離婚の際に大きな争点となりうるのが、子どもの親権をどうするのか、という問題です。
近年、民法改正により共同親権が認められることとなり、制度がどう変わるのかということに関心を持っている方も多いのではないかと思います。
そこで、本記事では、共同親権の制度の概要やメリット・デメリットについて解説します。
目次
1. 共同親権とは
そもそも親権とは、子どもの監護・養育を行ったり、子の財産を管理したりする権利・義務のことをいいます。
親権は、子どもの身体的・精神的な成長を図るために、しつけを行ったり、子の住む場所を決めたりする「身上監護権」と、子の財産を管理するための「財産管理権」に分けられます。
共同親権とは、父母の双方がこれらの親権を持つことをいいます。
日本ではこれまで、婚姻中は共同親権制度が採用されていましたが、離婚後は単独親権制度が採用されていたため、離婚の際には夫婦のどちらが親権を持つのかを定めなければならないとされていました。
これまでの制度では、離婚後も父母が共同で親権を持つことはできなかったのですが、法律(民法)が改正され、離婚後も共同で親権を持つことが可能になったのです。
2. 離婚後の親権の決め方は?
改正された民法では、離婚時に夫婦の話し合いによって共同親権にするか、単独親権にするかを定めなければならないとされています。
つまり、必ず共同親権にしなければならないというものではなく、夫婦の選択により今までどおりの単独親権も選ぶことができるのです。
夫婦の協議がまとまらない場合には、裁判所がいずれにするかを判断することとなりますが、子どもへの虐待のおそれがある場合や、夫婦間でのDVがあり共同で親権を行使するのが難しい場合には、裁判所は、単独親権にするとの判断をしなければならないとされています。
なお、既に離婚している夫婦で、夫婦のいずれかが親権者となっているケースでも、改正民法施行後は、申立てにより共同親権に変更することができるとされています。
3. 共同親権の内容とは?
では、離婚の際に共同親権を選択した場合、具体的にどのような権利が認められるのでしょうか。
既に述べたとおり、共同親権となる場合、子どもの身上監護権や財産管理権を双方の親が持つことになるため、子どもの生活に関する重要な事項については、両親の同意が必要となります。
ただし、「監護及び教育に関する日常の行為」については、単独で親権を行使できるとされているため(改正民法第824条の2第2項)、日常生活に関する事項(食事や習い事)などは、一方の親のみで決定します。
これは、日常の行為についても都度離れて暮らす親の同意を得なければならないとなると、子どもの生活に支障が出てしまうためです。
また、子どもの手術が必要な場合など、緊急な場合にも、一方の親のみで決定できるとされています(改正民法第824条1項3号)。
重要な事項(受験・転校・パスポートの取得など) | 両親の合意が必要 |
日常生活に関する事項(食事、買い物、習い事) | 単独で決定できる |
緊急の必要があるとき(手術など) | 単独で決定できる |
なお、子どもと一緒に暮らしている親(監護親といいます)は、子の監護及び教育、居所の指定を単独でできるとされているため(改正民法第824条の3第1項)、子どもの住む場所は監護親が単独で決定できます。
4. 共同親権のメリットとは?
共同親権のメリットとして考えられているのが、以下の内容です。
- 離婚時の親権争いを回避できる
- 離婚後も夫婦が共同して子どもの養育をすることができる
- 養育費の不払いが起こりづらくなる
- 面会交流が実施されやすくなる
離婚時の親権争いを回避できる
現在の単独親権制度では、離婚時に必ず父母のどちらかを親権者と定めなくてはなりません。
そのため、双方とも親権が得たいと言って譲らないと、親権についての争いが激化してしまい、離婚自体には同意しているのにもかかわらず、離婚が成立しないという事態になりかねないといった問題がありました。
共同親権の制度により、親権を決めるために調停や審判が必要となり争いが長期化したり、審判において子どもへの調査等が行われて子どもに精神的負担をかけるといったことが起こりづらくなることが期待できます。
離婚後も夫婦が共同して子どもの養育をすることができる
共同親権により、子どもと離れて暮らす親であっても、親権という権利と責任を持つことが明確化されるため、双方の親が子どもの養育に関わりやすくなることが考えられます。
また、離婚をしたとしても子どもにとっては双方が親であることに変わりなく、双方の親の関りを得ながら生活することによって、子どもの福祉に資することも期待できます。
養育費の不払いが起こりづらくなる
上で述べたとおり、離婚後も子どもに関わる機会が多くなることで、離れて暮らす親が自発的に養育費を支払いやすくなるというメリットが期待できます。
養育費の支払いは、法で認められた義務であるものの、日本では、離婚後離れて暮らす子どもと長年会っていないことなどを理由に、養育費の支払がされていない、途中で途絶えてしまったというケースが散見されています。
共同親権制度により、離婚後も親として責任を負うことがより明確となり、養育費の不払いがされづらくなることが期待されています。
なお、改正民法では、離婚時に養育費の額等について取り決めがされていなくても、一定額の養育費を請求できる「法定養育費制度」が創設されています。
この制度により、より養育費の支払いが促進されることが期待できます。
面会交流が実施されやすくなる
単独親権の場合には、調停や審判で面会交流について定められていたとしても、監護親が面会交流を拒否すると、事実上子どもに会うのが難しいといった問題点がありました。
共同親権の場合には、非監護親にも子どもを監護養育する権利があるため、監護親が面会交流を拒否することは基本的にはできず、面会交流をスムーズに実施しやすくなるといったメリットが期待できます。
面会交流は子どもの健全な成長のために非常に重要であると考えられていますので、子どもにとっても良い環境で生活できるといった効果が期待されています。
5. 共同親権のデメリットとは?
