や財産がない場合には、慰謝料の支払いができないことから、加害者の収入や財産も慰謝料の額に影響を与える要因となります。
加害者の社会的地位
加害者の社会的地位が高い場合、加害者側としても起訴された際のデメリットが大きいなどといった理由から、高額な慰謝料の支払いを申し出ることがあります。
また、加害者の社会的地位が高い場合、収入もそれに比例して高いことが多いため、こういった面からも慰謝料が高額となるケースがあります。
6. 慰謝料の請求方法
それでは、実際に相手に慰謝料を請求するためには、どのような方法が考えられるのでしょうか。
①相手に内容証明郵便を送付する
内容証明郵便とは、いつ、誰が、誰宛に、どのような内容の郵便を送ったかを証明してくれる日本郵便のサービスです。
いつどのような請求をしたかを明確にできるため、可能な限り内容証明郵便を活用して請求するのがよいでしょう。
また、慰謝料請求は、損害及び加害者を知った時から3年で消滅時効にかかりますので(民法第724条)、消滅時効の観点からも、請求したことが記録に残る内容証明郵便は有効です。
書面の内容はとしては、不同意性交や不同意わいせつを理由に慰謝料を請求する旨や、請求する慰謝料の額等を記載します。
②民事訴訟(裁判)を提起する
内容証明郵便を送っても相手が全く支払の意思を見せなかったり、金額について合意ができない場合には、民事訴訟の提起を検討しましょう。
民事訴訟においては、裁判所が慰謝料の請求の根拠があるか(不同意性交や不同意わいせつにあたる事実があったか)や、慰謝料の額を証拠に基づき判断することになりますので、証拠(性被害相談ダイヤルへの相談記録や、周囲に被害を訴えたLINE、怪我をしてしまった場合の診断書など)についても提出するようにしましょう。
③被害届の提出や刑事告訴をする
①や②については、いずれも民事上の請求となりますが、それと併せて、被害届の提出や、刑事告訴をすることも検討しましょう。
被害届は、最寄りの警察署(や交番)に行くことで提出できます。
被害届と刑事告訴状の違いは、被害届は、警察に対して捜査を開始する義務を課すものではないため、警察が必ず捜査をしてくれるわけではないのに対し、刑事告訴を受理した警察は、必ず捜査を開始しないと定められているという点です。
警察による捜査が開始されると、加害者は取り調べを受けることになり、場合によっては逮捕がされることもあります。
加害者としても、刑事裁判を避けるために示談をする必要性が高まるため、これまで慰謝料の支払いを拒否していた相手が慰謝料を支払うことを提案してきたり、民事のみで請求していた場合と比べて高額な慰謝料の提示がある可能性があります。
なお、事件から時間が経ちすぎていると、公訴時効にかかってしまったり(不同意性交罪は15年、不同意わいせつ罪は12年)、警察が被害届や刑事告訴を受理してくれない可能性が高くなってしまうので、注意が必要です。
④損害賠償命令制度を利用する
損害賠償命令制度とは、刑事事件の被害者が簡易・迅速に損害回復ができるよう、一定の類型の犯罪について、刑事裁判を行った裁判所と同じ裁判所が損害賠償の審理を行う制度です(犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に附随する措置に関する法律第24条)。
刑事裁判の記録を利用して裁判ができるため、民事訴訟を一から提起する場合と比べ、被害者側の主張や立証の負担が少なく審理ができるというメリットがあります。
また、原則として4回以内の審理期日で審理が終わるため、スムーズに判断をしてもらえる・申立手数料が2000円と低額であるといったメリットがあります。
なお、この制度を利用するためには、刑事裁判で有罪の判決があったことが必要です。
7. まとめ
不同意性交や不同意わいせつの被害に遭ってしまった場合、ご自身で慰謝料を請求することで、更なる精神的苦痛が生じてしまうといったこともあるのではないでしょうか。
また、被害の内容から、誰かに相談しづらいという方も多いのではないかと思います。
当事務所には、女性弁護士も在籍しており、性被害に遭ってしまった方からのご相談も多くお受けしています。
お一人で悩まれるのではなく、まずはご相談ください。