SNSや掲示板で誹謗中傷などの書き込みをされている場合、一刻も早くその書き込みを削除したいと考えるのではないでしょうか。
そのような場合には、裁判所を通じて削除命令を出してもらうことを検討するとよいでしょう。
そこで、本記事では、削除請求の方法や必要書類について解説します。
目次
1. インターネットの書き込みを削除してもらうには?
SNSや掲示板に悪口や誹謗中傷を書き込まれている場合に書き込みを削除してもらう方法としてまず考えられるのが、サイトの管理者に対して削除を依頼するという方法です。
多くの掲示板やSNSでは、削除請求用のフォームが用意されているので、そちらから削除を依頼することになります。
しかし、この場合、削除をするかどうかはサイト運営者の判断に委ねられるため、削除に応じてもらえない場合も多々あります。
このような場合には、裁判所を通じた手続きである仮処分の申立てをすることにより、裁判所から投稿を削除するよう命令を出してもらえることがあります。
2. 仮処分とは
仮処分とは、民事保全法という法律で定められた手続きで、争いのある権利関係について、暫定的な措置をすることを認めるものをいいます。
インターネットの書き込みを削除してもらう場合、通常の民事訴訟(裁判)で削除を請求することが可能ですが、インターネット上の情報は、流通が容易であることから、民事訴訟で削除請求が認められるまで待っている間にどんどん投稿が拡散され、被害者の権利の侵害の度合いが大きくなってしまいます。
そこで、インターネット上の投稿を削除して欲しい場合には、通常の民事訴訟より迅速な手続きで削除を認めてもらうことのできる仮処分という手続を選択する方が適しています。
削除の仮処分が認められれば、通常の民事訴訟で認められる「投稿が削除された状態」と同様の状態を確保することができます。
3. 仮処分が認められるための要件とは?
仮処分が認められるためには、以下の要件を満たすことが必要です。
- 被保全権利があること
- 保全の必要性があること
①被保全権利
被保全権利とは、仮処分の手続きにより保全される(=守られる)権利のことをいいます。
どのような権利も侵害されていない投稿にまで削除がされてしまうと、投稿者の表現の自由を侵害してしまうことになるので、削除により守られる権利があることがまず必要となります。
この守られるべき権利があることを、仮処分を申し立てる人が主張する必要があります。
削除請求の場面では、主に投稿により名誉権やプライバシー権が侵害されているといったことを疎明していくこととなるでしょう。
なお、疎明とは、裁判官に、一応確からしいという心証を抱かせることをいいます。
通常の民事訴訟では、これより裁判官の確信の程度が強い「証明」まで必要ですが、迅速な手続きである仮処分では、疎明で足りるとされているのです。
具体的には、投稿に書かれている内容がある人の社会的評価を低下させるもので、名誉権を侵害するであるとか、個人の職場や住所、氏名などが投稿されていて、プライバシー権を侵害するであるといったことを主張していきます。
なお、インターネット上の誹謗中傷がどのような権利を侵害するかについては、こちらの記事で詳しく解説していますので、併せてご確認ください。
②保全の必要性
保全の必要性とは、簡単にいえば、仮処分命令が必要であるということです。
仮処分により権利を保全しなければ、被害者が重大で回復困難な損害を被るおそれがあることを疎明する必要があります。
このようなおそれがないのであれば、仮処分命令ではなく通常の民事訴訟で手続きすればよいことになるので、権利が侵害された状態を仮処分命令により迅速に解消する必要性があることも、仮処分が認められるための要件となるのです。
インターネット上の投稿は、すぐに削除されなければ投稿が拡散されてしまったり、閲覧者が増えて行ってしまうといった特徴があることから、一般的には保全の必要性は認められやすいといえます。
4. 仮処分を申し立てる方法
仮処分の申立ては、裁判所に仮処分命令申立書を提出して行います。
申立ての際に必要な資料は、以下のとおりです
- 仮処分命令申立書
- 証拠
- 資格証明書
- 印紙
- 郵券
仮処分命令申立書には、上で述べた被保全権利や保全の必要性があることを記載します。
また、申立書には証拠を添付する必要があります。
投稿の削除を求める場合には、投稿の日時や内容、投稿のURLなどが分かる資料を証拠として提出します。
資格証明書とは、投稿の削除を求める相手(通常はサイトの運営者であり、仮処分の手続きにおいては「債務者」といいます)が法人である場合に必要となります。
法人の現在事項証明書を提出することが多いですが、管轄の裁判所に事前に確認するとよいでしょう。
また、申立手数料は印紙にて納付します。
申立て1件で2000円の手数料が必要となります。
更に、裁判所が書類を債務者などに送るために、郵券(切手)も事前に裁判所に提出する必要があります。
必要な切手の種類や数を事前に裁判所に確認するようにしましょう。
5. 仮処分手続きの流れ
仮処分の申立てから、実際に投稿が削除されるまでの流れは、以下のとおりです。
- 申立て
- 審尋
- 立担保
- 仮処分命令の発令
- 執行
①仮処分命令の申立て
まずは、上で述べたような書類と共に、管轄の裁判所に仮処分命令の申立書を提出します。
管轄の裁判所は、原則としてはサイト運営者(債務者)の住所地を管轄している裁判所となりますが、インターネットの削除請求の場合、被害者の住所地での管轄も認められています。
②審尋
審尋とは、裁判所が当事者双方の言い分や主張を聞くための手続きです。
債権者(投稿の削除を求める人)と債務者(サイト運営者など)の双方が立ち合いできる期日を定めることが一般的ですが、サイト運営者が海外の場合には、申立人のみが立ち会うこともあります。
また、審尋は1回のみ行われることもあれば、複数回行われることもあります。
③立担保
裁判所が、申立書や証拠の内容、審尋の結果を踏まえて、申立てに理由がある(=投稿の削除がされるべきである)と認めた場合には、裁判所から、担保金を納付するよう命令が出されます。
担保金は、削除の仮処分が違法であったり、不当であったりした場合に、債務者が受けるであろう損害を補償するために納付を求められる金銭のことです。
削除請求の場合、30万円~50万円程度の担保金の納付を求められることが一般的です。
また、サイト運営者が投稿を削除した場合には、担保の取り消しの申立てという手続を行うことにより、還付を受けることができるのが通常です。
担保金の納付は、裁判所が定めた額を供託所に供託することにより行います。
④仮処分命令の発令
担保金の納付がされると、裁判所は、サイト運営者に対して投稿の削除をする命令を発令します。
この命令が発令された場合、ほとんどのサイト運営者は命令に従って該当の投稿を削除します。
⑤執行
ほとんどの場合ではサイト運営者は命令に従い投稿を削除しますが、命令が発令されても投稿が削除されない場合には、強制執行の手続きを取ることができます。
強制執行とは、債務者が負う債務の内容を強制的に履行させるための手続きですが、投稿の削除については、裁判所が代わりに削除をすることはできないため、間接強制といって、義務の履行をするまで一定額の金銭(間接強制金といいます)を納付させるという方法を取るのが一般的です。
6. まとめ
インターネット上の書き込みについては、迅速に削除がされなければ被害がどんどん拡大していってしまうことが通常であるため、対処も早めに行う必要があります。
また、サイト運営者が裁判上の手続きを得ずに任意に投稿を削除してくれることは稀です。
削除請求の仮処分の申し立てを短時間で、かつ確実に行うためにも、インターネットの書き込みを削除したいとお考えの場合には、弁護士に相談することをお勧めします。