離婚時に養育費を定めたが、その後、様々な事情により養育費の支払が難しいという方もいらっしゃると思います。
そのような場合、養育費の減額が認められることがあります。
どのような時に養育費の減額が認められるのか、仮に減額が認められるとしてどれくらい減額できるのか、養育費の減額を認めてもらうためにはどのような手続が必要なのかについて、弁護士が解説します。
目次
養育費とは
親は子が経済的に独立するまでの間、子を養う義務を負います(「扶養義務」といいます(民法第877条1項))。
離婚をした後、相手方配偶者が子の親権者となった場合、子の扶養義務に基づき、相手方配偶者に支払わなければならないのが「養育費」です。
養育費は子が満20歳になるまで支払うのが原則ですが、親の学歴、職業、収入等の事情によっては、四年制大学を卒業する年である「22歳に達した後最初に到来する3月まで」とされることもあります。
なお、平成30年6月13日の民法改正で成人年齢が18歳に引き下げられましたが、養育費は、成人の有無にかかわらず、子が経済的に自立することを期待できない場合に支払われるものなので、成年年齢が引き下げられたからといって、当然に養育費の終期が18歳に引き下げられるものではありません。
扶養義務は子の生命・身体に関わる非常に重要な義務ですので、養育費の支払義務を免れることはできません(仮に自己破産しても支払義務が消滅しません(破産法第253条1項4号ハ))。
養育費を支払わなかった場合、最終的には給与の差押えなどの強制執行をされてしまうおそれがあります。
養育費が減額できるケース
総論
養育費を支払う義務を負う者(支払う側)を「義務者」といいます。
他方、養育費を請求できる権利がある者(受け取る側)を「権利者」といいます。
義務者又は権利者に「事情の変更」が生じたときは、養育費の減額が認められます(民法第766条3項、同法第880条)。
「事情の変更」が認められるためには、ⅰ合意の前提となっていた客観的事情に変更が生じたこと、ⅱその事情の変更を当事者が予測できなかったこと、ⅲ事情の変更が当事者の責めに帰すべからざる事由によって生じたこと、ⅳ合意どおりの履行を強制することが著しく公平に反することが必要です。
ここからは、養育費の減額が認められる事情変更の具体例を紹介します。
義務者側の事情
収入が減少した場合
義務者の収入が減少した場合、養育費の減額が認められる可能性があります。
ただし、単に収入が減ったというだけで養育費の減額が認められるわけではありません。
例えば、会社員として年600万円の収入を得ている方が自ら会社を立ち上げたいという理由で独立開業し年収が100万円に減少したという場合、事情の変更が当事者の責めに帰すべき事情によるものであるため、「事情の変更」があったとは認められず、養育費の減額は認められない可能性が高いです。
一方で、収入減少のやむを得ない事情があるような場合、例えば、仕事中の事故により後遺症が残ってしまったため、転職を余儀なくされ、収入が減少したという場合は、養育費の減額が認められる可能性が高いです。
扶養家族が増えた場合
再婚して再婚相手との間に子が生まれた、他の子と養子縁組をした、自身の親が大きな病気になり同居や看病が必要になったなど、義務者に扶養家族が増えた場合には、養育費の減額が認められる可能性が高いです。
ただし、再婚相手については、再婚相手の扶養が必要というだけでは養育費の減額が認められるわけではない点には注意が必要です。
権利者側の事情
権利者の収入が増加した場合
権利者の収入が増加した場合、養育費の減額が認められる可能性があります。
また、離婚当時は子が幼く、働くことができなかったため、収入をゼロとして養育費を計算したという方もいらっしゃると思います。
離婚から時間が経ち、子の年齢が上がることで、働くことができなかった配偶者が働けるようになった場合には、実際に働いていないとしても、一定の収入があるとみなすことで養育費の減額が認められる可能性があります(「潜在的稼働能力」といいます)。
再婚相手と養子縁組した場合
元配偶者が再婚し、再婚相手が子と養子縁組をした場合、再婚相手が第一次的な扶養義務者となりますので、養育費を負担する必要がなくなります。
ただし、再婚相手が養子縁組を解消した場合には、再び第一次的な扶養義務が発生することになるので、養育費の支払が必要になります。
再婚相手が高所得者である場合
元配偶者が再婚し、再婚相手に一定の収入がある場合、養育費の減額が認められる場合があります。もっとも、再婚相手に非常に高額な収入がある場合など特別な事情がある場合に限られるので、再婚相手が養子縁組をしていない場合には、養育費の減額が認められることは稀です。
養育費の計算方法
計算式
養育費の金額は、裁判所の「養育費・婚姻費用算定表」に基づき算出されることが一般的です。
算定表は、お互いの収入を当てはめれば、金額の概算を算出することができますが、この算定表の元となっている計算式があります。
計算式は以下のとおりです。
①基礎収入の算出
まずは、父母の収入を元に基礎収入を算出する作業が必要になります。
給与所得か、事業所得かにより、基礎収入を算出するパーセンテージが異なってきますので、注意が必要です。
基礎収入を算出するための計算方法は以下のとおりです。
基礎収入=総収入×基礎収入割合(0.38~0.54)
基礎収入割合は、所得に応じて以下表のとおり定められています。
給与所得 | 基礎収入割合 |
---|---|
0〜75万円 | 54% |
~100万円 | 50% |
~125万円 | 46% |
~175万円 | 44% |
~275万円 | 43% |
~525万円 | 42% |
~725万円 | 41% |
~1325万円 | 40% |
~1475万円 | 39% |
~2000万円 | 38% |
自営業 | 基礎収入割合 |
