「酔った勢いでキスをしたら、慰謝料を請求されてしまった」
「職場の飲み会で女性に抱きついたら、不同意わいせつで被害届を出すと言われている」
男女トラブルの中では、このように不同意わいせつを理由にトラブルになってしまうことがあります。
このような場合には、なるべく早く示談をするなどして、トラブルを解決する必要があります。
本記事では、不同意わいせつの示談金の相場や示談の方法について解説します。
なお、以前は「強制わいせつ罪」という罪でしたが、2023年に「不同意わいせつ罪」に改正されています。
目次
1. 不同意わいせつ罪とは
不同意わいせつ罪とは、相手が「同意しない意思を形成、表明、全う」することが難しい状態でわいせつな行為を行った場合に成立します。
つまり、相手が同意していないのに、拒否することが困難な状況にさせてわいせつな行為をした場合に成立します。
拒否することが困難な状況を作りだすとは、典型的には暴行や脅迫をした場合がこれに該当しますが、それだけではなく、アルコールにより酩酊状態にさせた場合なども該当します。
わいせつ行為とは、キスをする、抱きつく、陰部を触るなどの行為が該当します。
不同意わいせつ罪が成立する場合について、詳しくは「不同意わいせつ罪で被害届を出すと言われた時の対処法」で解説していますので、ご参照ください。
2. 不同意わいせつで被害届を出す(出した)といわれた場合には示談すべき?
相手が不同意わいせつをされたとして被害届を出すと言われている場合や、既に被害届を出した場合には、示談をすることが非常に重要です。
刑事事件の被害者と示談をする際には、被害届を取り下げてもらうことや、加害者に対して刑事処分を求めない旨の文言(「宥恕文言」といいます)を約束してもらいます。
被害届の取り下げや宥恕事項のある示談書を提出することにより、不起訴処分(不起訴処分の場合前科はつきません)となる可能性が非常に高まりますし、被害届の提出前であれば、刑事事件化する前にトラブルを解決することができる場合もあります。
よく、「証拠がないのであれば示談をする必要はありませんか?」というご質問をいただくことがありますが、ご自身で証拠がないと思っていても、実は目撃者がいたり、防犯カメラの映像があったりなど、証拠が出てくる可能性はあります。
不起訴処分の確率を上げるためには、検察官が起訴・不起訴の判断をする前に示談をしなければなりません。
もちろん、実際にそういった行為がない場合に無理に示談をすべきということではありませんが、証拠がないと思って示談に向けて交渉をしていなかった場合、後から証拠が出てきてしまって手遅れになってしまったということがないように、示談の必要性の有無は慎重に検討する必要があるでしょう。
3. 不同意わいせつの示談金の相場
不同意わいせつで示談をする場合には、概ね数十万~100万円程度の示談金を支払うことが多いです。
もちろん、示談金の額については当事者(被害者と加害者)の合意で決めるものですから、一概に相場が決まっているわけではありませんし、行為の悪質性が高い場合には100万円以上の示談金が必要となる場合もあるでしょう。
また、不同意わいせつの被害者と示談をする場合には、被害者の方の感情に配慮した示談交渉をすることが非常に重要となります。
不同意わいせつの被害者は、当初は特に「相手を絶対に許せない」などと強い感情を持っている場合も多く、「示談金の相場はこれくらいなので、示談してほしい」といった交渉では、納得して示談をしてもらう可能性が低くなってしまいます。
4. 不同意わいせつにおいて示談金が高額になる場合とは
上で述べたとおり、不同意わいせつの示談金の相場は一概には言えません。
わいせつな行為といっても、その行為の態様は様々であり、事件ごとに示談金の額は異なります。
示談金の額に影響する事情としては、以下のものが挙げられます。
- 暴行や脅迫の程度
- わいせつ行為の態様
- 被害者の受けた精神的苦痛の大きさ
- 被害者の年齢や被害者の処罰感情
- 加害者の社会的地位
- 前科の有無
例えば、力づくで無理やり抱きついたのみの場合に比べて、被害者を殴って無理やりキスをした場合の方が、暴行の程度が大きいといえます。
わいせつ行為の内容については、キスをしたのみの場合より、被害者の胸を触った場合の方がより悪質であり、示談金が高くなる傾向にあるでしょう。
また、被害者の方が、加害者と二度と会いたくないなどの事情から引っ越しをせざるを得なくなったなど、大きな精神的苦痛を受けた場合には、高額な示談金を支払わなければ示談が難しい可能性もあります。
さらに、被害者の年齢が若い場合、特に未成年の場合などには、行為が被害者に与える影響は大きく、家族も含めた処罰感情が一般的に高い場合が多いでしょう。
加害者側の事情としては、加害者の社会的地位や前科の有無が示談金の額に関係します。
