「配偶者が不倫をしていたので、不倫相手から慰謝料を受け取ることになった」「不倫がばれてしまって、慰謝料を支払うことになった」不倫による慰謝料を支払ったり、受け取る場合には、示談書を作成するとよいでしょう。
そこで、本記事では、示談書を作成する場合の注意点や記載例を紹介します。
目次
1. 示談書は必ず作成すべき?
そもそも「示談」とは、トラブルの当事者同士が、裁判によらずにトラブルを解決するためにする合意のことをいいます。
そして、その合意の内容を書面にしたものが「示談書」です。
この書面があることにより、相手との間でどのように合意をしたかを客観的に示すことができます。
例えば、慰謝料をもらう側の立場であれば、後から「慰謝料を払う約束なんてしていない」とか、慰謝料を200万支払う約束だったのに「慰謝料は100万でよいという約束だった」などと言われてしまうことを防ぐことができます。
また、慰謝料を支払う側からすれば、約束どおりに慰謝料を支払ったのに「受け取った金額は慰謝料の一部で、本当は500万円という約束をしていた」とか、「受け取った額は探偵費用分の損害で、慰謝料はまだ受け取っていない」などと言われてしまうことを防ぐことができます。
このように、示談書があることで、後々の更なるトラブルを防ぐことにつながりますので、慰謝料を受け取る場合でも、支払う場合でも、示談書は必ず作成するようにしましょう。
2. 示談書の書き方
では、実際に示談書を作成する場合、示談書にはどのようなことを記載すればよいのでしょうか。
以下では、例文とともに、示談書に記載すべき項目を解説します。
①何の件に関する示談書であるかを記載する
まずは、冒頭に、誰と誰が不倫をしたことによる件に関する示談書であるかを記載します。
例えば、次のように記載することが考えられます。
●の部分には、示談書に署名する当事者の名前を記載しますが、例文では、甲が不倫をされた側、乙が不倫をした側としています。
●●●●(以下「甲」という)と●●●●(以下「乙」という)とは、乙が甲の配偶者と不貞行為を行った件(以下「本件」という)について、以下のとおり合意する。
この記載があることで、示談書が何に対する合意であるかや、何に対して慰謝料を支払うのかということを明確にすることができるので、必ず記載するようにしましょう。
②慰謝料の金額を明記する
慰謝料の金額は、示談書の中でも最も主要な事項といえます。
後々の争いを防ぐためにも、必ず正確に記載しましょう。
乙は甲に対し、本件の慰謝料として金200万円の支払義務があることを認める。
③慰謝料の支払方法を明記する
また、支払時期や支払方法も具体的に記載する必要があります。
慰謝料を受け取る側からすれば、約束どおりに慰謝料が支払われなかったときに、「支払時期はまだ先なので」といった言い訳を防ぐことができます。
逆に、慰謝料を支払う側は、分割のはずなのに一括で今すぐ支払うように請求されるなどのトラブルを防ぐことができます。
一括の場合の記載方法は、次のとおりです。
乙は、甲に対し、前項の金員を、令和●年●月●日限り、甲の指定する口座(●●銀行●●支店普通口座番号●●●●口座名義●●●●)に振り込む方法により支払う。
なお、振込手数料は乙の負担とする。
振込手数料をどちらが負担するかで揉めることがないよう、振込手数料についても記載すると良いでしょう。
なお、振込手数料は、一般的には慰謝料を支払う側が負担します。
分割の場合は、例えば以下のような記載方法が考えられます。
乙は、甲に対し、前項の金員について、令和●年●月より令和●年●月までの間、毎月末日限り、月額金●円を、甲の指定する口座(●●銀行●●支店普通口座番号●●●●口座名義●●●●)に振り込む方法により支払う。
なお、振込手数料は乙の負担とする。
④清算条項
示談書の最後に通常記載されるのが、清算条項です。
清算条項とは、示談したことにより、当事者のトラブルはすべて解決し、他に当事者同士で支払うべき金銭や、受け取るべき金銭がないことを示す文言をいい、以下のような形で記載します。
甲と乙は、甲と乙の間には、本示談書に定めるもののほか何ら債権債務がないことを相互に確認する。
この文言がないと、後から慰謝料を追加で請求されたり、名目を変えて金銭の支払の請求を受けたりしてしまうことがあるため、慰謝料を支払う場合は、必ず清算条項があることを確認してから示談書を締結しましょう。
なお、慰謝料を請求する側からすれば、清算条項を入れない形で示談書を締結する方が有利なのでは、と考える方がいらっしゃるかもしれませんが、相手が清算条項のない示談書に合意してくれることは非常に稀ですし、清算条項の有無にこだわって紛争が無用に長引いてしまうことになりかねませんので、清算条項をなくすという交渉はお勧めしません。
3. 示談書に記載することが考えられる他の条項
①口外禁止条項
口外禁止条項とは、不倫があった事実や、示談をしたこと、どのような示談をしたか(示談書の内容)を第三者に口外しない(=話さない)ことを約束するための条項です。
甲と乙は、本件、本示談書の有無及びその内容について、その理由を問わず第三者に対して口外しないことを互いに誓約する。
慰謝料を支払う側からすれば、事件が解決したのであれば、それ以上第三者に不倫の事実を話してほしくないと考えるでしょうから、可能であれば示談書の内容に含むと良いでしょう。
また、慰謝料を受け取る側からすれば、あまりメリットがないと考えられるかもしれませんが、そもそも不必要に第三者に対して不倫の事実を話すことは、名誉棄損になりかねないことからすれば、デメリットが大きい条項ではないといえます。