---|---|
0~66万円 | 61% |
~82万円 | 60% |
~98万円 | 59% |
~256万円 | 58% |
~349万円 | 57% |
~392万円 | 56% |
~496万円 | 55% |
~563万円 | 54% |
~784万円 | 53% |
~942万円 | 52% |
~1046万円 | 51% |
~1179万円 | 50% |
~1482万円 | 49% |
~1567万円 | 48% |
②子の生活費を計算
基礎収入を確定した後は、子の生活費を計算します。
子の生活費を計算するに当たっては、生活指数というものを用いることになりますが、父母の生活指数はそれぞれ100、子の生活指数は15歳以上の子が85、14歳以下の子が62となります。
仮に、子が1人(14歳以下)の場合の生活費は以下の計算方法になります。
義務者の基礎収入×62÷(100+62)=子の生活費
③養育費分担額(月額)を計算
子の生活費×義務者の基礎収入÷(義務者の基礎収入+権利者の基礎収入)÷12か月=養育費月額
減額事情がある場合の計算方法
義務者の収入が減少した場合や権利者の収入が増額した場合は、算定表に基づき、養育費の減額幅を確認することもできますが、義務者の扶養家族が増えたという減額事情の場合、算定表のみでは養育費を算出できず、上記計算式を利用して計算することが必要です。
仮に、再婚相手との間に子が生まれた時(子は14歳以下)の具体的な計算方法は、以下のとおりです。
「②子の生活費を計算」において、分母に再婚相手との間の子の生活指数を加えることになります。
①父母の基礎収入を算出
②子の生活費を計算
仮に、権利者と義務者との間の子が1人(14歳以下)の場合、下線部が再婚相手との間の子を考慮したものになります。
義務者の基礎収入×62÷(100+62+62)=子の生活費
③養育費分担額(月額)を計算
子の生活費×義務者の基礎収入÷(義務者の基礎収入+権利者の基礎収入)÷12か月=養育費月額
養育費減額の始期
養育費の減額は、事情変更が生じた時から認められるものではありません。
養育費の減額が認められるためには、減額事情があることに加え、元配偶者に対し養育費の減額請求をすることが必要になります。
したがって、養育費の減額を求める方は、必ず内容証明郵便やメール等記録に残る形で、かつ、早期に、元配偶者に対し養育費の減額を請求する内容の通知を送りましょう。
減額方法の流れ
協議
元配偶者に対し、裁判外で養育費の減額を求めることもできます。
元配偶者と話し合い、金額や始期について合意に至った場合には、後の紛争が生じないように、合意した内容を書面等に残すようにしましょう。
調停
裁判外での協議がまとまらない場合には、家庭裁判所に調停を申し立てる方法があります。
調停とは、裁判所を通じた話合いのことです。
調停委員会(裁判官1名と調停委員2名の合計3名)が間に入り、話合いの仲介をしてくれますので、協議よりも話がまとまりやすい制度です。
もっとも、あくまで「話合い」ですので、双方の合意が成立しない限り、調停での解決はできないことになります。
審判
調停でも話合いがまとまらない場合、「審判」という手続に移行します。
「審判」とは、裁判官が、当事者双方の主張や資料を見た上で、養育費の減額を認めるか否か、認めるとしていくら減額するかを決める手続です。
協議や調停と異なり、裁判官が決定を下すことになるので、何かしらの結論が出る手続になります。
調停の具体的内容
調停申立ての方法
調停の申立てには、申立書の作成及び子の戸籍謄本などが必要になります。
その他、自身の収入資料(源泉徴収票・確定申告書)を提出すると良いでしょう。詳細は裁判所のホームページに記載があります
申立て内容に不備がある場合、裁判所から訂正の連絡がありますので、裁判所の指示に従いましょう。
調停の流れ
調停の申立てが完了すると、裁判所から第1回調停期日の日程調整の連絡が来ます。
日程が確定すると、裁判所から相手方に、調停期日の通知書、申立書の写し及び提出資料が郵送されます。
なお、第1回調停期日は裁判所と申立人側のみで日程調整をするため、第1回期日に相手方が出頭しない又は期日が変更されることもあります。
調停が始まると、調停委員会が間に入り、話合いの仲介をしてもらえます。
ただし、あくまで仲介ですので、調停委員会が一方的に結論を出してそれを強制することはありません(調停委員会からの調停案が出ることはあります)。
話合いがまとまると、調停成立となり、裁判所が調停調書を作成してくれます。
一方で、話合いがまとまらない場合、調停は不成立となり、自動的に審判手続に移行します。
ただし、審判手続の中で、話合いがまとまり、和解(調停成立)という流れになることもあります。
調停を有利に進める方法
減額事情及び計算方法を具体的かつ明確に書面にまとめた上で、減額が認められるべき客観的資料を提出することで、調停委員会に減額が認められるべきであることをアピールすることが非常に重要となります。
調停期日当日に、調停委員に対して、提出した書面及び資料の補足説明をすることで、更に説得力を増す作業も重要になります。
まとめ
ここまで紹介してきたとおり、養育費の減額請求は、減額事情について具体的な主張及び客観的な資料提出が必要となり、場合によっては、調停・審判の裁判手続を行う必要性が生じるため、裁判手続の専門知識及び裁判対応が必要となります。
減額事情について具体的な主張及び客観的な資料提出でミスが生じると、本来支払う必要のない養育費の支払義務が認められてしまうリスクがあります。
また、お仕事等で裁判手続に対応することが難しいという方もいらっしゃると思います。その場合、代理人弁護士を付けることでその負担を軽減することができます。
今後、養育費の減額請求を検討されている場合には、一度弁護士に相談することをお勧めします。