子の面会交流について取決めがなされたにもかかわらず、取決めに反し面会交流を拒否されているという場合には、強制執行(間接強制)ができることがあります。
本稿では、間接強制が認められる条件と間接強制の申立方法を弁護士が解説します。
1. 面会交流とは
面会交流とは、子と離れて暮らしている父母の一方(非監護親)が、子と直接会ったり、電話、手紙、メールのやりとりをするなどして交流を図ることをいいます。
子の健全な発達・成長のためには、離れて暮らすことになった親子が定期的・継続的に交流を図ることが重要ですので、離れて暮らす親と子の権利として面会交流が認められています。
裁判実務では、明らかに子の福祉(利益)を害する場合でない限り、面会交流(直接交流)を認めるべきであるとされており、広く面会交流を認める運用がなされています。
2. 強制執行
強制執行手続とは
強制執行手続とは、債務名義を取得している(勝訴判決を得たり、裁判上の和解や調停が成立している)にもかかわらず、相手方が判決で命じられた内容や和解又は調停で決められた義務を履行しなかった場合に、裁判所が債権者の権利を強制的に実現させる手続のことです。
直接強制
直接強制とは、強制執行手続のうち、裁判所が直接、強制的に債権者の権利を実現することをいいます。
例えば、お金を借りた者が貸主にお金を返済しない場合に、裁判所が借主の預貯金や給与等を差し押さえて、これを貸付金の返済に充てることは直接強制に該当します。
では、面会交流は直接強制をすることができるのでしょうか。
結論から申し上げると、面会交流の場合、直接強制は認められません。
理由は、面会交流は直接強制に馴染まないためです。
すなわち、裁判所が強制的に子を連れ出して非監護親と交流をさせたとしても、子の健全な発達・成長のためにという面会交流の趣旨に沿った交流を実現することはできず、むしろ、子が面会交流を嫌がるようになってしまい、定期的・継続的な交流を阻害する可能性が高いためです。
したがって、面会交流の強制執行としては、直接強制ではなく、間接強制を選択すべきとされています。
間接強制
間接強制とは、裁判所が、判決や和解で定められた義務を履行しない者に対し、一定期間内に義務を履行しなければ、間接強制金の支払をするよう命ずることで、心理的プレッシャーを与え、自発的に義務を履行するよう促す手続です(民事執行法第172条)。
調停や審判で定められた面会交流の内容が履行されなかった場合、「面会交流を履行しないときは、不履行1回につき◯万円を支払え」という間接強制が命じられることになります。
間接強制金の金額は、調停や審判で定められた内容や義務者の収入等を考慮して決定されます。
面会交流の場合、婚姻費用や養育費の金額を基準にすることが多く、月額3〜10万円程度が相場と言われています。
なお、間接強制が命じられたにもかかわらず、義務を履行せず、間接強制金も支払わない場合、間接強制金の強制執行(預貯金や給与等の差押え)を行うことができます。
間接強制の注意点としては、直接強制と異なり、あくまで間接強制金の支払という心理的プレッシャーを与えるに止まるので、間接強制により必ずしも面会交流を実現させることができるわけではないという点です。
もっとも、裁判所が設定する間接強制金の金額は、義務者にとって厳しい負担といえる金額にされることが多いので、私の経験上、間接強制を命じられると面会交流を実施するようになるケースが多いです。
3. 間接強制が認められる条件
①調停や審判で取決めがなされていること
間接強制が認められるためには、債務名義(強制執行ができる権利)を取得している必要があります。
具体的には、面会交流の内容が調停や審判で定められていることが必要です。
そのため、裁判外で離婚協議書等により面会交流の内容が定められており、その内容が履行されていないとしても、間接強制を申し立てることはできません。
また、貸金等の金銭債務の場合、強制執行認諾約款付公正証書(金銭債務の支払を怠った場合には強制執行ができる旨が記載されている公正証書)であれば、強制執行が可能ですが、面会交流は金銭債務でないことから、面会交流の内容を公正証書で定めていたとしても、間接強制を申し立てることはできません(民事執行法第22条1項5号)。
裁判外で面会交流の合意をしていたにもかかわらず、相手方が面会交流を実施しない場合には、面会交流の調停を申し立てて、面会交流を実施する方向で協議をしたり、債務名義を取得して間接強制が可能な状態にするようにしましょう。
面会交流調停の詳細は、「面会交流調停の申立てをお考えの方へ!調停を有利に進める方法について解説」をご参照ください。
②面会交流の履行内容が特定されていること
間接強制が認められるもう1つの条件として、裁判例では「面会交流の日時又は頻度、面会交流時間の長さ、子の引渡しの方法等が具体的に定められているなど給付の特定に欠けるところがないといえる場合」であることが必要とされています(最決平成25年3月28日)。