加害者が社会的地位の高い人の場合、その地位を守るために早期に解決する必要があるなどの理由から、当初から高額の示談金を提示する必要があることが考えられます。
また、前科がある場合には、再犯の可能性が高いと思われてしまいなかなか示談に応じてもらえないことが想定されるなど、示談のハードルが高いため、高額の示談金が必要になる可能性があります。
5. 示談交渉から示談までの流れ
①弁護士が捜査機関に連絡する
不同意わいせつ事件の場合、被害者は加害者に恐怖心を抱いていることが多く、直接連絡を取りたくないと考える場合がほとんどで、ご自身で連絡を取ってしまうと、逆に事態が悪化してしまうことになりかねません。
仮に連絡を取れたとしても、被害者と加害者という立場の当事者同士が冷静に交渉し、納得して示談できる可能性はかなり低いでしょう。
また、既に被害届が出されている場合には、弁護士であれば捜査機関(警察や検察)に連絡をし、被害者の同意が得られれば、被害者の連絡先を教えてもらうことができます。
相手の連絡先が分からない場合でも、警察や検察が示談交渉のために加害者に被害者の連絡先を教えてくれることはないため、示談交渉をご自身で行うことのハードルは高いといえます。
被害者の連絡先が分かっている場合でも、捜査の初期の段階で、弁護士警察や検察に示談交渉をしている旨を弁護士から伝えることができるというメリットもあります。
弁護士が代理人に就いていることを捜査機関が把握することにより、捜査機関としても逮捕の必要性がないと判断し、逮捕を免れることのできる可能性があります。
②弁護士が被害者に連絡する
被害者の連絡先が把握できたら、弁護士から被害者に対し直接連絡をとり、示談交渉を開始します。
被害者との示談交渉の仕方は、直接会っての交渉、電話やメールでの交渉など様々です。
この際には、加害者の謝罪の意思を伝えるなど、被害者の処罰感情に配慮しながら交渉を行っていくことが重要となります。
③示談書の作成
被害者と示談の内容について合意ができた場合には、示談書を作成します。
示談書は、その名のとおり示談の内容を書面にしたものです。
示談金の支払いに関する事項や、上で述べた宥恕事項のほかに、被害者から、加害者が二度と被害者に接触しない(直接会ったり、電話やメールをしないなど)ことを約束する「接触禁止条項」を入れることを求められることもあります。
また、せっかく示談をし、刑事事件について「処罰を求めない」ということを約束してもらったのに、民事事件として別途損害賠償請求をされないよう、清算条項を入れることも必須です。
清算条項とは、今回の不同意わいせつ事件について、示談金の支払いのほかには、何ら支払う必要がないこと(=全て清算がされていること)を確認するための文言です。
示談書の内容を被害者と確認できたら、示談書2通を作成し、当事者がそれぞれ署名・捺印します。
この署名・捺印の完了により、示談が成立します。
④示談金の支払い
示談書には、被害者と合意した示談金の支払い期日も記載します。
示談書への署名捺印後、決められた期日までに確実に示談金を支払う必要があります。
通常、示談が成立した日の翌月末日などに一括で支払う場合が多いですが、どうしてもお金がないなどの場合には、被害者との間で分割払いを前提に交渉をすることもあります。
ただし、分割の場合には、一括で支払う場合と比べて、示談金を増額するよう求められる場合があります。
⑤捜査機関への示談書・不起訴意見書の提出
示談の成立・示談金の支払いが終わった後は、それを捜査機関に報告することが必要です。
せっかく示談をしても、それが捜査機関に伝わっていなければ意味がないので、確実に伝える必要があります。
示談が成立したことを客観的に示すためにも、示談書の写しを速やかに捜査機関に提出すべきです。
また、既に事件が検察官に送致されている(警察が検察に対し事件の記録を送付することをいいます。検察に事件が送致されると、検察が捜査を開始し、起訴・不起訴の判断をします)場合には、不起訴意見書を提出するとよいでしょう。
不起訴意見書とは、不同意わいせつ事件について不起訴とすることが相当であることの意見を述べる書面です。
示談が成立していることについてもこちらの書面に記載し、不起訴にすべきであるということを書面で主張します。
検察が捜査を開始している段階では、示談が成立したことのみをもって必ず不起訴になるわけではありませんので、不起訴意見書の提出も非常に重要になります。
弁護士に示談交渉を依頼することで、示談交渉だけではなく、警察や検察とのやり取りや、不起訴意見書の提出までを全て一任できます。
6. まとめ
不同意わいせつ事件の場合には、示談ができるかどうかが非常に重要となります。
早期に対応し示談をしないと、逮捕されてしまったり、起訴されてしまうなど、取り返しのつかない事態になりかねませんので、被害者から被害届を出すなどといわれている場合には、お早めに弁護士にご相談ください。