窃盗・万引きが発覚し、警察に通報された場合、立件されて刑事事件の手続が進んでいくことが考えられます。
本稿では、窃盗や万引きで警察に通報された場合、どのように手続が進んでいくのか、どのように対処したら良いのかを弁護士が解説いたします。
目次
1. 窃盗とは
「他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処する」とされています(刑法第235条)。
「窃取」とは、「物の占有(簡単にいうと、物を支配していることをいいます)者の意思に反し、物を自己又は第三者の占有下に置くこと」をいいます。
「財物」については、解釈が分かれていますが、有体物と考えるのが一般的です。
ただし、例外的に「電気は財物とみなす」とされています(刑法第245条)。
2. 刑事事件の流れ
窃盗・万引きが発覚し警察に通報された場合には、以下の流れで手続が進んでいく可能性があります。
①被害届の提出・刑事告訴
被害者が被害届を提出したり、刑事告訴をする可能性があります。
被害届や告訴状が受理されると、立件されて(刑事事件手続が開始して)、捜査機関(警察・検察官)による捜査が開始されることになります。
仮に被害届の提出や刑事告訴がなされなかったとしても、捜査機関が捜査の必要性があると判断した場合は、捜査が開始されます。
なお、被害届については、こちらのコラムで詳細を解説していますので、ご参照ください。
②捜査
立件されると、警察は、当事者や目撃者からの事情聴取、現場検証、実況見分、捜索差押え、防犯カメラ映像の確認などの捜査を開始します。
逮捕や勾留等の身柄拘束をされていない場合(「在宅事件」といいます)、事情聴取や現場検証のために、警察から呼出しを受けることがあります。
呼出しに応じなかったり、無視してしまうと、逃亡や罪証隠滅(証拠隠滅)のおそれがあると疑われ、逮捕されてしまう可能性が高まりますので、捜査にはできる限り協力するようにしましょう。
また、警察から証拠品の提供を求められることもあります。
正当な理由なく、提供を拒否してしまうと、捜索差押令状が発行され、強制的に物品を差し押さえられてしまうおそれがあるので、証拠品の提供にもできる限り協力した方が良いです。
③検察官送致(書類送検)
警察は、捜査の結果、犯罪事実が極めて軽微であり、かつ、検察官へ送致する必要がないと判断した場合、事件を検察官に送致することなく、刑事事件手続を終了させます。
これを「微罪処分」といいます。
微罪処分の場合、刑事事件手続が終了するので、再び警察から呼び出されたり、起訴されたり、前科が付くことはありません(ただし、捜査機関から犯罪の嫌疑をかけられ捜査の対象となった履歴(前歴)は残ります)。
実務上、窃盗の場合、被害額が少額で前科・前歴がない場合には、微罪処分となることが多いですが、過去に窃盗で微罪処分となったことがある場合(同種前歴がある場合)は、微罪処分とならないことが多いです。
一方で、警察が検察官への送致が必要であると判断した場合、事件が検察官に送致されます(「検察官送致」、いわゆる「書類送検」のこと)。
検察官送致がされると、検察官が当事者の取調べを行います。
検察官から呼出しを受けた場合も、拒否したり無視したりすることなく、できる限り協力するようにしましょう。
また、検察官が追加の捜査が必要と判断した場合は、警察に指示するなどして追加の捜査を行うこともあります。
④起訴・不起訴処分
検察官による捜査が終了すると、検察官は、起訴するか否か、すなわち、刑事裁判にかけるか否かを判断することになります(「終局処分」といいます)。
起訴されると、原則として刑事裁判が開かれることになりますが、例外として「略式起訴」という手続があります。
略式起訴とは、100万円以下の罰金又は科料に相当する事件について、被疑者に異議のない場合、正式裁判によらないで、検察官の提出した書面により審査する裁判手続を行うよう請求する起訴のことです。
略式起訴の場合、書面のみで審理がなされるので、公開の法廷で裁判所が開かれることはありません。
不起訴処分となった場合、刑事事件手続は終了するので、刑事裁判が開かれたり、前科が付くことはありません。
不起訴処分となる理由としては、嫌疑不十分(犯罪の証明が十分でない)、起訴猶予(起訴することが相当でない)などが挙げられます。
⑤公判(刑事裁判)
検察官が起訴した場合(略式起訴を除く)、刑事裁判が行われることになります。
検察官と弁護人がそれぞれ提出した証拠や刑事裁判の期日(公判期日)での当事者の供述等を考慮した上で、裁判官が、犯罪事実が認められるか(有罪にするか)、犯罪事実が認められる場合にどのような量刑とするか(懲役◯年(執行猶予を付けるか否かを含む)、罰金◯円など)を判断します。
裁判所の判決がなされると、刑が執行されます。
拘禁刑の場合は刑務所に入ることになります(執行猶予が付されている場合を除く)。
罰金刑の場合には、検察庁に罰金を支払うことになります。
なお、罰金は原則として一括で支払う必要があります。
罰金を支払わなかった場合は、労役場留置と労役(労役場という場所で強制労働することをいいます)が命じられることになります。
3. 窃盗で警察に通報されると逮捕される?