例えば、以下のような内容であれば、面会交流の内容が具体的に定められていると判断されます。
- 頻度:月1回
- 日時:第1日曜日、午前10時から午後6時
- 引渡場所:◯◯公園入口
一方で、以下のような内容の場合、面会交流の内容が具体的に定められておらず、間接強制が認められないと判断される可能性が高いです。
- 妻は、夫が子と、月1回程度、面会交流をすることを認め、その日時、場所、方法等については、子の福祉に配慮し、夫婦間で別途協議して定める
面会交流の履行内容が特定されていない場合には、面会交流調停を申し立てて、履行内容が特定されている調停や審判を取得することをご検討ください。
4. 子が面会交流を拒否していることは間接強制を否定する事情となるか
私の経験上、調停や審判の内容に反して面会交流を履行しないケースでは、子が面会交流を嫌がっているという理由を挙げられることが非常に多いです。
しかし、裁判例では、①面会交流を実施する内容の調停又は審判がなされている以上、監護親は子が面会交流を受け入れるよう働きかける必要がある、②子が監護親の影響を受けて面会交流に消極的になることがあり、子が面会交流を拒否している責任も監護親が負うべきである、③調停又は審判時と状況が変わったのであれば、別途面会交流調停を申し立てるなどして内容の変更等を主張すべきであるなどの理由から、子が面会交流を拒否していたとしても、間接強制を否定する事情にはならないと判断している裁判例がほとんどです。
ただし、子の年齢が15歳で、面会交流を拒否する意思が明確かつ強固であった事例では、面会交流の実施は履行不能(実現が不可能)と判断されています(大阪高決平成29年4月28日)。
子の年齢が高く、面会交流を明確かつ強固に拒否しているような場合は、間接強制が否定される可能性があることには注意が必要です。
5. 間接強制の申立方法
次に、間接強制の申立方法を紹介します。
①必要書類
- 申立書(書式は裁判所のホームページをご参照ください)
- 執行力のある債務名義の正本(調停調書、審判書、判決書等)
- 債務名義の正本送達証明書(債務名義の正本が債務者に送達されていることを証明する文書)
②申立費用
- 収入印紙2000円
- 郵便切手(詳細は申立先の裁判所にご確認ください)
申立先
調停、審判又は判決をした家庭裁判所
④手続の流れ
必要書類と申立費用を裁判所に提出し、補正等がなければ、相手方に対する審尋(裁判官が相手方の主張や意見を聞く手続)を行い、決定がなされます。
申立てに際し、裁判所から申立書の補正や追加書類の提出の指示があった場合には、裁判所の指示に従いましょう。
6. 間接強制以外の方法
①履行勧告
履行勧告とは、調停や審判で定められた面会交流の内容が履行されない場合、裁判所が相手方に面会交流を実施するよう促す手続です。
履行勧告は、間接強制の申立前に必須の手続ではありませんが、履行勧告の申出には費用が生じませんし、申立書等の書類も必要なく口頭でも申出が可能ですので、間接強制を申し立てる前に履行勧告の申出を検討するのも良いでしょう。
また、履行勧告がされたにもかかわらず、これに応じなかったという事情は間接強制金の増額事情となることがあるので、この点からも間接強制の申立てに先立ち、履行勧告の申出を行うことは有効といえます。
②慰謝料請求
前述のとおり、裁判外で面会交流に関する合意がなされていたにもかかわらず不履行となっている場合や、調停又は審判で面会交流の内容が定められていても履行内容が具体的に定められておらず給付の特定に欠けている場合には、間接強制が認められません。
しかし、間接強制が認められない場合であっても、合意していた面会交流の内容が実施されなかったことにより精神的苦痛を被ったとして、慰謝料請求が認められることがあります。
慰謝料額の相場は、合意違反の内容や面会交流を拒否している理由等によりますが、数十万〜100万円程度と言われています。
間接強制と同様に、慰謝料請求により相手方に心理的プレッシャーを与えることができるので、間接強制が認められない状況の場合は、慰謝料請求を検討されると良いでしょう。
また、間接強制が認められる状況である場合も、間接強制に加えて慰謝料請求を行うことで、更に相手方にプレッシャーを与えることができるので、有効な方法といえます。
7. まとめ
合意された面会交流が実施されない場合、間接強制は面会交流を実現するための有力な方法の1つとなりますが、そもそも間接強制が認められる条件を満たしているか、条件を満たしていないとしてどのような手段を取るべきかを検討する必要があります。
このような事項を検討するに当たっては、専門的な知識や経験が必要となる場合があります。
当事務所はこれまで面会交流に関する相談を多く承っておりますので、面会交流の不履行でお困りの方はお問い合わせください。