不倫(不貞行為)が会社に発覚した場合、会社から解雇等の処分を受けるのではないかと考え、不安に感じる方もいらっしゃるでしょう。
本稿では不倫が会社にバレた場合に処分を受ける可能性のあるケースや処分の種類を解説いたします。
目次
1. 不倫のみを理由に処分をすることはできない
不倫は、会社の業務とは無関係の私生活上(プライベート)の行為ですので、原則として、不倫のみを理由に会社が社員に処分を下すことはできません。
これは社内不倫であっても同様です。
しかし、不倫により会社の秩序を乱したり、会社の名誉や信用を毀損させた場合には、会社から処分を受ける可能性があります。
2. 会社から受ける可能性のある処分の種類
①懲戒処分
懲戒処分とは、社員が就業規則に違反したり、会社の秩序に違反した場合に、会社が社員に対して制裁を課すことです。
懲戒の処分は様々ですが、一般的には、懲戒解雇、諭旨解雇(会社が退職を勧告すること。
退職に応じない場合には懲戒解雇をすることが前提とされている)、出勤停止、降格、減給、戒告・譴責(違反行為を戒めたり始末書を提出させること)が就業規則に懲戒事由として定められていることが多いです。
懲戒処分は、就業規則違反や会社の秩序違反があれば、自由にできるというものではなく、懲戒事由に該当する行為の性質、態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、懲戒権の濫用として無効となります(労働契約法第15条)。
つまり、懲戒事由に該当する行為に対する処分の内容として社会の常識からみて妥当な処分でなくてはなりません。
②配転
配転とは、会社が社員の職務内容や就業場所の変更を命じることです。
特に、同じ部署の社員同士が不倫をしてトラブルになった場合は、職場環境を整えるために配転が行われることが多いです。
会社が配転命令をするためには、労働契約上、配転命令の根拠があり、かつ、その範囲内であることが必要とされています。
上記要件を満たせば配転命令は原則有効ですが、ⅰ業務上の必要性がない場合、ⅱ配転命令が他の不当な動機・目的でなされたものである場合、又は、ⅲ労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものである場合には、権利の濫用として無効になります(最判昭和61年7月14日)。
③厳重注意
懲戒処分がされない場合でも、会社から厳重注意を受けることがあります。
厳重注意は、事実上の行為であり、法的に不利益な効果が生ずることはありませんが、人事評価に影響を及ぼしたり、再び問題を起こした場合に懲戒処分がなされる可能性が高まるなどの不利益が生じるおそれはあります。
3. 不倫により処分される可能性のあるケース
次に、不倫により会社から処分される可能性のある具体例を紹介します。
会社の秩序を乱した場合
不倫により会社の秩序を乱した場合、処分を受ける可能性があります。
例えば、同じ部署内で不倫をしていたことが他の社員に発覚し部署内の雰囲気が悪くなった、不倫相手の配偶者から慰謝料請求をされるなどして業務運営に支障を来したなどの場合は、会社の秩序を乱したと判断され、処分を受ける可能性があるでしょう。
会社の名誉や信用を毀損した場合
多くの会社では、「会社の名誉や信用を毀損した場合」を懲戒事由として定めています。
不倫が取引先や顧客に発覚し、取引を停止されてしまった場合など、会社の名誉や信用を毀損した結果、会社の業務に支障を来したような場合には、処分を受ける可能性があります。
職務専念義務違反が認められる場合
「職務専念義務」とは、就業時間中、会社の指揮命令に従いその職務に専念する義務のことをいいます。
職務専念義務に違反したことや、職務専念義務違反に類似する事由を就業規則に懲戒事由として定めている会社も多いので、職務専念義務違反が認められる場合は、懲戒処分等の処分を受ける可能性があります。
具体的には、就業時間中に性的関係を持ったり、不倫相手と私用なメールのやりとりをするなどの行為があった場合などは職務専念義務違反とされる可能性があるでしょう。
セクシュアルハラスメントに該当する場合
労働者の意に反する性的な言動により労働者が労働条件について不利益を受けたり、就業環境が害されることをセクシュアルハラスメントといいます(「セクシュアルハラスメント」該当性の詳細は厚生労働省のホームページをご参照ください)。
例えば、上司が部下に対して、「性的関係を持たないと昇進させない」などと述べて、性的関係を持った場合には、上司の言動がセクシュアルハラスメントに該当する可能性があります。
ほとんどの会社ではハラスメントを禁止することを就業規則に定めているので、不倫関係がセクシュアルハラスメントによるものである場合には、ハラスメントの加害者が処分を受ける可能性があります。
名誉毀損行為があった場合