暴行罪で警察に通報されたからといって、必ず逮捕されるとは限りません。
逮捕は、犯罪があったと疑うに足りる相当な理由があること、逮捕の必要性(逃亡や罪証隠滅のおそれ等)があることなどの要件が満たす必要があるからです。
窃盗の場合(特に万引きの場合)、逮捕状に基づき逮捕される通常逮捕ではなく、現行犯逮捕されることが多いです。
逮捕・勾留等の身柄拘束をされた場合には、速やかに身柄を解放する対策を取るべきです。
なお、早期の身柄解放については、こちらのコラムで解説していますので、ご参照ください。
4. 対処法
窃盗で警察に通報された場合、これまで述べてきたような刑事事件手続が進められる可能性があります。
刑事事件化するということは、逮捕されたり、前科が付いてしまうリスクを伴うことになります。
また、窃盗は、民法上の不法行為に該当するので、民事で損害賠償請求をされる可能性もあります(民法第709条)。
刑事事件化に伴うリスクや民事上のリスクを回避するためには、被害者と早期に示談をすることが重要です。
示談が成立することで、警察が微罪処分とする可能性や検察官が不起訴処分とする可能性が大幅に上がります。
すなわち、刑事裁判にかけられることなく(刑罰が科せられたり前科が付くことなく)、刑事事件が終了する可能性が高くなります。
示談に当たっては、被害者が「刑事処罰を求めない」という「宥恕文言」を含めることが重要です。
宥恕文言が含まれていることで、被害者が刑事処罰を望んでいないことが明らかになるので、微罪処分又は不起訴処分とする大きな要素となります。
起訴されてしまった後であっても、示談の成立は、情状面で(量刑を決める際に)非常に有利な事情として、刑罰が軽くなる可能性が高まります。
また、早期に示談交渉を開始することで、逃亡や罪証隠滅のおそれがないと判断され、逮捕の可能性を下げることもできます。
さらに、示談に際して、「互いに示談金の支払以外の債権債務がないことを確認する」という「清算条項」を含めることで、民事の損害賠償請求も防ぐことができます。
ただし、窃盗の場合、特に万引きの事案において、被害者が大規模チェーン店である場合、厳しい処罰を求めたいという理由から、示談を拒否されてしまうケースが少なくありません。
そのような場合には、被害弁償だけでもさせてもらえるよう交渉すると良いでしょう。
被害弁償がなされていることは、起訴・不起訴の判断に大きな影響を与えますし、仮に刑事裁判になった場合であっても、情状において有利な事情として取り扱われます。
また、民事の損害賠償請求の可能性も軽減することができます。
したがって、窃盗で警察に通報された場合には、早期に示談交渉を開始して示談成立を目指し、示談が難しい場合であっても被害弁償は受けてもらえるよう交渉をするようにしましょう。
5. 示談交渉は弁護士に依頼すべき
窃盗の場合、加害者が直接被害者に謝罪や示談の交渉を持ちかけても、相手にしてもらえなかったり、仮に話ができたとしても感情的になってしまい交渉が難航することは多いです。
そこで、示談交渉に際しては、第三者である弁護士に間に入ってもらうことにより、示談が成立する可能性が高まります。
前述のとおり、法的リスクを回避するために示談は非常に重要になるので、示談に当たっては、弁護士に依頼することを検討すると良いでしょう。
6. まとめ
窃盗で警察に通報されてしまった場合、大きな法的リスクを負っている状況といえます。
きちんと対応しないまま放置してしまうと、リスクが顕在化し、後ほど大きな不利益を被ることになりかねません。
窃盗で警察に通報されてしまったという状況の方は、早めに弁護士に相談することをお勧めします。
当事務所は、窃盗を含む刑事事件の対応を多数経験しております。
窃盗事件でお困りの方は、問い合わせフォームよりお問い合わせください。