上で述べたようなメリットが期待できる共同親権の制度ですが、反対に以下のようなデメリットや懸念も指摘されています。
- 虐待やDV・モラハラが継続してしまう可能性がある
- 子どもの生活に影響を及ぼす可能性がある
- 遠方への引っ越しが制限される可能性がある
虐待やDV・モラハラが継続してしまう可能性がある
共同親権を選択した場合、離婚後、離れて暮らす親も子どもの養育に関することについて、定期的に両親や子どもと関わる必要性が出てきます。
上で述べたとおり、虐待やDV、モラハラがある場合には、裁判所は単独親権としなければならないとされてはいるものの、証拠上虐待やDV、モラハラが認定できなかった場合に、共同親権となってしまう可能性は残されています。
それにより、離婚後も子どもに対する虐待が続いてしまう、一方の親がDVを受け続けてしまうという懸念が指摘されています。
子どもの生活に影響を及ぼす可能性がある
共同親権の場合、子どもの進学に関する事項などについては両親で決める必要があります。
しかし、両親の意思が必ずしも一致するとは限らず、両親の意思が対立することにより、意思決定が迅速にできないなど、子どもの生活に悪影響を及ぼしてしまうことが懸念されています。
遠方への引っ越しが制限される可能性がある
共同親権導入後は、面会交流が促進されるというメリットが期待できるのは上で述べたとおりですが、円滑な面会交流のため、子どもが遠くに引っ越すことを望まない親も多いといえるでしょう。
そのため、離婚を機に実家の近くで子どもを育てたいなどの希望が叶いづらくなってしまう可能性があります。
6. なぜ共同親権が導入されたのか?
これまで述べてきたようなメリットと共に、デメリットも指摘されている共同親権ですが、導入される背景の一つに諸外国の状況があります。
法務省の調査(父母の離婚後の子の養育に関する海外法制調査結果の公表について)によれば、以下の表のとおり、諸外国の多くでは共同親権が認められており、共同親権が認められていない国はわずかです。
共同親権が認められている国 | 共同親権が認められていない国 |
---|---|
アメリカ(ニューヨーク州・ワシントンDC)、カナダ(ケベック州・ブリティッシュコロンビア州)、アルゼンチン、ブラジル、メキシコ、インドネシア、韓国、タイ、中国、フィリピン、イタリア、イギリス(イングランドおよびウェールズ)、オランダ、スイス、スウェーデン、スペイン、ドイツ、フランス、ロシア、オーストラリア、サウジアラビア、南アフリカ | インド、トルコ |
このような制度の違いにより、国際離婚をする際には更なる争いを招いてしまうなどの理由から、日本においても共同親権を導入することに踏み切ったと考えられます。
また、国際離婚をする場合に、日本人の親が親権を獲得したいという理由から、子どもを日本に連れて帰ってしまう、いわゆる連れ去りが問題視されていました。
日本では子どもを返還させるための法整備が整っていなかったため、2014年にハーグ条約を締結し、子ども無断で国外に連れ去った場合には、元の居住地へ返還することが義務付けられました。
ただし、依然として子どもの返還率が低いことが欧州委員会などにより指摘されていました。
その理由の一つとして、法制度の違い(単独親権であること)も挙げられていたことから、このような課題に対応すべく、共同親権の導入が検討されたという背景があります。
7. 共同親権はいつから導入される?
2024年4月16日に衆議院で、2024年5月17日に参議院で、共同親権を認める旨の改正民法案が賛成多数で可決されました。
公布(2024年5月24日)から2年以内に施行がされると決められていますので、2026年5月24日までには、共同親権の制度が開始されます。
8. まとめ
離婚の際の親権をどうするかは、子どもにとっても、親にとっても大きな問題です。
今後離婚を検討されている方には、共同親権制度が近々開始することを踏まえた考慮が必要になる場合もあるでしょう。
当事務所では、親権に関する問題を数多く取り扱っていますので、親権についてお悩みがある方は、問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。