不倫の事実を第三者に話すことは名誉毀損罪(刑法第230条)や侮辱罪(同法第231条)、民法上の不法行為(民法第709条)に該当する可能性があります。
自ら不倫の事実を会社関係者に暴露する人はいないと思われるかもしれませんが、私の経験上、社内不倫の場合、関係解消時(別れ話が出した時)には、別れを告げられた者が復讐や腹いせのために会社関係者に不倫の事実を口外するケースは少なくありません。
不倫の事実を口外することで名誉毀損や侮辱に該当すると判断されて、処分を受ける可能性があるので、安易に不倫の事実を会社関係者に口外することは絶対に止めましょう。
4. 不倫相手や配偶者から会社に報告すると言われている場合
「不倫相手に別れを告げたら、会社に報告すると言われた」、「配偶者に不倫がバレて、不倫をする社員がいるのはコンプライアンス違反だから会社に通報すると言われている」、「配偶者が明日会社に乗り込むと言っている」といった相談をよく受けます。
前述のとおり、不倫の事実を第三者に口外することは、名誉毀損罪(刑法第230条)や侮辱罪(同法第231条)に該当する可能性があります。
また、会社に押しかける行為は、名誉毀損罪や侮辱罪だけでなく、威力業務妨害罪に該当するおそれもあります(同法第233条、234条)。
さらに、上記のような発言は脅迫罪(同法第222条)に該当し得ますし、上記のような発言を用いて金銭を要求した場合には恐喝罪(同法第249条)、謝罪を要求した場合には強要罪(同法第223条)に該当する可能性があります。
会社にバラすと脅迫を受けている場合、警察に相談に行くのも1つの選択肢ですが、警察に相談に行っても事件性がないと判断されて対応してもらえなかったという方は多いです。
また、警察に相談することで刑事事件化するなどの大事になることは避けたいという方もいらっしゃると思います。
このような場合、弁護士に依頼し、弁護士から相手に警告を発してもらうことで、会社や第三者に知られることなく解決できたという方は多いです。
不倫相手や配偶者からの脅迫にお困りの方は、弁護士に相談することをお勧めします。
5. 処分を受けた場合の対処法
①処分の種類と理由を確認する
まずは、どのような処分を受けたのか、どのような理由で処分をされたのかを確認しましょう。
懲戒処分が課される場合は、会社から懲戒処分通知書を交付されることが多く、同通知書の中に懲戒の処分と理由が記載されていますが、同通知書に記載された内容が不十分であったり、口頭のみの通知で処分の種類や理由が不明な場合には、会社に確認するようにしましょう。
②処分の理由に事実と異なる点がないか
処分の理由を確認できた場合には、処分の理由に事実と異なる点がないかを確認しましょう。
事実と異なる点がある場合や反論したい内容がある場合には、内容を書面にまとめて会社に提出すると良いでしょう。
③処分に根拠があるか
判例は、会社が社員に懲戒処分を課すためには、就業規則や労働契約書に懲戒の種類と事由を定めていることが必要であると判示しています(最判平成15年10月10日)。
就業規則や労働契約書に記載のない懲戒事由や種類で懲戒処分を受けた場合には、懲戒処分が無効となる可能性があるので、きちんと懲戒処分の根拠を確認するようにしましょう。
また、前述のとおり、配転命令は、労働契約上、配転命令の根拠があり、かつ、その範囲内であることが必要とされているので、就業規則や労働契約書に記載があるか確認するようにしましょう。
④処分の内容が妥当か
前述のとおり、処分には種類があり、特に懲戒処分は様々な種類に分かれています。
処分が不当に重くないか、他の社員になされた処分と比較して自身に対する処分のみが重すぎないかなどを確認し、不当な処分である場合には、会社に不服を申し立てましょう。
⑤手続の相当性
会社が懲戒処分を行うに当たり、懲戒処分の理由と種類を明確にしなかったり、反論の機会を与えない場合(懲戒処分の内容を明示し、反論の機会を与えることを「告知・聴聞の機会」といいます)、手続の相当性を欠くとして、懲戒処分が無効になる可能性がありますので、手続に不相当な点がなかったかも確認するようにしましょう。
⑥処分無効確認請求
処分の内容が不当であるにもかかわらず、会社が処分を撤回しなかった場合、処分無効確認請求をできる場合があります。
懲戒処分の場合は懲戒処分無効確認請求、配転命令の場合は配点命令無効確認請求などが考えられます。
なお、懲戒処分でない厳重注意の場合には、厳重注意が事実上の行為に過ぎないため、原則として無効を求める法的手続はありません(不法行為に該当し慰謝料請求が認められる場合はあります)。
上記請求は、労働審判や訴訟などの裁判で行うことになりますが、裁判の見通しや裁判手続の選択には専門的な知識が必要となりますので、上記請求を検討している方は弁護士に相談するのが良いでしょう。