ただし、例えば家族や両親は不倫の事実は知っていて、示談が成立したことを報告したいというような場合には、この条項のままで合意してしまうと、示談書の内容に違反することになってしまいます。
そこで、そのような場合には、「第三者(ただし、甲の親族を除く)」など、例外的に話してよい相手を除外する文言を加えるとよいでしょう。
②期限の利益の喪失に関する条項
慰謝料の支払を分割で行う合意をしている場合には、慰謝料の支払が遅れた場合の定めを入れておくことを検討しましょう。
このような定めがないと、支払う側は、「多少遅れても問題ない」と考えてしまい、慰謝料の支払がなかなかされないことが考えられるためです。
一般的によく用いられるのが「期限の利益の喪失」をすることを定める方法です。
期限の利益とは、慰謝料を分割で支払うことができることをいいます。
支払期日までは慰謝料の支払をしなくていいので、支払う側には期限が先になるというメリットがあり、これを「期限の利益」といいます。
そして、慰謝料の支払が遅れた場合には、この期限の利益を失い、その先は一括で支払わなくてはならないように約束するのが「期限の利益の喪失」条項です。
乙が前項の金員の支払を1回でも怠った場合には、乙は、当然に期限の利益を喪失し、乙は甲に対し、第●条に定める慰謝料より既払の金額を控除した残額を直ちに支払わなければならない。
③接触禁止条項
特に配偶者と離婚をせずにやり直すことを選択した場合には、不倫相手と二度と会うことがないように、今後接触を禁止することを約束してもらうことがあります。
乙は、甲に対し、正当な理由なく、今後電話、メール、面会その他の方法により接触しないことを誓約する。
なお、慰謝料を支払う側であり、今後不倫相手が離婚をするなどの理由により関係を継続する場合には、このような条項を入れることはできないので、接触禁止条項は示談書に入れないように交渉する必要があります。
この場合、慰謝料の額が相対的に高くなってしまうことが考えられるため、関係の継続をするかどうかは慎重に検討しましょう。
④示談書の内容に違反した場合のペナルティに関する条項
①や③のとおり、示談書で禁止した内容に相手が違反した場合には、一定のペナルティを課す条項を入れることがあります(「違約金条項」と呼ばれることもあります)。
この条項があることにより、相手に対し、禁止行為をしてはならないというプレッシャーを感じさせることができます。
甲又は乙が第●条(口外禁止)又は第●条(接触禁止)の規定に違反したときは、当該違反をした者は、相手方に対し金●円を支払う。
このようにペナルティが定められている場合には、せっかく示談によりトラブルを解決しても、違反行為により再度金銭を支払う必要がでてきてしまうので、示談書の内容を守ることができるかをよく考えたうえで、ペナルティ条項の必要性を検討しましょう。
⑤求償権の放棄に関する条項
そのほかに示談書に入れることが考えられる条項として、求償権の放棄に関する条項があります。
不倫をした場合には、その当事者である二人ともが慰謝料を支払う義務を負います。
不倫をされた側はどちらに慰謝料を請求してもよいので、特に離婚をしない場合には、記載例で見てきたように、自分の配偶者には慰謝料を請求せず、不倫相手にのみ慰謝料を請求することがよくあります。
このように不倫の当事者のうち片方のみに慰謝料請求がされていて、請求された不倫相手のみが慰謝料を全額払った場合には、その不倫相手は、本来二人で慰謝料を負担すべきだったのに自分のみが慰謝料を支払ったとして、半額を支払うよう請求することができます。
これを求償権の行使といいます。
しかし、不倫をされた側から見れば、せっかく200万円を受け取っても、不倫相手から自分の配偶者に半額を請求されてしまうので、最終的に残る金額は100万円となってしまいます。
このようなことを防ぐために、求償権を行使しないように約束してもらうことを求償権の放棄といいます。
乙は、本件に関し、甲の配偶者に対して求償権を行使しないことを約する。
慰謝料を支払う側からすれば、このような条項に同意するメリットがないようにも思えますが、求償権を行使しない代わりに慰謝料の額を減額してもらうといった交渉ができる場合がありますので、求償権の放棄を求められた場合、そのような交渉をしてみるとよいでしょう。
4. 示談書を作成するときに注意すること
示談書は、必ず当事者の数分だけ作成し(記載例の場合は、2人なので2通)、署名・押印しましょう。
署名や押印がないと、示談書に合意していたことを示すことが難しくなってしまいます。
また、必要に応じて公正証書にすることを検討しましょう。
公正証書とは、公証役場にて公証人が作成する文書をいいます。
公証人が作成する文書なので、偽造などではなく当事者の合意に基づき正しく作成されたことを確実に示すことができるだけでなく、慰謝料の支払がされない場合に、別途裁判で慰謝料の支払義務があることを認めてもらう必要なく強制執行(差押えなど)の手続に移ることのできるというメリットがあります。
5. まとめ
示談書の内容については、示談の内容によって、上で述べた以外の条項を入れる必要がある場合もあります。
せっかく示談書を作ったのに内容が不明確であったりすると、示談書を作成した意味がなくなってしまうことになりかねません。
示談書の内容について不明点があったり、相手から提示された示談書の内容のまま合意してよいか不明な場合には、弁護士に相談してみると良いでしょう。