相続人でない者が相続人として遺産を相続している場合、本当の相続人が相続権を回復できることがあります。
本稿では、相続回復請求権を行使することができる条件や行使方法を解説いたします。
目次
1. 相続回復請求権とは
「相続回復請求権」とは、相続権を有する者(「真正相続人」といいます)が、本来は相続人でないにもかかわらず相続人として真正相続人の権利を侵害している者(「表見相続人」といいます)に対し、相続財産の侵害を排除し、返還等を求めることができる権利です(民法第884条)。
相続権の回復の具体的な内容としては、例えば、表見相続人が不動産を占有している場合は不動産を明け渡すよう求めたり、金銭を占有している場合は金銭の返還を求めるというものになります。
2. 請求者
相続回復請求権を行使できるのは真正相続人及びこれに準ずる者のみです。
具体的には、以下の者が真正相続人に該当します。
3. 相手方
相続回復請求権の相手方は表見相続人です。
表見相続人の具体例は以下のとおりです。
- 相続欠格者(民法第891条、相続欠格事由の詳細はこちらのコラムで解説しています)
- 相続廃除により相続権を失った者(民法第892条、同第893条、相続廃除の詳細はこちらのコラムで解説しています)
- 相続放棄をしたにもかかわらず、相続権を主張する者(相続放棄の詳細はこちらのコラムで解説しています)
- 被相続人(亡くなった方)の実子でないにもかかわらず、虚偽の出生届や認知届が提出され、実子として相続している者
- 婚姻が無効であるにもかかわらず、虚偽の婚姻届を提出し、配偶者として相続している者
- 養子縁組が無効であるにもかかわらず、虚偽の養子縁組の届出をし、養子として相続している者
- 自己の相続分を超えて相続権利を主張する共同相続人(最判昭和53年12月20日)
※表見相続人に該当するのは、自己に相続権があるものと信じるべき合理的な事由がある場合(相続権がないと知らず、かつ、相続権がないと知らなかったことにつき過失がない場合)に限られます(最判昭和53年12月20日)。
相続権がないことを知っていた、又は、知らなかったことに過失のある者は、単なる不法占有者ですので、相続回復請求権の対象になりません。
※また、表見相続人から相続財産を譲り受けた者は、相続回復請求権の相手方にはなりません。
4. 相続回復請求権の行使方法
①協議
表見相続人がいる場合、まずは表見相続人に対し、裁判外で相続財産の返還等を求めると良いでしょう。
後述するとおり、相続回復請求権には時効がありますので、請求する際は、内容証明郵便等の記録に残る形で請求を行うのがベストです。
協議がまとまった場合は、表見代理人との間で合意書を作成し、後の紛争が生じないようにしましょう。
②訴訟
協議において、表見相続人が任意の返還等に応じない場合、訴訟提起を検討しましょう。
訴訟の種類は民事訴訟であり、家庭裁判所では審理できないことに注意が必要です(遺産分割調停・審判では相続回復請求権を行使することができません)。
訴訟を提起する裁判所は、相手方の住所地を管轄する地方裁判所になります。
なお、自己に相続権があるものと信じるべき合理的な事由がない者、すなわち、不法占有者に対する請求は、相続回復請求権に基づく請求ではなく、所有権や不法行為を根拠に返還請求や損害賠償請求等を行うことになります。
これらの請求も民事訴訟により行います。
③強制執行
訴訟提起の結果、裁判所が相手方に相続財産の返還等を命ずる判決がなされたにもかかわらず、相手方が任意で返還に応じない場合には、強制執行手続の申立てを検討しましょう。
強制執行とは、差押え等により判決で認められた権利を強制的に実現する方法です。
なお、相手方と裁判上の和解が成立している場合や裁判外で強制執行認諾文言付公正証書を締結している場合で、相手方が和解や公正証書で定められた内容を履行しない場合も、強制執行を行うことができます。
5. 時効
相続回復請求権は、①相続人又はその法定代理人が相続権を侵害された事実を知った時から5年を経過したとき、②相続開始の時(被相続人が亡くなった時)から20年を経過したときに、時効により消滅します(民法第884条)。
時効の完成を止めるためには、前述した内容証明郵便等の記録を残す方法で相手方に相続回復請求権を行使するか、訴訟を提起することが必要です。
なお、前述のとおり、相続権がないことを知っていた、又は、知らなかったことに過失のある者は、表見相続人ではなく、単なる不法占有者のため、相続回復請求権の時効を援用することはできません(ただし、取得時効が成立する可能性はあります(民法第162条))。
また、表見相続人から相続財産を譲り受けた者も、相続回復請求権の時効を援用することはできないと考えられています。
6. 遺留分侵害額請求権との違い
法定相続人に最低限保障されている相続財産の取得分を「遺留分」といい(民法第1042条1項)、遺留分を侵害されている法定相続人は、遺留分侵害額請求を行うことができます(民法第1046条1項、遺留分侵害額請求権の詳細はこちらのコラムで解説しています)。
相続回復請求権と遺留分額侵害請求の違いは、相続権の有無です。
すなわち、相続回復請求権は、相続権のない者に対して、相続財産の返還を請求する権利であるのに対し、遺留分侵害額請求は、相続権を有する他の相続人に対して、侵害された遺留分の請求を行う権利であるという点で異なります。
7. まとめ
前述のとおり、相続回復請求権が問題となるのは、相続権を有しない者が、自己に相続権があるものと信じるべき合理的な事由があり、相続財産を侵害しているというケースであるため、実務上、相続回復請求権が争点となることは極めて稀です。
しかし、実際に相続財産を侵害されている場合、相続回復請求権の適用場面でなかったとしても、相手方に対する返還請求が認められたり、遺留分侵害額請求権が認められるというケースは多いです。
どのような法的根拠に基づき、侵害された相続財産を請求するかという判断は、法的な知識や経験を必要としますので、相続財産を侵害されているという方は、弁護士に相談してみると良いでしょう。
当事務所は、相続問題に注力しており、これまで多くの相続案件に対応してきましたので、相続問題でお困りの方は、問い合わせフォームよりご連絡ください。